クァルテット・エクセルシオ第14回京都定期演奏会

引き続き室内楽通いを続けていますが、11月8日は思い切って新幹線に乗ってしまいました。京都で行われるクァルテット・エクセルシオの定期演奏会を聴くためです。
エクは年に2回の定期演奏会を東京で主催していますが、春の会は札幌で、秋は京都でも東京と同じプログラムで開催することが恒例。私共も殆どは東京の定期に出掛けているのですが、今年の秋(11月11日)は日生劇場のオペラと重なってしまい、断念せざるを得ないと諦めていました。ところがよくよくチラシを眺めていると、秋の京都は平日のマチネーじゃありませんか。これなら日帰りで出掛ければ、翌日の日本フィル定期も問題無し。そうだ、京都に行こう、とJRの回し者のようなセリフを思いついて昨日の参戦となった次第。会場は京都御所の前にある京都府立府民ホールの通称アルティ。アクセスも良し、季節も良し。

ハイドン/弦楽四重奏曲第31番変ホ長調 作品20-1
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調「ラズモフスキー第3番」作品59-3
     ~休憩~
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第13番ト長調 作品106

ということで、一度は断念したプログラムでしたが、今年も聴くことが出来ました。折角京都まで出掛けるので、速い時間に出掛けてその辺を散策し、14時開演に間に合わせればよろしい。エクを支援するグループが同じく東京から遠征するという話を聞きつけ、彼等と昼食を共にすることにも合意。それまでの3時間を会場にも近い祇園・東山地区で過ごすことにしましょう。
地下鉄烏丸線で四条駅下車、阪急電鉄京都本線(こちらは烏丸駅)に乗り換えて隣の終点・河原町駅で地上に上がります。鴨川を渡って四条通りから観光客の多い花見小路に折れ、建仁寺方面へ。建仁寺の手前にあるのが、目指すフォーエバー現代美術館。何故ここを選んだのかと聞かれれば、単に申し込んだ新幹線の切符に開催中の草間彌生展の入場チケットがサービスで付いていたから。今回はメリットを100%利用した小旅行でもありましたとさ。

この美術館(施設そのものが祇園の歌舞練習場の一角なのだそうな)で開催されていたのは期間限定の催し(来年2月まで)だったそうで、草間ワールドに触れ、美しい庭園を散策している内に時間は瞬く間に過ぎます。元来た経路ではなく、次は鴨川に面した祇園四条駅で京阪電鉄本線に乗り、二つ目の神宮丸太町。ここが昼食の待ち合わせ場所がある最寄り駅で、鴨川を渡って直ぐ、東京からの応援ツアーに合流。美味しくランチを頂いてから目的のアルティに到着しました。
ホール前では関西方面在住の旧知の顔が既に出揃っており、旧交を温めているうちにコンサート開演の時間に相成りました。で、ここからが感想文です。

秋定期はハイドン・ベートーヴェン・ドヴォルザークという弦楽四重奏の王道プロ。エクの今年のテーマがドヴォルザークなので、今回は最高傑作と評するファンも多い作品106。意外にもエク初挑戦なのだそうです。
ラズモ3番は、この夏名古屋の宗次でも聴いたばかりですし、他に何度もエクセルシオで聴いてきた定番。この2曲だけでも相当にヘヴィーな定期ですが、今回は更にハイドンのレアな初期クァルテットが冒頭に置かれていました。

そのハイドン、作品20は「太陽四重奏曲集」として名前は有名ですが、ナマで聴く機会はそう多くはありません。私が通っているサルビアでも20-4をロータスで、20-5はライプツィヒとキアロスクーロで2度聴きましたが、20-1は初体験だと思います。その前に晴海のSQWにも足繁く通っていましたが、当時の演奏会の記録を取っていないので、実体験があったのかどうか、判然とはしません。そもそも強く印象に残るような作品でもないと思いますがどうでしょうか。ハイドン全曲に挑戦した古典四重奏団なら、当然ながらやっているでしょうが・・・。

今回改めて20-1を味わいましたが、チョッと変わった作品ですね。現代の感覚では、ということですが、例えば第1楽章、第2ヴァイオリンが出てくるのは提示部が始まって7小節も経過してから。第1主題と見做される一節の締めくくりにチェロの3連音符上行動機が短く出るのですが、この動機は二度と出てきません。エクは提示部を繰り返しましたので、このパッセージは2回聴けましたが、こんな扱いって、ハイドンでは珍しいと思いました。(知識不足なので他にあるのかもしれませんが)
第2楽章はメヌエットで、トリオ部も変わっています。ここではヴィオラが長々とお休みで、トリオ後半の最後でチョロッと参加するだけ。いっそのこと弦3本で通せばそれこそトリオになるのに、そういうことでもない。

第3楽章もアフェットゥオーソ Affetuoso という見慣れない表情記号が付いていて、そもそもテーマの区切りがハッキリしません。最初のテーマはどうやら7小節単位のように聴こえますが、いつも一定ではありませんね。この楽章は4人が終始弾きっ放しで、どうも形が見えてきません。何となく眠気を誘うのはその所為かも。
フィナーレのプレストもリズム構造が捉え難く、2拍子系かと思えば3拍子系のようにも響く。変なのぉ~、と思っている内に全曲が終わってしまいました。
ハイドンが次の曲集・作品33で「全く新しい手法で書いた」と明言していますから、作品20という曲集は、弦楽四重奏の世界でもソナタ形式と言うジャンルにとっても分水嶺なのかも知れませんね。

続くベートーヴェンは改めて書くまでもないでしょう。エクセルシオのラズモフスキーは練達の演奏、円熟の響きと言うべきか。
今回は早目に入場の列に並んだため、お気に入りの2列目中央辺りに陣取りましたが、このホールの響きの豊かさと大きな空間を初めて体感しました。開幕直前に後ろを見ると、平日のマチネーにも拘らず客席は相当数が埋まっています。演奏会後にロビーでの会話を耳にすると、このホールには固定した室内楽ファンが多いそうで、京都のクラシックの底上げに寄与しているのだそうな。ホール開館10周年を記念して結成されたアルティ弦楽四重奏団(豊嶋・矢部・川本・上村)の絶大な人気と信頼が産んだ音楽風景と見ました。この日のベートーヴェンにもドヴォルザークにも大きな声援が飛んでいましたっけ。

そのドヴォルザーク、先日も鶴見でウィハンQによる模範的とも言うべきお国モノに接しましたが、エクも中々どうしてドヴォルザークの核心に迫った演奏。何とも郷愁を誘うドヴォルザーク節には、日本人にも大いに共感できる心情が宿っていることを改めて確信した次第。
アンコールもやはりドヴォルザークから、糸杉の第5番がしみじみと演奏され、ヴィオラの吉田に大声援。

コンサート終了後も、サイン会の傍らに再会や邂逅を楽しむ和がいくつも出来、アフター・コンサートも延々と続いていました。こんな光景が見られるのもエクならではでしょう。
我々もコンサート後の軽食パーティーに参加し、時間も良し、午後7時の新幹線で帰路に就きました。慌ただしくも楽しく充実した京都日帰り旅です。

 

 

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