名古屋で梯子1

3月10日、この日は京響名古屋公演を聴きに行く予定で、割安切符をゲットする関係上、朝早い新幹線に乗車。演奏会までの時間をどう潰すかに頭を悩ませていましたが、運は自ずと開けるもの、前日にトリトンで出会ったヘヴィー・コンサートゴアーのY氏から“宗次ホールでこんな会があるよ”とご教示頂いたのがこれ。予報通り雨が降り出したのを幸い、地下鉄東山線で二つ目の栄で下車、宗次→愛知芸劇の梯子を決め込みました。

ソフィー・ダルティガロング ファゴット・リサイタル

ヴィヴァルディ/チェロ・ソナタ第7番イ短調RV.44
J・S・バッハ/無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調BWV1013
テレマン/ファゴット・ソナタ へ短調 TWV41:f1
     ~休憩~
タンスマン/ファゴットとピアノのためのソナチネ
デュティユー/サラバンドとコルテージュ
ビッチュ/バスーンとビアののためのコンチェルティーノ
サン=サーンス/バスーンとピアノのためのソナタ ト長調作品168
 ファゴット/ソフィー・ダルティガロング Sophie Dartigalongue
 ピアノ/沢木良子

午後2時開演のリサイタル、ネットで宗次ホールのツイッターを検索すると「当日券あり」とのこと。何の予備知識もなくホールの前売りカウンターで1階後方の中央席をゲットし、開場待ちの列に並びます。外は雨なので、濡れずに待てる選択。

ファゴットのリサイタルそのものがレアな上、曲目もほとんど知らないものばかり。簡単なプログラムと筆者不詳の曲目解説を頼りに2時間弱の演奏会でした(実際は1時間40分ほど)。
チョッと聞いただけでは国籍が判らないファゴット奏者、1991年フランス生まれの美女で、今やウィーン・フィルの首席とのこと。最近は海外のオケに出掛けることもなく、その辺りはチーとも知りませんでした。そう言えば最近、フランス人女性奏者がウィーン・フィルの首席フルートに合格しなかったという噂を聞きましたが、理由はフランス人だから? これってダブル・スタンダードじゃないの? ウィーン・フィル。何かおかしなオケですよね。
そんなことを噂し合いながらホール階の下で待っていると、当の本人が食事に行く様子で階段を下りてくるのに遭遇。チラッと目が合ってニッコリされましたが、これだけでダウンしてしまったメリーウイロウではあります。

イタリア語のファゴット Fagott は(ラ・ボエームの歌詞に出てきますね)、英語でバスーン Bassoon 。楽器の事は素人で分かりませんが、確かドイツ式とフランス式の2種類があったのじゃないでしょうか。現在の主流はドイツ式で、多分フランス人のダルティガロングが吹いていたのはドイツ式だと思われます。フランス式はバソンと呼ばれていて、昔のパリ管などの録音に残っている明るく表情豊かな音。聴いた印象、ウィーン・フィルの首席ということからしても、多分ドイツ式の楽器と想像しました。

それでも流石にフランス人、いやウィーンだけじゃなくベルリン・フィルのテストにも合格したというだけあって、何とも柔らかい音色と唖然とするようなテクニックが見事。2013年のミュンヘン国際コンクールで1位無しの2位を受賞した名手の妙技に聴き惚れた時間でした。
彼女、最初はギターとクラリネットを学んだそうですが、2003年からファゴットを始めた由。そりゃそうでしょう、かなり持ち重りのする楽器ですから(見た目からして多分)、子供じゃ無理。子供用の小型ファゴットなんて聞いたことありませんしね。
ピアノの共演は、桐朋を卒業してフランスに留学、パリ国立高等音楽院ピアノ科と室内楽科を最優秀で卒業した沢木良子。現在は桐朋で非常勤講師を務めてもいるそうな。PMFの公式ピアニストでもあります。

上記プログラムを見て直ぐに判るように、前半はバロック音楽、後半はフランス近代の作品。バロック作品ではテレマンだけがファゴットのためのオリジナル曲で、ヴィヴァルディとバッハは夫々チェロ、フルートの作品をファゴットで演奏したもの。
記録のために簡単に触れておくと、
最初のヴィヴァルディはラルゴ→アレグロ・ポーコ→ラルゴ→アレグロの緩急緩急の4楽章制。
バッハ作品のオリジナルは有名な無伴奏フルート・ソナタで、アルマンド→クーラント→サラバンド→プレー・アングレーズの舞曲による組曲。これは無伴奏で、ピアノはお休み。
前半で唯一のファゴット・オリジナルのテレマンは、リコーダーで演奏することも可能。こちらはアレグロ・コン・モート→アリア、ラルゴ・カンタービレ→スケルツォ、モルト・ヴィヴァーチェの3楽章で出来ています。

前半は心地良いファゴットの音色についウトウトしかけましたが、後半は目が覚める様なフランス近代曲がズラリ。どれもカデンツァ風のソロが登場し、ダルティガロング女史を堪能。
4曲の中で多分(CDなどで)聞いたことがあるのは最後のサン=サーンスだけ。特に3人目のビッチュという作曲は初めて聴く名前でした。そのビッチュ Marcel Bitch (1921-2011) はトゥールーズに産まれてパリに没した作曲家で音楽理論家。この日演奏されたコンチェルティーノはピアノ伴奏がオリジナルですが、多数の打楽器を含むオーケストラ版もあるそうです。

タンスマンはポーランド生まれのアレクサンドルの方で、ユダヤ系だつたためにナチスから逃れてアメリカに亡命。その時にヴィザ取得に尽力したのがチャールズ・チャップリンだった、ということが曲目解説に書いてありました。戦前に来日してN響と自作を共演したほか、昭和天皇のために御前演奏をされたそうな。

ということで珍しいファゴット作品を7曲も楽しみましたが、帰京してからネットで検索してみると、全ての作品を閲覧することが出来ました。
バッハ、テレマンとサン=サーンスは無料サイトのペトルッチでダウンロードできますし、ヴィヴァルディ、タンスマン、デュティユー、ビッチュは楽譜閲覧有料サイトの nkoda で。しかもビッチュはピアノ版とオーケストラ版の2種類も。(ビッチュのものでは理論書も読むことが出来ます)
タンスマンはエシック社、デュティユーとビッチュは共にアルフォンス・リュデュック社の譜面で。早速自分用のクラウドにダウンロードし、何れ音源を探してスコアを見ながら鑑賞し、ダルティガロングを思い出すことにしましょう。

全プログラムを吹き終え、満場の拍手に応えて日本語で“ありがとうございます”。ここでまた大きな拍手が起き、アンコールはフォーレの「夢の後で」をファゴットで。
演奏後、ホワイエにはサインを求める長い列が出来ていましたが、彼女は未だCD録音は無く、皆プログラムにサインして貰っていたようでした。我々は次なる開場、愛知芸術劇場コンサートホールへ向けて、ワン・ブロック移動します。では、

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