第379回・鵠沼サロンコンサート
先週末のトリトン、名古屋日帰りから一日置いて、3月12日の火曜日は藤沢市鵠沼海岸のサロンコンサートに出掛けてきました。この日は穏やかに晴れ、いよいよ春を本格的に実感できる一日でもありました。
去年までは1・2月もマチネー版のサロンコンサートが開催されてきた鵠沼ですが、諸般の事情で2019年の冬は休演。今年に入って最初のサロンとなります。
鵠沼では年に一度程度のペースで若い演奏家、将来音楽界を背負って立つような逸材になると期待される新人を紹介し、「新しい波」と称してシリーズ化してきました。この日のプログラムには明記されていませんでしたが、サロンのアーカイヴ等を検索すると、確か昨日は新しい波シリーズの24回目だったと思われます。ヴァイオリンの毛利文香、ピアノの桑原志織の両名が鵠沼初登場。プログラムも本格的、二人の音楽性を披露するに不足ない以下のもの。
≪新しい波 毛利文香 ヴァイオリン・リサイタル≫
モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第41番変ホ長調K481
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番ホ短調 作品27-4
~休憩~
ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタ
ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調 作品108
ヴァイオリン/毛利文香(もうり・ふみか)
ピアノ/桑原志織(くわはら・しおり)
最初に二人のプロフィールを記すと、先ずヴァイオリンの毛利は2010年の日本音楽コンクール第3位の受賞者で、2012年にはソウル国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で日本人として初めて最年少で優勝。更にパガニーニ国際で2位、エリザベート王妃でも6位と続き、2015年9月からはドイツ・クロンベルクアカデミーに留学して研鑽を積んでいる方。慶応義塾大学文学部卒業という変わり種でもあります。既に様々なコンサートで名前を目にする方で、最近の活躍は公式ホームページ、ご自身のツイッターなどでチェックしてください。私はこの日の鵠沼が初体験。
ピアノの桑原は2014年の日本音楽コンクールで2位、ルーマニア国際音楽コンクール1位など、これまたコンクールで多数の受賞歴がある方。2018年に東京藝術大学ピアノ専攻を首席で卒業し、国内オーケストラとも多くの共演を重ね、現在はベルリン芸術大学大学院でクラウス・ヘルヴィッヒに師事されている由。ヴァイオリンの毛利とは既にコンビを組んでの演奏経験もあり、彼女の公式ホームページはこちら。
https://shiori-kuwahara-piano.jimdo.com/
ということで、今回のリサイタルでは前半に夫々の名刺代わりとでも言える様な2曲を並べ、後半は真の意味で二人の共演、競演を披露する2曲が選ばれました。もちろん音楽的にも技術的にも最高難度の4曲で、正にシリーズの趣旨にも適う「新しい波」を体験することが出来ました。平井プロデューサーの慧眼に感謝しましょう。
その平井氏が冒頭で紹介されていたように、最初のモーツァルトはヴァイオリン・ソナタと言っても、当初はピアノ・ソロにヴァイオリンがオブリガートで加わるスタイルで始まったジャンル。今回演奏された第41番はモーツァルト最後の3作品の中の1曲で、漸くヴァイオリンがピアノと対等に近い役割を担っている1曲。一般的にはジュピター主題「ド・レ・ファ・ミ」が第1楽章の展開部に登場することで有名なソナタでもあります。
続いては毛利のソロによるイザイ。事前に配布されていたチラシではバルトークの無伴奏ソナタが告知されていましたが、毛利の意向でイザイに変更された由。6曲あるソナタは夫々当時のヴァイオリンの名手に献呈されており、第4番はフリッツ・クライスラーのために書かれたもの。とは言いながら一般的なクライスラーのイメージとはかけ離れた激しい作品で、全体はアルマンド→サラバンド→フィナーレの3楽章から成ります。
毛利のソロ、全体的にテンポが速く、決然たる意志に貫かれた演奏と聴きました。3つの楽章を恰も一筆書きの如くに弾き切りましたが、ピチカートで始まるサラバンド、5拍子を主体とするフィナーレの手に汗握る展開に圧倒されました。眼前で繰り広げられるヴァイオリン1本の熱演に、聴き手は食い入るように聴き入るばかり。
供された冷たい飲み物で一息入れ、後半はヴァイオリン・ソナタというジャンルの名作が立て続けに演奏されます。
ドビュッシーは作曲者最後の室内楽作品であり、完成された最後の1曲でもあります。プログラムに表記はありませんでしたが、♭二つのト短調で始まり、最後は同名長調のト長調で終わる3楽章のソナタ。もちろん毛利・桑原の演奏は「おフランス」的な甘いものではなく、大きなダイナミズムに支えられた若々しくも挑戦的なもの。
最後のブラームスは、3曲あるどれも屈指の名曲から、唯一4楽章制を取るソナタ。ここまで演奏されてきた3曲が全て3楽章で、演奏時間的にも決して長大な作品ではなかっただけに、最後に3番を選択したのは、プログラム全体に配慮した頭脳的な選曲であったことを伺わせます。
先立って演奏されたドビュッシー同様、3度下降が作品の核になっている点も、鵠沼初登場への意欲が感じられました。
アンコールは、チャイコフスキーのワルツ・スケルツォ。チャイコフスキーにはこの名前の作品がいくつか存在しますが、もちろんアンコールされたものはハ長調の作品34。オリジナルはヴァイオリンと管弦楽のための協奏的な小品ですが、もちろんピアノ伴奏用にアレンジされた一品でリサイタルを締め括りました。
帰路、鵠沼サロンコンサートには初めて参加されたという紳士と一緒になりましたが、“こんな素晴らしい演奏家を至近距離で聴けるなんて、病みつきになりますよね~” とのこと。早速次回のサロンも予約されたそうです。クラシック音楽には余り経験がない、とのことでしたが、チャイコフスキーには協奏曲の他に「憂鬱なセレナード」とアンコールされた「ワルツ・スケルツォ」があって、1枚のCDに3曲は言っているものもありますよ、等と話している内に藤沢。また一人、鵠沼ファンが増えたことを報告しておきましょう。
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