サルビアホール 第111回クァルテット・シリーズ

今週月曜日に関西四重奏団を聴いたばかりですが、四日後の金曜日にもサルビアホールでクァルテットを楽しんできました。シーズン33の第2弾となるヴァン・カイックです。
思えばシーズン33、紹介した二団体に続いては5月にマルティヌー・クァルテットが登場しますが、この3団体は全てがサルビア初登場。偶然でしょうが、聴き手にとっても真に新鮮なシリーズと言えるでしょう。

開場時間寸前に鶴見着、2階のホワイエ・スペースに上がると、いつも立てかけてある前売り案内がありません。今日は完売ですか? と聞いたところ、残りはたった1枚で、完売ではないけれど態々前売りと書くわけにもいかず・・・という答え。見渡せば複数の外国からの聴き手も会場を待っており、Qヴァン・カイックへの期待の高さが実感できました。プログラムは王道の3曲。

モーツァルト/弦楽四重奏曲第15番ニ短調K421
ラヴェル/弦楽四重奏曲ヘ長調
     ~休憩~
ブラームス/弦楽四重奏曲第2番イ短調作品51-2
 クァルテット・ヴァン・カイック Quatour Van Kuijk

2012年に結成され、パリを拠点として活動しているフランスの団体。サルビアホールがオープンしたのは2011年でしたから、クァルテット・シリーズの歴史よりも若いグループ、時間の経過の速さに気が付きます。
若手4人、全員が黒の衣裳に身を包み、時に真っ赤な靴下を履いている人、靴紐が銀色のメンバーもいて、流石はパリジャンたちという印象ですが、それは外見のこと。最初にメンバーを紹介しておきましょう。

第1ヴァイオリン/ニコラ・ヴァン・カイック Nicolas Van Kuijk、第2ヴァイオリン/シルヴァン・ファーヴル=ビュル Sylvan Favre-Bulle、ヴィオラ/エマニュエル・フランソワ Emmanuel Francois、チェロ/フランソワ・ロバン Francois Robin 。左から順にファースト→セカンド→ヴィオラ→チェロの順に位置し、ごくオーソドックスな演奏風景です。4人の顔ぶれは彼等のホームページをご覧ください。

http://www.quatuorvankuijk.com/

結成から7年目ということで、レパートリーは拡大中ということでしょう。上記ホームページを見ても、ラヴェル以外はリストに挙がっていません。今回の日本ツアーは3か所、前日の武蔵野、日曜日の宗次が全てのようで、鶴見の他ではドビュッシーとプーランクの歌曲をクァルテットにアレンジしたものが取り上げられる予定です。日本の後はチャイナ各地を回るようですね。
CDは目下3枚で、毎年1枚のペースで録音されている由。ヴァン・カイックは確か大阪国際コンクールへに参加したことがあったはずで、今年サルビアホールで予定されている大阪コンクール優勝チクルスへの遥かな予告編と言えなくもないでしょう。

これまでフランスのクァルテットをいくつか聴いてきましたが、先入観も手伝ってか、どうしてもドイツ式のガッシリした構成とは一味違う、どちらかというとソフトな印象を持っていました。しかし今回のヴァン・カイックは、良い意味で裏切られました。
幕開けのモーツァルト、出だしこそ艶やかな弦の響きにフランス的なものを感じましたが、直ぐに彼等の構築的な音楽に惹き込まれます。それでいて杓子定規な表現ではなく、例えばメヌエット楽章など、繰り返しも最初と二度目とでは微妙に表情を替え、真に音楽的なドラマを感じさせるのでした。フランス特有のモザール(モーツァルトのフランス読み)ではなく、何処か悲しみを感じさせる素晴らしいモーツァルト。

続いては、確かサルビアでは7度目となる人気曲ラヴェル。ということは、ここで何度も接してきた様々な団体によるラヴェルですが、今回ほど見事な演奏は稀でしょう。既にCD録音もあり、恐らく結成時から取り組んできたラヴェルはほぼ完璧に仕上がっており、隅々まで彫琢されたアンサンブルは圧巻でした。
特に惹き付けられたのは第3楽章で、ここはほぼ全編が弱音器付きで奏でられます。このくぐもった響きが何ともフランス的で、後半で僅かに全員が弱音器を外して開放的な音色に変わる場面。この辺り、それまで曇っていたパリの空が一瞬だけ太陽の強い光に恵まれ、その眩しさに心が踊る、とでも言ったような感動的瞬間。そう、ラヴェルと雖も弦楽四重奏曲は純粋に絶対音楽なのですが、ヴァン・カイックの手に掛かれば、聴き手がどのようにも想像できる物語が生まれてくる。そんな見事なラヴェルに舌を巻きました。

後半はブラームス。弦楽四重奏曲という分野で、ブラームスはベートーヴェン程の人気は勝ち取っていないと思いますが、何処と無く掴み所が無いのがブラームスのクァルテットじゃないでしょうか。3曲ある四重奏の中で、確かサルビアでは未だ第3番が演奏されていないと思います。
ということで、ややインパクトの薄いブラームスですが、この日の第2番は納得の演奏。聴いていてブラームス本人の言葉を思い出しました。それは未だ若きピエール・モントゥーが私的なクァルテットでヴィオラを担当し、ウィーンでブラームスの面前でその弦楽四重奏を演奏した時のこと。ブラームスは演奏を絶賛し、“私の弦楽四重奏曲はフランス人の方が適している。ドイツ人の演奏は重過ぎるんだよ”と評したそうな。
重過ぎず、かと言ってピンボケにならない堂々たるブラームス。既成概念に縛られず、虚心坦懐に楽譜を見つめることが好結果を生んだ一例ではないでしょうか。

アンコールは(曲名はセカンドのシルヴァンが告げました)、プーランク作曲3つの歌曲から「愛の小径」(ジャン=クリストフ・マッソン編曲)。ワルツの調べという副題が付いている単独の歌曲で、1940年にプーランクより一回り年下の劇作家ジャン・アヌイの詞 Les chemins de l’amour に付けた作品。3つの歌曲とはオリジナルではなく、あくまでも編曲者であるマッソンがプーランクの歌曲からランダムに3曲を選んだもののようで、武蔵野文化会館でのプログラムの本編で演奏された曲集の1曲と思われます。
これこそフランスの響き。小洒落たシャンソンの世界そのもので、ブラームスからの気分転換も見事。ヴァン・カイック、また一つ素晴らしいクァルテットを体験することが出来ました。恒例のサイン会、いつも以上に長い列が出来ており、ファンからも高い支持を得たことが証明できるでしょう。

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