日本フィル・第709回東京定期演奏会

4月初旬に第6回ヨーロッパ公演を行ってきた日本フィル、その凱旋公演を兼ねた4月東京定期が19・20の両日、赤坂のサントリーホールで開催されました。
って、まるで新聞記事みたいですが、本来は金曜会員の私、クァルテット・ヴァン・カイックの演奏会と重なってしまったため、土曜日に振り替えて2日目公演を聴いてきました。

武満徹/弦楽のためのレクイエム
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37
     ~休憩~
シベリウス/交響曲第2番ニ長調作品43
 指揮/ピエタリ・インキネン
 ピアノ/ジョン・リル
 コンサートマスター/木野雅之(ベートーヴェン)、扇谷泰朋(武満、シベリウス)
 ソロ・チェロ/菊地知也(ベートーヴェン)、辻本玲(武満、シベリウス)

コンマスとソロ・チェロの名前を見ても分かるように、日本フィルの看板であるコンサートマスター二人と首席チェロ二人が共にヨーロッパ公演に参加したことでもあり、4月定期はツアーと同じメンバーが舞台に並ぶという豪華版の日フィル。正に2+2という珍しい光景も見られました。もちろんプログラムもヨーロッパに持って行ったものと同じ。ベートーヴェンでソロを受け持つリル博士は、確かヨーロッパ最終公演のエディンバラで合流したはずです。

土曜日はプレトークが行われるということで、少し早めに赤坂着。今回のヨーロッパ・ツアーに同行取材された池田卓夫氏の登場を待ちます。
先ず、配布されたプログラムの曲目解説に目を走らせると、その出だしに吃驚してしまいました。池田氏自ら「禁じ手」と告白しているように、解説にはいきなり個人的な体験談は書かないものでしょう。しかし読み進んでみると微笑ましい内容で、それだけ書き手のクラシック音楽愛が溢れているということ。「似たような体験」は私にもあり、小生も渡邉暁雄/日本フィルのシベリウスをテレビ観戦していた世代でもあります。池田氏って、こんな側面があったんですねぇ。

そのプレトーク、作品解説というよりはヨーロッパ・ツアーでの逸話満載で、ジョン・リルが遥か昔にイギリスで渡邉暁雄と共演したことがある、という秘話も紹介してくれました。氏のレポートは日本フィルのホームページにも掲載されており、今回のプログラム誌にも速報として写真が掲載されています。もちろんホワイエにも大型パネルにツアーの写真が展示されており、多くの方が見入っていました。

冒頭に武満作品が置かれているのは、もちろん海外に日本の作品を紹介するという意味合いもありましょう。加えてフィンランドでの公演は日本・フィンランド外交関係樹立100周年の記念公演も兼ねており、フィンランド出身の指揮者が日本の作品を演奏することは、単なる社交以上のメッセージを含んでいることになります。
プレトークで池田氏も指摘されていた通り、ツアーを重ねてインキネンとオーケストラの関係は一層濃密度を増し、インキネンの武満解釈も深みを加えていったことが、作品の冒頭からシッカリと聴き手に伝わってきました。“武満作品がより色っぽく聴こえるはず”という池田コメントは、正に正鵠を射たものと言えましょう。

続くベートーヴェン。鬼に笑われる覚悟で言えば、来年はベートーヴェンの生誕250年を祝す記念の年。日本フィルでもインキネンによるベートーヴェン・シリーズが計画されており、今回の第3ピアノ協奏曲はその予告編でもあります。
今年75歳を迎えたばかりのリル、ベートーヴェンは協奏曲もソナタも全曲を録音しており、レパートリーの中核を形成している作曲家。池田解説による肘から下のパワーだけで大曲を堂々と弾き切るテクニックにも注目です。テンポは悠揚迫らず、私の世代には泣いて喜ぶ巨匠スタイルのベートーヴェンを満喫させてもらいました。インキネンのベートーヴェンも恰幅が良く、時に強打されるティンパニに思わず手をに汗を握ります。

後半はシベリウスの第2交響曲。インキネン/日本フィルは既に東京・横浜を横断する形でシベリウス交響曲全曲演奏会を敢行していましたし、第2交響曲は九州ツアーでも聴きました。これも池田氏の言葉を借りれば、これまで以上に攻めの姿勢に貫かれたシベリウスで、渡邊暁雄の悲願でもあった「日本フィルがフィンランドでシベリウスを奏でる」夢の実現に相応しい演奏でもありましよう。
これ以上付け加える必要はありませんが、第2楽章の練習記号Eの3小節前から始まる ppp の殆ど聴こえないほどの再弱音の息詰まるような緊張感、第3楽章冒頭の両ヴァイオリンの分奏が鮮やかに弾き分けれられていること、全体を通して登場するピチカートの地を這うような迫力等々、これこそツアーを通して演奏を積み重ねることによって獲得された究極のアンサンブルと断言できるでしょう。精鋭を集め、たっぷりと時間を掛けて演奏を、解釈を切磋琢磨して達成された成果がどんなものか。クラシック音楽の存在意義も含め、もう一度考え直す機会かもしれませんね。

今回のヨーロッパ・ツアーは4月2日からスタートしましたが、14日で終了ではなく、実は来週の横浜定期まで続いていると思います。そのグランド・フィナーレ、私も自分の耳でしっかりと受け止めましょう。

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