日本フィル・第346回横浜定期演奏会

先週の東京に続き、昨日は日本フィルのヨーロッパ・ツアー凱旋公演とも言うべき横浜定期が行われました。但し会場はホールの都合により、いつものみなとみらいホールではなく、山下公園の眼前に位置する神奈川県民ホール。
平成から令和へと御代替わりを含む10連休の初日でしたが、首都圏は季節外れの北風が強く、襟を立ててのコンサート行でもあります。

ラウタヴァーラ/In The Beginning
武満徹/夢の縁へ
     ~休憩~
チャイコフスキー/交響曲第4番へ短調作品36
 指揮/ピエタリ・インキネン
 ギター/村治佳織
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/菊地知也

横浜のプログラムは、日本フィルが主にドイツで披露したプログラムを若干変更したもの。ラウタヴァーラとチャイコフスキーは海外遠征プロでしたが、間に挟まれた武満作品は、横浜オリジナルとのことです。
今月のオーケストラ・ガイドは、無事にというか予定通り音楽評論家の奥田佳道氏。横浜定期にしては前半にモダンな感覚の作品が並ぶプログラムを判り易く、簡潔に紹介してくれました。以下は要旨。

冒頭に置かれたラウタヴァーラ、奥田氏は年号を敢えて昭和3年生まれと紹介されましたが、この辺りも話題になっている元号への興味を擽ります。シベリウスと同じフィンランドの作曲家で、指揮者インキネンだけでなく、日フィル創設指揮者の渡邉暁雄氏を意識した選曲で、当然ながらフィンランド公演も含む今回のヨーロッパ・ツアーに籠められたアピールでもありましょう。
2015年に作曲された本曲は、インキネンが関わっているオーケストラであるザールブリュッケン放送フィル(ドイツ)、日本フィル、プラハ交響楽団(チェコ)、キュミ・シンフォニエッタ(フィンランド)との共同委嘱で作曲され、既に2017年11月に日本フィルの第695回定期でアジア初演されています。私も当然その初演を聴きましたから、今回が二度目の体験でした。
奥田氏はこの作品が大変素晴らしい、と語り掛け、暗に理解不能な響きが多い現代音楽とは違う、ということを強調されます。特に終わり方に注目してください、とのこと。インキネンがラウタヴァーラを最も積極的に紹介している指揮者であることも付け加えておられました。

武満作品に付いては、氏が直接に武満氏から伺った話として、最愛の楽器がギターだったことを紹介。武満にはギターをソロとした管弦楽作品が2曲あり、一つはホアン・ミロの絵画に着想を得た「虹へ向かってパルマ」。そしてもう1曲が今回の「夢の縁へ」であると指摘され、「縁」は「ふち」ではなく「ヘリ」と読みます、という大人の注意も。
かつてジョン・ウイリアムスや福田進一も演奏したことにも触れ、この曲の演奏には二つのアプローチがあるそうな。一つはギターをソロとする協奏曲としてギタリストにスポットを当てる演奏。もう一つがドビュッシー(牧神)やラヴェル(ダフニスとクロエ)のように、ソロ楽器をあくまでもオーケストラの一員として溶け込む様なスタイル。果たして今回はどのような演奏になるか、という聴き所を指摘されました。

最後のチャイコフスキーは、恐らく多くの横浜会員が記憶されているインキネンと日本フィルが出会った作品。2008年4月の定期は、私も興奮気味にレポートしたことを思い出します。もちろん奥田氏も聴かれたそうで、11年を経ての再演がどのように変化・深化したかが聴き所でしょう。

ということで本番。東京に続き、横浜でもツアーの成果が堂々と披露されました。それは先週の東京定期でも触れましたから、敢えて繰り返す必要もないでしょう。細部まで諦念に磨き上げられたアンサンブル、深く静かに浸透したインキネンの意図はほぼ完璧に表現し尽され、インキネン時代の日本フィルが到達した風景を見ることが出来ました。

ラウタヴァーラについては、初演時には耳だけが頼りでしたが、現在はブージーからスコアも出版されており、楽譜は nkoda で閲覧も可能。唐突な終結、そこに至る進行過程も手に取る様に聴き取ることが出来ました。
夢の縁へは、プログラム誌には短く触れられていましたが、鈴木一郎とリエージュ国際ギター・フェスティヴァルの委嘱により作曲された作品。タイトルはベルギーの画家ポール・デルヴォー Paul Dervaux (1897-1994) の作風に基づくもので、デルヴォーにも武満にも「夢」をテーマにしたシリーズ作品があるという共通点があります。デルヴォーがリエージュ出身という繋がりもあるのですね。
チャイコフスキーは前回以上にスケールが大きく、最後の3段ギア加速が聴き手の興奮を頂点へと導きました。同じ横浜定期で聴いたばかりのラザレフと並ぶチャイコフスキー第4の双璧か。

アンコールはソリスト、オーケストラ共に用意されており、前半の武満の後では同じく武満徹がギター・ソロのためにアレンジした曲集「ギターのための12の歌」から「オーヴァー・ザ・レインボウ」と「イエスタデイ」を、続けて。
前者は1939年にハロルド・アーレンが作曲したもので、後者は1965年のビートルズ(レノンとマッカートニー)作品。大きなホールに一つだけ焦点が当たったようなギター・ソロは、ほとんどの昭和の世界。このギターによる歌曲集は1977年に纏められたもので、アーレンにしてもビートルズにしても、そして武満にしても昭和を代表する音楽なんですねェ~。平成の終わりに昭和を懐かしむ、老人ならではの感慨でしょうか。

オーケストラのアンコールは、確か11年前と同じシベリウスの悲しきワルツ。このアンコールこそ、今回の海外ツアーのエッセンスが溢れんばかりに詰まったプレゼントだったと言えるでしょう。
絶品の弱音、幽けし息遣い、瞠目のトレモロ、変幻自在のテンポ等々、4人のヴァイオリンが珠玉の小品を締め括ります。
今回の横浜定期、ヨーロッパ遠征と同じメンバーが並び、冒頭のリストには掲げませんでしたが、コンマスは木野・扇谷の両氏、チェロのトップにも菊地・辻本の二人が並ぶ2+2の豪華キャストだったことを追加しておきましょう。

熱いコンサートが終わり、ホールを出て思わず向かいの山下公園へ。横浜港のイルミネーションを楽しみましたが、思わず寒さに震え、急ぎ足で日本大通り駅に急ぐメリーウイロウでした。

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