今日の1枚(20)

今朝は珍しくオナガの軍団に出遭いました。この鳥はカラスの仲間ですが、黒一色のカラスよりはるかに美しく、水色に黒帽というダンディ。
しかし鳴き声は、やっぱりカラスだ。ギャー、ギャーとだみ声。
そこで今日の1枚は、だみ声の雄カラヤンに登場願いましょうか、って強引な枕ですけど。
①モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク K525
②グリーグ/ホルベルクの時代より 作品40
③プロコフィエフ/古典交響曲 作品25
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のディジタル・ステレオ録音。カラヤンのディジタルとしては最初期のもので、CD時代の幕開けにリリースされた1枚です。
従ってDGの品番も 400-034-2 という最初期のナンバー。これがオリジナルのカップリングです。
この頃のブックレットにはあまり詳しいデータは記載されていません。別資料も参考にしたところ、3曲とも1981年2月24日、ベルリンのフィルハーモニーでの録音。オーケストラの本拠地ですね。
プロデューサーは Gunther Breest 、エンジニアが Gunter Hermans のお馴染みギュンター・コンビです。その他ディレクターという役職もクレジットされていて、これは①と②がブレースト、③は Michel Glotz ということになっています。
当然ながら弦楽合奏だけの①②と、管や打楽器も加わる③とでは若干音場に違いがあります。鑑賞には全く問題ない程度。
このカップリングは一風変わっているように思われますが、実はチャンとしたコンセプトに貫かれています。そこがポイント。
ブックレットのライナー・ノーツを書いたクリストファー・ヘディントン Christopher Headington の文章を抄訳すると、
「(この3曲に)共通するのは何でしょうか? それは“古典主義”です。モーツァルトは偉大な古典派の大家ですし、グリーグ作品は“古いスタイルで”というタイトルの付いた、18世紀の劇作家(デンマークの劇作家ヨハン・ルードヴィヒ・ホルベルク Johan Ludvig Holberg 1684-1754)へのオマージュになっています。更にプロコフィエフは、ローレンス/エリザベス・ハンソン夫妻のプロコフィエフ伝から引用すれば、ハイドンが20世紀に生きたとしたら書いたような作品、としてこの交響曲を作曲したのです」
即ちキーワードは「18世紀」。モーツァルトは正にその世紀を生きた人。
グリーグは19世紀の目から見た18世紀を、プロコフィエフは20世紀の目から見た18世紀を描いたのです。
以前は外国語のブックレットをキチンと読む習慣はありませんでしたが、時間という余裕が生まれた所為でしょう。今回も改めて目を通し、やはりCDは輸入盤に分があるな、と感じた次第。
演奏はどれもカラヤン美学に徹したもの。②などはコンサートで取り上げたことは無いと思いますが、実に譜読みが徹底しています。
①の繰り返しは基本的には省略の姿勢。但し全体の構成に配慮して、第1楽章提示部、第2楽章の最初の3箇所と短調部の繰り返し、第3楽章の全部、第4楽章の頭については実行しています。
私の考えでは、これに第4楽章提示部の繰り返しを実行すれば理想的でしょう。全部実行する必要はないと思いますし、フルトヴェングラーのようにほとんど無視というのも物足りないと思います。
これとは逆に、②の繰り返しは全て実行しています。また、第2曲サラバンドの後半、練習記号Gの5小節目の第1ヴァイオリンの旋律。手元のスコアではタタターというリズムになっているのを、カラヤンはタータタに変更しています。使用している版が違うのかも知れませんが、恐らく次の小節のリズムと整合させたものと思われます。
こういう細かい点にまで目配りするカラヤン、流石ですね。
更に面白いのは第5曲リゴードン。これは第1ヴァイオリンのソロとヴィオラ・ソロの掛け合いを他の弦楽合奏がサポートする形で書かれているのですが、カラヤンは二人のソリストを指揮者の左横に並ばせて録音しているのです。
カラヤン/ベルリンの弦楽器配置は、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラで、普通ならヴィオラの頭は右端から聴こえるはず。最後の曲だけは、ヴィオラ・ソロを左に移動しているわけ。
これは詰まり、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲をイメージさせる配置になっており、協奏交響曲というジャンルこそ、18世紀に流行した音楽スタイルなのです。
ただ聞き流せば単なるムード・ミュージックになり勝ちなCDですが、ブレーストとカラヤンが仕組んだ仕掛けに気付いてこそ、拘りの1枚と言えるでしょう。
③は極めてスタイリッシュ。「古典」を意識した名演です。繰り返しは、と言っても第3楽章と第4楽章の1箇所づつしかありませんが、どちらも実行しています。
参照楽譜
①ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.366
②オイレンブルク No.897
③ブージー&ホークス No.33

 

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