今日の1枚(9)

今朝は寒さも幾分緩んだ感じでした。世間は年末休暇に突入したようで、朝の散歩で出会うのは犬を連れた人だけ。通勤途上という人はほとんど見かけなくなりました。
読響聴きどころを書き上げてから手を伸ばしたのは、フルトヴェングラーもいよいよベートーヴェンです。
東芝EMIの TOCE-3719 。これまでの1枚で書き忘れましたが、これは東芝のハイサンプリング・レコーディングシステムHS-2088 を使用したものだそうで、これまでのものより音が良いそうです。(と言っても、当ディスクの発売は2000年6月、8年以上前のことですけどね)
フルトヴェングラーが晩年にウィーン・フィルを指揮したスタジオ録音。
①ベートーヴェン/交響曲第1番ハ長調作品21
②ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調作品60
①は1952年11月24日と27・28日、②はそれに直ぐ続いて、1952年12月1日から3日までのテイク。どちらもウィーンのムジークフェラインザールでの収録。もちろんモノラル。
①はプロデューサーもエンジニアも不明とあり、②はプロデューサーが Lawrence Collingwood 、エンジニアは Robert Beckett とクレジットされています。
これは少しおかしいんじゃないでしょうか。僅か10日ばかりの集中セッションでしょうが、片方はプロデューサーもエンジニアも明記されているのに、もう片方は一切不明とはね。
でも手元のブックレットはそうなっています。
表記のプロデューサーもエンジニアも恐らくEMIの「社員」でしょうが、会社として発表できない理由があったとしか考えられません。あるいはフルトヴェングラーとの間に何かトラブルでもあったのか。
この辺りを想像するのも1枚のディスクに拘って聴く楽しみと言えなくもありませんが。
その録音、両曲にほとんど差は無く、モノラル最後期の最優秀録音に挙げて良いレヴェルです。
フルトヴェングラーが目標としていたベートーヴェン交響曲全集の1枚ですが、第2・8・9番が未完成に終わったシリーズ。それでも他の交響曲をこれだけの音質で残しておいてくれたことは感謝しなければいけないでしょう。
フルトヴェングラーのスタジオ録音はライヴに比べると燃焼度がイマイチという評もありますが、これだけ情報量の豊富なモノラル録音に接すると、私はフルヴェンさんのベートーヴェンはこれがベストだと思います。
昨日のモーツァルト同様、繰り返しの処理が暗示的ですね。第1と第4に共通するのは、共に第1楽章の繰り返しを省略していながら第4楽章の繰り返しは実行していること。これはテープのつぎはぎで見せかけた反復ではなく、実際に演奏した反復です。
この結果、第1楽章と第4楽章のバランスが改善されていることに注目。どちらも繰り返すもの、どちらも繰り返さないものでは、どうしても頭デッカチの印象になってしまうのが古典派作品の傾向ですが、フルトヴェングラーはここに配慮したのかも知れません。
更に詳しく触れると、第1番では第2楽章の繰り返しも省略。対して第3楽章は全て実行しているだけでなく、メヌエットがダ・カーポで再現される際も前半の繰り返しを行っています。
第4では、第3楽章の前半のみ繰り返し実行。トリオに入る前に一呼吸空けるのも特徴的です。
第1楽章展開部の前打音の扱い(223小節と227小節)はフルトヴェングラー独特のもの。
所々に登場するコントラバスの音域、4弦用にオクターヴ上げる処置はしていません。ということは、5弦楽器でズッシリ重い低音を響かせてくれます。この辺りは最近流行の原典主義、かるぅ~いベートーヴェンでは決して聴けない重量感。私は断然フルトヴェングラー支持派ですね。
フルトヴェングラーの緩徐楽章の遅さは際立っていますが、特に4番は特筆もの。これだけ遅いと聴く方も疲れますが、スコアを見ればメトロノームの数字はともかくも、指定はアダージョ。
この遅さで聴いてみると、この楽章が第9の緩徐楽章を先取りしていることが良く判るじゃありませんか。
参照楽譜は共にユニヴァーサル(フィルハーモニア)、第1は No.7 、第4が No.10 。

 

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