今日の1枚(10)
三日続けてフルトヴェングラーを聴いてきましたので、今日で一応締めです。当然ベートーヴェン、行きますね。
ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」。
ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団。
1952年11月26・27日にウィーンのムジークフェラインザールで行われたモノラル録音。
プロデューサーは Lawrence Collingwood 、エンジニアは Robert Beckett ですから、昨日の1枚の第1、第4と全く同じセッションでの収録です。
11月24日に1番、26・27とエロイカ、その27日と28日で第1を仕上げているのですが、第1のプロデューサーとエンジニアが unknown というのは全く解せません。
私はフルトヴェングラーおたくでもないし、特別なファンでもありませんが、このエロイカは流石だと思いますね。モノラル最後期の最優秀録音。ベートーヴェンの一時期の典型的な演奏スタイルを知るのにこれ以上の素晴らしいサンプルは無いでしょう。
典型的演奏スタイルとして挙げられるのが、第1楽章の繰り返しは省略すること。第3、第4楽章は全て実行しています。当時、第1楽章提示部を繰り返すのは極めて稀でした。
楽譜に手を入れることも当時の慣習で、ここでは第1楽章の有名なトランペットの加筆(第655小節から662小節まで)が行われています。
あまり話題にはなりませんが、同じ第1楽章提示部の終結部(第113小節から116小節)で木管の付点音符の旋律にホルンを重ねる改訂も行っています。
(気が付いた範囲では、他の加筆はないと思います)
第3楽章のトリオに入った瞬間、慌しく譜面を捲る(恐らく弦楽器のパート)音が収録されているのも生々しくて良いですね。
第4楽章で序奏の後、ピチカートの主題が極めて遅いテンポで開始されること、それが107小節(練習記号Aから)で最初のテンポに戻ること、更に256小節で再びテンポが遅くなることが、如何にもフルトヴェングラー。
これは決して気まぐれでテンポを動かしているのではなく、Aからは展開部という解釈であり、256小節からは第2展開部とも言うべき構成であることをフルトヴェングラーが意識した結果でしょう。
即ち、通常は変奏曲という形式で説明されるフィナーレを、ソナタ形式も取り入れた構成と看做してるからに他ならないと考えられます。
楽譜をチェックしながら細部に拘って聴くと、フルトヴェングラーの譜読みの深さが明瞭に聴き取れる素晴らしい演奏。
参照楽譜 ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.9
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