フェスタ・サマーミューザ2019開幕
台風が接近する中、今年も7月27日にフェスタ・サマーミューザが開幕しています。初日の昨日は未だ雨も降らず、幸いに傘要らずのコンサートでした。
会場となるミューザ川崎シンフォニー・ホールは今年開館15周年を迎えるということで、ホールが開かれた当初から開催されているフェスタ・サマーミューザも15年目ということになります。
私も当初はこの企画に欣喜雀躍し、5年ほどはオーケストラ通し券などをゲットして足繁く通ったものでした。いずれは日本全国のオケや海外からの招待団体も参加し、期間も伸ばして年ごとにテーマを設けるなど、正に日本のプロムスになるのではと期待に胸が膨らんだもの。
ところが期待も規模も一向に拡大せず、こちらのオーケストラに対する情熱も次第に薄れ、特に震災による閉館以後は全く参加しない年が続きました。
ま、最近ではこんなものかと諦念し、数年前からは摘まみ食い程度にいくつかのコンサートを楽しんでいます。
ということで今年は、いつも聴いていないオーケストラを中心に6公演程を選択。夏の暇にして暑い時期を冷房が効いたコンサートホールで過ごすことにしています。その初日、例年の様にホスト・オケ東響が担当するオープニングコンサートは以下の若干風変わりなプログラムでした。
バリー・グレイ/ザ・ベスト・オブ・サンダーバード(ジョナサン・ノット・スペシャル・コレクション)
リゲティ/ピアノ協奏曲
~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第1番
東京交響楽団
指揮/ジョナサン・ノット Jonatha Nott
ピアノ/タマラ・ステファノヴィッチ Tamara Stefanovich
コンサートマスター/水谷晃
フェスタは東響のブラスセクションが奏でるファンファーレで賑々しく開幕するのが習い、ホールに向かう長いエスカレーターを上っているとファンファーレが聞こえてきます。
それにしてもこのプログラム、何でしょうねェ~。私は最初にスケジュール発表を見た時、真っ先に目に入ってきたのはリゲティのピアノ協奏曲。正直に言えば、これを聴くためにだけチョイスしたのでした。そのリゲティは二つ目のお楽しみで、最初は私とは無縁の世界です。
何の知識もなくプログラムを開くと、サンダーバードというのは1960年代、子供たちを熱狂させた近未来SFストーリーのテレビ番組だったのだそうな。何となくキャラクターの画像は見た記憶がありますが、60年代と言えば私は既に子供時代ではありませんでした。道理で知らないワケだ。
で、コンサートから帰って自宅で情報をググってみると、以下のようなことが判りました。なるほどノットがカタルシス的な存在、と答える訳ですね。
先ず作曲家のバリー・グレイ Barry Gray (1908-1984)という方は英国の作曲家で、年代から言えばカラヤンや朝比奈隆と同世代。映像プロデューサーのジェリー・アンダーソン製作作品の音楽を担当した、と解説されています。サンダーバードの他にキャプテン・スカーレット、謎の円盤UFO、海底大戦争スティングレイなどがある由。私はこれらのタイトルを見ても何も反応しないご隠居世代ではあります。
更にサンダーバードの情報を探していると、主人公の一人ジェフ・トレイシー隊長なる人物が人類初の月面着陸を果たした、という設定になっていることに注目。ご存知のように、今年はアポロ11号が初めて月面着陸を果たしてから丁度50年目に当たり、目下開催中の英国プロムスでも今年のメイン・テーマに据えられている話題なのです。実際に1969年に月面着陸が成し遂げられたため、サンダーバードの設定はその後変更された、ということも知りました。
更には2015年に広上淳一と東京ガーデン・オーケストラがオリジナル・スコアによる音楽集を録音したというサイトも発見。
https://columbia.jp/thunderbirds/#release
2016年の夏には、同じミューザ川崎で広上とNHK交響楽団が実際に演奏したこともあるのだそうです。これは知りませんでした。いわゆるコンサート・ポップスというジャンルでしょうか。
理屈っぽく聴く音楽ではないでしょうか、後で気が付いたのが、オーボエとファゴットの席には確か4人のサクソフォン奏者が座っていたこと。ということはオーボエとファゴットは使われていなかったのかも。そう言えば楽員が拍手に迎えられて登場し、更に大きな拍手でコンマスの入場。普通ならこれに続いてチューニングあるのですが、昨日は無かったのでは?
某テレビ番組ではないけれど “ぼーっと生きて(聴いて)んじゃねぇよ~” とでも言われるところでしょ。
今回の演奏はジョナサン・ノット・スペシャル・セレクションと題され、オリジナル・サウンドトラックよりと表記されていましたが、広上盤のオリジナル・スコアと併せ、調べる余地もありません。
つまらぬことには拘らず、会場で出会った知人からは “初めてライヴで、本格的なオーケストラ演奏で聴いて大感激” という感想を頂き、さもありなんと感服した次第。初めて聴きましたが、ノットって随分と「攻めてる」指揮者なんですね。
続いはお目当てのリゲティ。リゲティと言えばノットの名前が頭に浮かぶくらい、ノットはリゲティのスペシャリストと呼べるのじゃないでしょうか。ベルリン・フィルとリゲティ作品集を録音しているほどですから。
サンダーバードからは大幅に編成が減り、オーボエとファゴットも加わってチューニングもありました、よね?
さてこの作品、何と言っても聴き所、見所は打楽器じゃないでしょうか。スコアはショット社から出版されており、ペルーサル・スコアとして無料で閲覧も可能。楽器編成を確認すると、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット・ホルン・トランペット・トロンボーンが全て1本づつなのに対し、打楽器は20種類もがリストアップされています。加えてフルートはピッコロを、クラリネットはオカリナ!!を持ち替えることになっています。
その打楽器奏者は1人か2人と記されていますが、何と今回の東響、たった一人の女性奏者がアクロバティックな快演を披露してくれました。これには唖然。因みに弦は第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン6、ヴィオラ6、チェロ4、コントラバス3と譜面に指定されています。
この女性打楽器奏者、私は東響の会員ではないのでお名前は存じ上げませんが、舞台上手の打楽器群の間を忍者の如く駆け回り、時に指揮者に横顔を向ける個所では別途用意されたテレビモニターを確認しながら叩きまくります。
叩くだけではなく、楽器の中には Sirenenpfeife, Trillerpfeife, Lotosfloete などという笛も含まれており、首から掛けた各種の笛も吹きまくるのでした。吹き叩き。
もちろん主役はピアノですが、私の眼は打楽器に釘付け。同じような感想を持たれた方も多いのではないでしょうか。演奏後のノットさん、ピアニストだけじゃなく打楽器の名手にももっとスポットライトを当ててくれればよいのに。
もう一つ文句を言えば、フェスタのプログラム解説が余りにも簡略なこと。グレイやリゲティのようなレア作品の場合、少なくとも楽器編成位は紹介して欲しいし、オーケストラのメンバー名も記載してくれないものでしょうか。そんなことは自分で調べろ、と言ってしまえばそれまででしょうが、もう少し手間をかけたプログラム造りを心がけて頂きたい、と思うのでありました。
休憩後は、唯一お馴染みのベートーヴェン。ノットの攻めるベートーヴェンを聴いていると、改めてマエストロが英国の古楽演奏スタイルの伝統、ホグウッド、ガーディナー、ノリントン、ハーディンクの流れを継承する指揮者であることに気が付きました。
ベートーヴェンの斬新さに着目した解釈ですが、私は好きなタイプじゃありません。恐らくこの種の演奏には熱烈な支持者がおられるのでしょう、楽員が引き揚げた後も指揮者を呼び出し、大歓声で称える光景が続いていました。
最後に演奏とは関係がありませんが、私共の周辺にはアジア系の学生ツアーと思われる若者たちが取り囲んでおり、彼等の行儀の悪いこと悪いこと。演奏中もジットせず、ヒソヒソ話や監視の目を盗んでスマホ撮影等々。チョット静かになったと思ったら眠り込んでおり、スマホを落として大きな音を立てる。
流石に後半開始の前に係員が、ホールが響くので音をたてないように、スマホの光が迷惑にならないよう電源を切るように、とアナウンスしていましたが、どうやら彼等は日本語が判らず、さっぱり効果がありません。
若者が団体で海外から音楽を聴きに来られることには反対しませんが、引率される方はもう少し配慮して頂けないものか。先日、新国立劇場で高校生向けのオペラ鑑賞会があり、私も若干販売された一般向けのチケットで鑑賞してきたばかりですが、日本の高校生たちは整然と、熱心に聴き入っていたのが印象的でした。これ、民度の違いという一言で片づけてしまってよいのでしょうかね。
ということで、音楽以外のことで何とも居心地の悪いベートーヴェンになってしまったことが残念でした。
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