首席客演指揮者に就任した藤岡幸夫

今年のサマーミューザが始まったのは7月27日でしたが、その時関東地方は未だ梅雨明けしていませんでした。今年は梅雨明けが遅いね、と巷で話題に上っていた程でしたが、サマーミューザ3日目・都響の日に梅雨明け。それからは連日の猛暑、いや酷暑で、昨日のシティフィルが登場した8月6日現在では、うんざりするような日々が続いています。
いくらかでも涼をとろうと出掛けましたが、何とも熱いコンサートでしたね。4月に新しく就任した首席客演指揮者の晴れ舞台です。

シベリウス/レミンカイネン組曲~「レミンカイネンの帰郷」
ドヴォルザーク/チェロ協奏曲
     ~休憩~
芥川也寸志/交響曲第1番
 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
 指揮/藤岡幸夫
 チェロ/ジョヴァンニ・ソッリマ
 コンサートマスター/青木高志(ゲスト)

この日のコンマスは、東フィルのコンマス(現在も?)でもある青木高志。かつてモルゴーア・クァルテットのセカンドだった名手でもあります。コンサートの前に20分間のプレトークがあるということで、少し早めに川崎入りしました。
私がこの会をチョイスしたのは、正直に言えば芥川が聴きたかったから。今年が没後30年でもありますし、この秋は邦人作品をいくつも聴く予定があり、そのスタートとしてサマーミューザを選んだのです。

プレトークは藤岡氏本人。既に燕尾服を着用しており、曲目解説の前に新ポストに就いての思いを。シティフィルでは得意とする3本の柱、①シベリウス ②英国作品 ③邦人作品 を中心にプログラミングしていくとのことで、この日は①と③が披露されました。
間に置かれているドヴォルザークは、藤岡によれば歌心に満ちた、凄いチェリストが聴き所とのこと。私は初めて聴くイタリア人チェリストですが、彼をお目当てに席を確保したという方も少なからずおられたようです。特に外国人のファンを多く見かけましたが、なるほど追っ駆け集団らしく、前半だけで帰っちゃったみたいですね。お陰でゆったりと芥川作品を堪能できました。

日本でシベリウスと言えば渡邊暁雄、渡邊暁雄と言えば最後の弟子・藤岡幸夫ということで、納得のオープニング。レミンカイネン組曲から定番のトゥオネラの白鳥ではなく、4曲の連作交響詩の中では最もカッコイイ「レミンカイネンの帰郷」を選んだのは、如何にも藤岡という印象、そして演奏でした。

続くドヴォルザーク、藤岡一押しのソッリマは、1962年にシチリア島のパレルモで生まれた「鬼才」。私としては演奏そのものより、ドヴォルザーク作品に没入する演奏姿勢に見惚れてしまいました。
長い序奏部では弓を床に置き、楽器を抱えて暫し沈思黙考。ソロが始まるや悲しげな、時に怒ったような表情を浮かべてチェロを歌わせる。勢い余ってオーケストラを自ら指揮するようなポーズを時折交えながら、オーケストラと聴衆を刺激していくのでした。
解説を書かれたオヤマダアツシ氏によれば、「チェロ界のジミ・ヘンドリックス」だそうな。このキャッチコピー、私には100%は理解できませんでしたけれど。

しかしなるほどと思ったのは、アンコール。チェリストとしてより作曲家として知られることが多いソッリマだそうで、披露されたのは自作のナチュラル・ソング・ブックの第4番と第6番。後半では客席に拍手を促し、ノリノリのパフォーマンスで“どおだぁ~”というガッツポーズまで出現。狂喜したファンはスタンディング・オヴェーションと歓声で応え、クラシックのコンサートでは余り見かけない光景が展開しました。ジミ・ヘンドリックスって、こういうタイプなんでしょうか?
私は別の意味で、目下開催中のプロムスを連想しました。特に先日楽しんだペッカ・クーシストとの共通点も感じたくらいです。

休憩中にたっぷりと冷気を吸い込んで、後半はお目当ての芥川也寸志。そのダンディー振りについて藤岡もプレトークで語っていましたが、私が最も印象に残っているのは、1967年5月の日本フィル・シリーズとしてオスティナータ・シンフォニカが初演された時の光景。
指揮者・渡邊暁雄が客席から芥川也寸志を呼びあげ、二人の素敵なダンディーがガッチリと握手を交わした瞬間です。未だ学生だった私から見ても、スマートでイケメンの両者に色気さえ認めたほど。

当時は古臭いスタイルと評されたかもしれませんが、没後30年を経て聴く第1交響曲は、却って新鮮に響きました。もちろん、当時より格段に上がった日本のオーケストラのレヴェルが貢献していることは間違いありません。
藤岡の熱意、シティフィルの集中力によって作品の本来の姿が浮き上がって聴こえるではありませんか。作品全体のコンセプト、一貫して登場するリズム動機を提示する第1楽章、プロコフィエフとストラヴィンスキーを足して2で割ったような第2楽章(終わり方はまるで春の祭典)、おどろおどろしいコラールの第3楽章、誰の模倣でもなく芥川節満載のフィナーレと、ミューザに朗々と響く交響曲に、藤岡とシティフィルの大熱演に喝采が贈られます。
客席で藤岡の紹介に答えた芥川夫人も、熱心に舞台に拍手を贈っていました。

最後に藤岡から客席への感謝と、アンコールとしてエルガーの夕べの歌がプレゼント。高関/藤岡の二人体制となった東京シティ・フィル、気軽に演奏会に出掛けましょう。

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