今日の1枚(15)

この所モノラル録音ばかり聴いていたので新しいステレオ盤を、と言ってもステレオ最初期のものから、RCAのリヴィング・ステレオの1枚。名盤です。
09026-61495-2 という品番で、
①ブラームス/ヴァイオリン協奏曲二長調作品77
②チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲二長調作品35
ヴァイオリン/ヤッシャ・ハイフェッツ、指揮/フリッツ・ライナー、管弦楽/シカゴ交響楽団。
録音データは、
①1955年2月21日と22日 シカゴ、オーケストラ・ホール
②1957年4月19日 シカゴ、オーケストラ・ホール
プロデューサーは共に John Pfeiffer 、エンジニアも同じく Lewis Layton 。リヴィング・ステレオのコンビですね。
①は1955年の初めという、それこそステレオ録音の黎明期。当然ながらレンジは狭く、音も固目です。年代を考えれば優れた録音ということでしょうが、今日の耳には賞味期限ギリギリ。
ヴァイオリンの定位が今一つ定まらない感じで、中央よりやや左。コンサートで聴くイメージですが、焦点はボケ気味です。
オーケストラは所謂アメリカ式配置だと思われますが、コントラバスの位置が不明瞭です。時に左から聴こえて来るようにも思え、あるいは後方に一列に置かれているのかも。
演奏は、ハイフェッツ特有の速いテンポでクールに弾き切ったもの。どんなに細かいパッセージも崩さず、正確そのもの。情感不足という意見もあるでしょうね。
カデンツァがまた独特。というか、ハイフェッツ自身の作だそうで、この盤でしか聴けない珍しいもの。
②は2年後のものだけあって録音は遥かに進歩しています。ソロはど真ん中にピタリと定位していますし、オーケストラの各楽器の位置も明瞭です。これなら現在の最新録音と比べても聴き劣りしません。
厄介なのはカットだらけの演奏であること。それだけじゃありませんが、先ずカットについて詳しく触れます。何しろ拘って聴く「今日の1枚」ですからな。
以前にこのディスクを聴いたときはカットは承知で気にせず聞き流しましたが、今回はスコアにチェックを入れながら全て解明しました。私としては快挙ですよ。
第1楽章 145小節から153小節までの9小節をカット。
第2楽章にカットはありません。
第3楽章 69小節~80小節の12小節、259小節~270小節の12小節、295小節~302小節の8小節、424小節~431小節の8小節、460小節~507小節の48小節、576小節~579小節の4小節。3楽章は、合計で6箇所、92小節分のカットがあります。
スコアを見て聴く際には、これがひどく煩わしかったのですが、今回全てチェックしましたのでスッキリしました。
ハイフェッツはこれだけじゃなく、ソロのパートに譜面と違うことを色々やっています。
例えば第1楽章は、123小節から126小節は全く違うパッセージを弾いていますし、この繰り返しの299小節~302小節も同じ。
239小節の後半とか、第2楽章の67から68小節はチャイコフスキーの音符を1オクターヴ高くして弾いてます。
第1楽章のカデンツァもオリジナルに手を加えていますしね。
ブラームスではこういうことを一切していませんから、ハイフェッツの両曲に対する考え方が違うのでしょう。
もう一つ気が付いたこと。
このシリーズはオリジナルのライナーノーツを使用していますが、ブラームスの解説はかのクラウディア・キャシディーが書いています。
フルトヴェングラーのシカゴ響音楽監督就任を白紙に戻し、クーベリックを辛辣な批評で追い出し、お気に入りのライナーを監督に据え、ライナーが病気で引退すると後任のマルティノンを追放したという、「あの女」ですね。
で、このライナーノーツですが、結構面白いことが書いてありました。
ブラームスのヴァイオリン協奏曲が1月1日の元旦に世界初演されたことは知っていましたが、キャシディー婆さんは詳しいプログラムまで紹介してくれています。それによると、1879年1月1日(130年前)のライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。曲目は、
フランツ・ラハナーの組曲から序曲、モーツァルトの「後宮からの逃走」のアリアとショパンの歌曲をいくつか、これはマルセラ・センブリッヒ Marcella Sembrich の歌で。バッハの二短調の無伴奏ヴァイオリン・ソナタからシャコンヌを勿論ヨアヒムのソロで、最後はベートーヴェンの交響曲第7番。
ヴァイオリン協奏曲がどこに置かれていたのかは判りませんが、指揮はブラームスその人です。
何でもブラームスはコンサート開始ギリギリに到着し、ろくに着替えもせずに指揮台に立ったんですってよ。
キャシディーさんも満更じゃない、というオチです。
参照楽譜
①オイレンブルク No.716
②オイレンブルク No.708

 

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