ハイティンク最後のプロムス

9月3日、巨匠ベルナルド・ハイティンクがロンドンの聴衆に別れを告げました。
2019年のプロムス、ウィーン・フィルによる2回の公演の初日を飾ったのは、ハイティンクの引退公演。残り1か月間はBBC3チャンネルでライヴの様子が聴けますから、出来るだけ多くのファンにこの放送を聴いて貰いたいと思います。

9月3日 ≪Prom 60≫
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番
     ~休憩~
ブルックナー/交響曲第7番
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 指揮/ベルナルド・ハイティンク Bernard Haitink
 ピアノ/エマニュエル・アックス Emanuel Ax

ハイティンクが現役引退を表明したのは6月のオランダ、雑誌のインタヴューに答えた時でしたが、それ以来楽壇はひっくり返るような騒ぎになりましたね。最後の公演となったのが、今回のプログラム。ウィーン・フィルとのツアーで、ザルツブルク音楽祭、プロムス、ルツェルン音楽祭と発表されました。
入れ込んだNHKでは急遽スタッフを送り込み、最新技術の4K8Kを駆使してライヴ中継を行ったほど。それは世界も同じだったそうな。それに続いて行われたのが3日のプロムス。ロンドンっ子も異様な興奮振りでハイティンクとウィーン・フィルを迎えました。

当初はマレイ・ペライア Murray Perahia がベートーヴェンを弾くという発表でしたが、健康上の理由からアックスに大役が回って来た次第。
そのアックス、冒頭の和音をアルペジオで始め、それがマエストロへの慈しみを表現しているようで、ここはグッと来ましたね。カデンツァは第1・3楽章ともベートーヴェン(第1楽章は第1カデンツァ)でした。
大歓声に応えてのアンコールは、シューベルトのアンプロンプチュ作品42-1。

そして後半、ハイティンクが登場するや盛大な拍手と歓声、プロムスはこういう光景がよくありますが、今回は最初から最大級の賛辞が贈られます。
ブルックナー第7は、1966年にハイティンクがプロムス初登場の際に演奏した作品。偶然とはいえ、今年90歳のハイティンクにとって90回目のプロムスに当たるそうな。ロンドン・フィルとのプロムス・デビューは、ベートーヴェンのコリオラン序曲、モーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲、それにブルックナーの第7というプログラムでした。

全曲が終わった時、ヨーロッパではたとえブルックナーであっても直ぐに拍手が起きてしまいますが、今回だけは特別。全曲終了後の、そしてハイティンクの最後の指揮姿を見終えた後も、ホールには長い沈黙が支配していました。そのあとの歓呼の爆発と言ったら・・・。
ルーチン・ワークのウィーン・フィルは大したことない、と思うけれど、本気になるとやはりVPOは凄いですね。それはプロムスの聴衆も同じ、ということ。

全曲の終結が、第1楽章主題の回帰で終わるのは、正にハイティンクの指揮活動を象徴するが如し。杖を突きながら指揮台とバックステージを往復する巨匠に、会場の歓声は止むことを知らないようでした。

ハイティンクに対する個人的な思い出としては、遥か昔、コンセルトヘボウの公演を聴きに文化会館に出かけた時、開場時間より少し早く上野に着いてしまいました。時間を潰そうと上野公園を散歩していると、バッタリ遭遇したのがハイティンクその人。小心者の私は声一つ掛けられず、呆然と若きハイティンクの後姿を見送ったものでした。

事実上の引退公演は、6日のルツェルン。この模様も何かの形で見聞きできるような気がしています。
因みにこのプロムスと6日のルツェルン、フルートのトップはシルヴィア・カレッドゥ。今年のニューイヤー・コンサートでもトップを吹きましたが、試用期間が終わった1月の投票で正式採用ならず、退団していました。今回の特別な依頼を快諾したことが話題になっていました。

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