読売日響・第591回定期演奏会

前日の未明に台風ファクサイFaxai (15号)に襲われ、それによって持ち込まれた熱波に覆われている首都圏。所々暴風雨の残滓が点在する中を赤坂のサントリーホールに向かいました。
千葉県では未だ停電が解消されず、地獄のような思いをされている方も多いでしょう。被害に遭われた、また現在進行形の皆様には衷心からお見舞い申し上げます。

そんな9月10日の読響定期、5月に首席指揮者として初登場したばかりのヴァイグレが、ドイツ物と言っても余り聴くことのできない作品を引提げての登場です。

プフィッツナー/チェロ協奏曲イ短調(遺作)
     ~休憩~
ハンス・ロット/交響曲ホ長調
 指揮/セバスティアン・ヴァイグレ
 チェロ/アルバン・ゲルハルト
 コンサートマスター/小森谷巧

メインのロットこそ、ヴァイグレが読響との仕事で真っ先に取り上げたかった作品ではないでしょうか。それは後半として、先ずプフィッツナーのこれまた珍品を楽しみました。
そもそもプフィッツナー、日本では余り聴かれることがありませんが、時代的にはリヒャルト・シュトラウスと同じですね。シュトラウスややはり同年代のマーラー同様、作曲家としも指揮者としても活躍した音楽家で、ベートーヴェン没後100年を記念してドイツ・グラモフォンが複数の指揮者とオーケストラを使って録音した電気式録音による世界初のベートーヴェン交響曲全集のうち、半分以上の5曲がプフィッツナーの指揮でした。エロイカや田園など大変立派で、当時としては現代的な感覚の指揮だったと記憶します。

作曲家としてのプフィッツナーは歌劇「パレストリーナ」が現在でも時々上演されていて、その間奏曲集をフルトヴェングラーも録音していた程。最近ではライナー・キュッヒルがN響と協奏曲を演奏したり、ソナタをCD録音していますから、ヴァイオリンの文献は時折聴くことができます。
今回ヴァイグレが紹介してくれたのは、遺作と表記されているチェロ協奏曲。私の知る限りではプフィッツナーにはチェロ協奏曲が3曲あって、そのうち2曲にはちゃんと作品番号が振られています。プログラムの曲目解説を担当された長木誠司氏は触れていませんでしたが、この作品は二十歳前の学生時代に作曲し、確かブルッフに送付して検討してもらう過程で紛失し、そのまま行方不明になっていたと記憶しています。

プフィッツナーが記憶を頼りに再現したのが仮に2番とされている作品52のイ短調。ところが1975年になって譜面が発見され、漸く初演されたのは1977年2月18日にヴュルツブルクに於いてだったそうです。
オリジナルのイ短調は「遺作」と表記されていますが、作曲者が完成途中で死去したことによる遺作ではなく、失われていた譜面が再発見されたことによる遺作なのですね。

ということで、作風は後の晦渋なスタイルではなく、後期ロマン派風のメロディックな一品。全体は2楽章で、第1楽章が序奏とソナタ形式の主部。第2楽章は3部形式のアダージョの後にアレグロのフィナーレ部が続き、第1楽章の主題が回顧されながら静かに終わります。
楽器編成を書き残しておくと、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニと弦5部で、トロンボーンが3本も使われていることが不興を買った原因だった、と長木氏が書かれておられます。スコアとしての売り譜は未だ無いようですね。

もちろん聴いたのは今回が初めて。一般的なプフィッツナーの重苦しい印象はかなり薄まっていて、これならコンサートのレパートリーに定着していけるのじゃないでしょうか。ブルッフやブラームス、更にはマーラーやシュトラウスの時代とは聴衆の嗜好もかなり変化してきていますからね。
ソロは、ドイツ・チェロ界の皇帝と呼ばれているゲルハルトで、今回が読響初登場。姿勢正しく正面を向き、目を遠方に据えて集中力高く演奏するチェロは、如何にもドイツのチェリストという印象。もちろん暗譜、作品を完璧に手に入れており、これ以上無いプフィッツナーの紹介者だと思いました。初体験でイメージが掴めたチェリストと、作品。

絶大な歓声に応えてのアンコール。“こんなゴージャスなホール、ドイツ物プログラムを演奏で来て幸福です。バッハから一つ”とスピーチし、無伴奏チェロ組曲第6番からプレリュード。ゲルハルトは最近、無伴奏組曲全曲をハイペリオンに録音していますから、気軽に演奏を楽しむことも可能でしょう。

そして後半は、本命のロット。何故か今年はロット・ブームで、この春も神奈川フィル(川瀬賢太郎)とN響(パーヴォ・ヤルヴィ)が競演したばかり。しかし本命は、やはりこれ。ヴァイグレと読響でしょ。というのが個人的な嗜好で、その思いは100%、いや120%ぐらい満たされました。トライアングルとティンパニの場面もバッチリでしたし、特に第3楽章でのヴァイグレは鬼気迫るものを感じました。
読響では7月のプログラム誌でヴァイグレへのインタヴューの中でロットへの思いを、また今月号でも長木誠司氏のエッセイ「ハンス・ロットの時代」と特集を組み、珍しいほどの熱の入れようでした。永久保存版、かな?
個人的にロットに付いては過去に何度も言及したこともあり、私にとってもこの日は特別な定期演奏会だったと思います。客席の熱狂は、十分ヴァイグレにも、そして彼岸のロットにも伝わったことでしょう。

今回の来日でヴァイグレは、メンデルスゾーンのイタリア、マーラーの第5などのプログラムを披露します。特にマーラーは聴きたいのだけれど、日程も財政も味方してくれません。残念無念!

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