サルビアホール 第116回クァルテット・シリーズ

鶴見サルビアホールのクァルテット・シリーズが始まると、秋の音楽シーズンが本格的にスタートしたな、という実感が沸いてきます。私だけの感想かも知れませんが、ね。
昨日9月20日、シーズン35の第1回が行われましたが、サルビアは2度目となるアマリリス。チラシにはゲーテ・インスティトゥートの助成と書かれていましたが、当日配布されたプログラムには表記されていませんでした。そのプログラム、当初発表のものから以下に変わっています。

モーツァルト/弦楽四重奏曲第18番イ長調K464
モーツァルト/弦楽四重奏曲第16番変ホ長調K428
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番へ長調作品59-1「ラズモフスキー第1」
 アマリリス・クァルテット Amaryllis Quartet

曲目変更があったのは2曲目で、予定では同じモーツァルトの20番、ニ長調作品と発表されていました。直前にアマリリスから連絡があったようで、プロデューサー氏のお話では来月、10月にシュヴェツィンゲンでモーツァルトを一気に5曲演奏する連続コンサートがあり、それに対応するためとか。何れにしてもハイドン・セットからの2曲ということで、この方が筋が通っているかもしれませんね。

変更と言えば、アマリリス前回の2012年6月からヴィオラが交替しました。プログラムによると2016年からレナ・エッケルスに代わって我が赤坂智子氏が正式に参加。今回は新メンバーでの初来日ということになるのでしょう。
ところで赤坂さん、去年秋に鵠沼でリサイタルを聴いた時には、このことには微塵も触れていませんでした。知っていればそれとなく聞いていたのに・・・。

またセカンドのレナ・ヴィルトも、名前がレナ・サンドゥに替わっています。確認したわけではありませんが、恐らくチェロ氏(イヴ・サンドゥ)と結婚されたのじゃないかしら。ということで前回も紹介した彼等のホームページ、改めて掲載しておきましょう。もちろん赤坂智子が加わった新メンバーです。

https://www.amaryllis-quartett.com/

アマリリスのプロフィールは前回のレポート、上記ホームページを見て頂くとして、早速今回の感想です。
最初の出会いではハイドンの斬新な表現に驚かされたものですが、あれから7年、月並みですが鋭角的な表現が薄れた分、スケール感が増し、作品の構造をより大きく捉えるスタイルに変化しつつあると感じました。音楽語法の起承転結がシッカリ捉えられており、それを確実に表現していく心地良さ。
冒頭の464はオープニングということもあってかやや手探り状態という印象でしたが、428は大胆に、確信を持った演奏で、改めてモーツァルト作品の偉大さに納得です。

後半のベートーヴェンも同じ。冒頭の刻みからして、全曲の結末までを見通した表現。これがアマリリスのベートーヴェン、という主張があり、表現にブレがありません。7年前は初物、どんな団体かな、という興味が先行していましたが、個人的には今やスイスを、いやドイツを、かな。いやいや世界を代表するクァルテットの一つに成長したな、という感想を持ちました。

アンコールは何と、同じモーツァルトのハイドン・セットから「不協和音」の第1楽章をそっくり(と言っても流石に繰り返し記号は無視しましたが)。結果的にハイドン・セットを3曲も聴いてしまったという感覚で、何とも贅沢な一夜ではありました。
アンコール曲は赤坂氏が日本語で紹介されたのですが、“私たちが最初にレコーディングした作品”とのこと。これには若干の補足が必要で、実はこんな歴史があるんですね。

私は彼等の初来日の際、サルビアホールのロビーで2枚のCDをゲットしました。1枚はアマリリスが使命としているゲザ・フリードの弦楽四重奏全集でしたが、もう1枚がハイドンとウェーベルンを組み合わせた Genuin 盤。
このジェヌインこそが彼等の録音のメインとなるレーベルで、その後も録音を続けていて、最新版がモーツァルトとシェーンベルク(第2番)を組み合わせた2枚モノ。この日もサインを求めてこの盤を買われた方も多いでしょう。

この盤にはモーツァルトの「狩」と「不協和音」が収められているのですが、狩とシェーンベルクは前任のヴィオラ、エッケルスが弾いており、不協和音が赤坂。つまりヴィオラの交替を跨ぎ、ドキュメントのようなスタイルになっているCDでもあるのです。
そもそもアマリリスがジェヌインに録音を開始した時のテーマが、古典の名作と現代作品をカップリングするというもの。最新のモーツァルト+シェーンベルクは彼等のシリーズ5作目に当たります。
第1作がハイドンとウェーベルンだったのですが、その後ベルクとベートーヴェン、シューマンとクルターク、ドビュッシー/ラヴェルにヤン・リンの1番という具合。

更に面白いのは、これまでの5枚には全て様々な「色彩」をイメージとして選んでいることで、私の想像ですが、植物のアマリリスには様々な色のヴァリエーションがあることを捩っているのかもしれません。アマリリスには一部、毒もあるというのは皮肉を込めているのでしょうか。
即ちハイドンは白、ベートーヴェンが赤、シューマンは緑、ドビュッシー/ラヴェルが青で、モーツァルトは黄色なのですね。注意したいのは、第一弾だったハイドンが、最初から白を前面に出していたこと。CD本体もジャケットも白が使われていますし、4人の写真も白い衣装を付けて撮影されている。ジャケットにも white と明記。最初から遠大な計画を立ててレコーディングを開始していたということに他なりません。

今回の黄色は、二人のヴィオリストが揃ってジャケット写真撮影に参加しており、その模様はホームページで確認できます。
古典+現代は演奏会のプログラムにも反映されており、今ツアーは5箇所、武蔵野→サルビア→大阪フェニックス→浜離宮→トリトンと続きますが、ツアー全体で見ればハイドン・モーツァルト・ベートーヴェン・ドヴォルザーク・ラヴェルに混じってルトスワフスキも組まれている。

次回の来日は何時、そしてどんなプログラム? 次のレコーディングはどんな組み合わせで何色? 色々注目点の多いアマリリスではあります。

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