ウィーン国立歌劇場公演「マクベス」

11月1日から「ウェルテル」のライブ・ストリーミングが始まったばかりですが、直ぐに続いて2日からは「マクベス」の放映もスタートしています。現地ウィーンでも連日の公演で、ゲーテとシェークスピアの原作によるオペラの競演となりました。
ヴェルディの「マクベス」は10月25・28日と11月1日の3回公演、視聴できるのは最終日の模様です。

マクベス夫人/タチアナ・セルジャン Tatiana Serjan
マクダフ/シャホ・ジンシュー Xiahou Jinxu
マクベス/プラシド・ドミンゴ Placido Domingo
バンクォー/ライアン・スピード・グリーン Ryan Speedo Green
侍女/フィオナ・ヨプソン Fiona Jopson
マルコム/カルロス・オスナ Carlos Osuna
密偵/アイク・マルティロッシアン Ayk Martirossian
指揮/ジャンパオロ・ビサンティ Giampaolo Bisanti
演出/クリスティアン・レート Christian Rath
舞台・衣装/ゲイリー・マッキャン Gary McCann
照明/マーク・マカルー Mark McCullough
映像/ニナ・デュン Nina Dunn

キャストを見てお分かりのように、今回は何と言ってもドミンゴのタイトル・ロールに尽きるでしょう。単に大歌手であるだけでなく、今や渦中の人。ウィーン国立歌劇場はドミンゴとの契約を履行することもニュースになったばかりでした。
それもあるでしょう、最終日の公演でのドミンゴへの拍手喝采は大変なもので、これを実際に、最後の拍手が止むまで見聞きできることもライヴ・ストリーミングの醍醐味だと思いました。

もちろんマクベスはバリトンの役所で、現在はバリトンに転じたドミンゴにとっては重要なレパートリー。ロサンジェルス・オペラで歌ったDVDが出ていますし、最近ベルリンでも歌っていました。更には同役をメットで降板したばかりでもあります。
正直に申し上げて、78歳の舞台。この歳にしては驚異の歌と捉えるべきでしょう。キャリアのスタートこそバリトンの声域でしたが、長年テノールとして活躍してきただけに、ファンとしてはどうしてもテノールのイメージが強くなってしまうのは止むを得ない所。それでもウィーンっ子たちが喝采を惜しまないのは、リスペクト故。オペラの世界は単純に良かった、そうでもなかったと一喜一憂する世界ではありません。

私はマクベスには余り経験がないので軽々には語れませんが、フィレンツェ初演版ではなく、1865年改訂のパリ版での上演だったと思われます。ただし、第3幕で踊られるバレエは完全にカットされていました。マクベスには様々な上演スタイルがあるようです。
レート(ドイツ語のスペルでは a ウムラウト)の演出は11世紀のスコットランドという本来の設定ではなく、現代に移したもの。マクベスは主に軍服で登場しますし、他の登場人物も現代の衣裳を着用しています。

4幕構成で、第2幕と第3幕の間に20分の休憩が入りますが、全幕を通じて分厚いコンクリート(を模した)の壁が舞台を仕切っているのが特徴で、もちろん何かの意味付けがあるものと見ました。
映像に態々名前がクレジットされている通り、暗殺されるダンカン王(第1幕第2場)やバンクォーの亡霊(第2幕第2場)がシルエットとして壁に映し出され効果的。血に塗れたシーツも随所でマクベスの悪行を暗示させます。

ドミンゴ以外では、やはりマクベス夫人のセルジャンが圧巻。彼女は2014年のローマ歌劇場来日公演「ナブッコ」でアビガイルレを歌いましたし、マクベス夫人はチューリッヒでも歌っている得意役だそうです。敢えて悪声で歌ってこそのマクベス夫人、この役を嫌うソプラノもいると聞きますから、セルジャンは貴重なマクベス夫人とも言えましょう。

指揮のビサンティは、今シーズンのオッタヴァ・テレビによるライヴ・ストリーミング第一弾の「椿姫」を振った人。若手の注目株で、ウィーンでも人気があります。どことなくアバドを思い出させる風貌であることに、今回気が付きました。

冒頭で紹介したように、ドミンゴへの称賛は凄まじいもの。第3幕と第4幕のアリアの後はもちろん、全曲が終わってからのカーテンコールが並みのものではありません。オーケストラ・ピットの前に押し寄せたファンは何度もカーテンコールを求め、最後は手拍子で主役たちを迎えます。もちろんお目当てはドミンゴでしょう、まるでこれが見納めのような熱烈歓迎振りでした。

それにしてもウィーンのオペラ・ファンは暖かい。今期のドミンゴはマクベスで終わりではなく、6月にもナブッコで登場するほか、椿姫では指揮者としてもお目見えします。更には6月28日のガラ・コンサートでも歌うことになっており、いくつかはオッタヴァでも放映してくれるはずです。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください