第385回・鵠沼サロンコンサート
このところオーケストラやオペラばかり聴いていますが、耳がそろそろバランスを取れ、と語り掛けてきます。
そんなわけで、今週からは室内楽に回帰することにしました。差し当たって3日の日曜日はクァルテット・エクセルシオの定期試演会に参加してきましたが、これは本番(17日)をレポートすることにして、ここは5日に楽しんできた鵠沼サロンコンサートの紹介です。
「ピアノ・トリオの世界12」と題されたクーベリック・トリオの演奏会。当初の予定からは大幅に替わった以下のプログラムでした。
モーツァルト/ピアノ三重奏曲第3番変ロ長調K502
スメタナ/わが故郷より
ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタト短調
~休憩~
ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調作品97「大公」
クーベリック・トリオ
鵠沼サロンコンサートは、様々な組み合わせによる室内楽や器楽作品をアットホームな雰囲気で、しかも本格的な内容で楽しめるシリーズですが、9月から6月までの全8回、今期はピアノ・トリオを二組も聴けるのが注目点と言えましょうか。今回のクーベリック・トリオの他に、来年6月には日本の誇るトリオ・アコードが登場する予定になっています。
クーベリック・トリオはこれまで何度もサロンを賑わしていて、私も4年前、2015年の10月にここレスプリ・フランセで初体験しました。サロンのアーカイヴを検索してみると、記録に残っているのは今回が5回目。順に紹介すると、最初は2002年11月の第193回で、この時はライヒャ、スーク、ドヴォルザーク(ドゥムキー)の3本立て。
2度目は少し間が空いた8年後の11月で、2010年の第294回。シューベルト、ドヴォルザークの小品にラフマニノフとメンデルスゾーン(第1番)というプログラム。2012年4月の第310回でのドヴォルザークの2番とスメタナという大曲2本立てが続き、私も聴いた2015年10月の第346回という歴史になります。
レスプリ・フランスでは今回が2回目だそうで、スークとドヴォルザーク「ドゥムキー」が第1回と第5回で重複しているだけ。
今回は待望の「大公」が取り上げられましたが、プログラムを見てあれっと思われるように、トリオなのにドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ?
冒頭、平井プロデューサーの解説。今回はプログラムが二転三転し、直前の発表ではフランクの1番と「大公」という予定でした。しかしチェロのカレル・フィアラ氏の体調が思わしくない、ということで急遽上記の内容に変更された由。トリオは最初のモーツァルトと最後のベートーヴェンのみで、中間のスメタナとドビュッシーは石川静のヴァイオリンとクヴィータ・ビリンスカのピアノによる二重奏に変更された次第。
フランクを楽しみに来られた方はご了解下さいとのこと。実は私もその一人で、今回は何より素晴らしいフランクがお目当てでした。フランクとベートーヴェンの間には奇縁があって、それに触れるのも楽しみでしたが、またそれは別の機会にしましょう。
ということで、やや不安な面持ちで3人を迎えます。
最初のモーツァルトはピアノに重点が置かれている作品ですから、ここは無難に通過。モーツァルト晩年、借金に追われるように作曲していた天才の筆に改めて感服しました。
ここでフィアラ氏はステージを降り、石川/ビリンスカによるデュオ・コンサートに。
最初のスメタナは2曲から成り、第1曲 Moderato 、第2曲 Andantino という何れも短調を基調にした民族色豊かな作品。最高傑作「わが祖国」と同時期に書かれた作品とのことで、譜面はペータースから出ています。私は初めて聴いたと思いますが、平井氏は大好きな一品だとか。
そして後半。期待と不安の混在した「大公」でしたが、改めてベートーヴェンの偉大さに胸打たれる想い。特に圧巻は第3楽章で、作品の主調は変ロ長調ですが、この変奏曲はニ長調。ニ長調(D dur)と言えば神(Deus)の調で、ゆったりとして音程の開きが小さい3拍子によるテーマは神々しさが漂います。
楽章の最後、各パートに3連音符が頻出する箇所では「3」という数字にすら意味が感じられ、静かに耳を傾けていれば自然に目頭が熱くなるのが感じられるではありませんか。
変奏曲の最後、たった一つの和音で音楽は見事に転調し、変ロ長調の喜悦の世界へ。心配されたチェロも無事に大作を弾き切り、聴き手から大拍手。
完璧な体調ではない中、大曲の熱演にも拘わらず、アンコールもありました。これまで鵠沼では二度も演奏してきたスークのトリオから第2楽章。終演後のサイン会もこなし、クーベリック・トリオの3人、本当にお疲れさまでした。
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