ウィーン国立歌劇場公演「アリオダンテ」

前回の「マクベス」から2週間ほど開きましたが、16日から3日間、ウィーン国立歌劇場の「アリオダンテ」が放映されます。
11月8・11・13・15日の4日間行われた公演の最終日の模様で、キャストは当初発表の通りでした。

アリオダンテ/ステファニー・ハウツィール Stephanie Houtzeel
ジネヴラ/チェン・レイス Chen Reiss
ダリンダ/ヒラ・ファヒマ Hila Fahima
ポリネッソ/マックス・エマヌエル・ツェンチッチ Max Emanuel Cencic
ルルカニオ/ジョシュ・ラヴェル Josh Lovell
スコットランド王/ペーター・ケルナー Peter Kellner
オドアルド/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
指揮/クリストフ・ルセ Christophe Rousset
管弦楽/レ・タラン・リリク Les Talens Lyriques
合唱/グスタフ・マーラー合唱団 Gustav Mahler Chor
演出/デイヴィット・マクヴィカー David McVicar
舞台&衣装/ヴィッキ・モーティマー Vicki Mortimer
照明/パウレ・コンスタブル Paule Constable
振付/コルム・シーリー Colm Seery

ウィーン国立歌劇場でヘンデルのオペラが上演されるのはかなり珍しいことで、今回の「アリオダンテ」は初、ヘンデル作品としても「アルチーナ」に続いて2作目だそうです。
歌劇場のオーケストラの中核を成しているメンバー、即ちウィーン・フィルが目下来日中ということで、この公演はタラン・リリクという古楽演奏団体がピットに入りました。チェンバロやリュートといった通奏低音を受け持つ楽器が聴けるのも楽しみでしょう。合唱団もわざわざグスタフ・マーラー合唱団が参加しています。

作品は全3幕、上演時間だけで4時間弱を要する長丁場。ストリーミングそのものも4時間50分を必要とします。第1幕と第2幕の間、第2幕と第3幕の間に夫々20分づつの休憩が入りました。
各幕は複数の場で構成されており、第1幕は13場、第2幕が10場、第3幕も13場と考えてよいでしょう。各「場」は基本的に一つのアリアや二重唱などで構成されています。

そもそもアリアには所謂アリアとアリオーソと呼ばれるものがあり、アリアは全てABAの三部構成。Aが繰り返されるときは最初のAに思い切り装飾音を付けて歌うことになっており、この装飾こそ歌手の聴かせ所、見せ所にもなっています。それがために演奏に時間が掛かることになりますが、そこは時代の違いとして歌手たちの妙技をゆったりと楽しみましょう。
因みにAの繰り返しはオーケストラのパートは同じ、もちろん歌詞も同じで、同じセリフを何回も繰り返すことになります。Bは概ね短く、起承転結で言えば「転」に当たる部分と考えればよろしい。
この繰り返しがなく、一気に短く歌われるのがアリオーソです。

ヘンデルの場合、重唱が少ないのも特徴で、「アリオダンテ」では第1幕と第3幕に二重唱が2曲づつ置かれているのみ。三重唱以上はありません。4つある二重唱のうち、3曲がアリオダンテとジネヴラのためのもので、もう1曲はダリンダとルルカニオ、即ちカップルのための二重唱です。

「アリオダンテ」のストーリーは、一言でいえば勧善懲悪でしょうか。悪役ポリネッソの陰謀に翻弄される二組のカップルが、最後には目出度しめでたしで結ばれる物語です。
主な登場人物は6人と見ればよく、血縁関係があるのはスコットランド王と娘のジネヴラ、ジネヴラの相手で主役のアリオダンテと弟のルルカニオ。この4人にカウンターテナーが歌うポリネッソと、ジネヴラの侍女ダリンダ。ダリンダは密かにポリネッソに思いを寄せていますが、逆にルルカニオから思われていて二人の板挟みになる。そこをポリネッソに付け込まれて対立と裏切り、誤解が絡み、オペラ「アリオダンテ」に結実したということ。
この6人にはほぼ均等にアリアが書かれていて、特にコントラルトが歌うアリオダンテには第2幕と第3幕に単独でも歌われる素晴らしいアリアがあります。

指揮のルセは、フランスのアヴィニョン生まれ。ブルージュの国際チェンバロ・コンクールに優勝し、レザール・フロリサンで通奏低音を担当していた人。レ・タラン・リリクはルセが1991年に創設した古楽演奏団体です。

タイトル・ロールを歌うハウツィールは、アメリカ人ながらドイツで生まれたメゾ・ソプラノで、2010年からウィーン国立歌劇場のアンサンブル・メンバーとして活躍している由。いわゆるズボン役を得意とし、「ばらの騎士」のオクタヴィアンは当たり役。日本でもこの役を歌っているそうですから、実際に聴かれた方もおられるでしょう。
またジネヴラのチェン・レイスもノット指揮東響でブラームスのドイツ・レクイエムを歌っており、彼女もわが国でもお馴染みのソプラノ。

複雑な役回りのダリンダを歌うファヒマは、イスラエルの若いソプラノ。日本でリサイタルを開いたこともあるそうですが、先に放映された「ナクソス島のアリアドネ」を歌うはずだった方で、目出度くヘンデルで聴けることになりました。
更にポリネッソのツェンチッチはクロアチアのザグレブに生まれたカウンターテナーで、6歳の時にテレビで夜の女王のアリアを歌ったというから驚き。少年時代はウィーン少年合唱団に所属していて、ショルティがウィーンで録音した「魔笛」で3人の童子の一人として録音に参加しているそうな。昔の録音と比較してみるのも一興でしょう。

しかし何といっても今回の「アリオダンテ」の見どころはマクヴィカーの演出でしょう。彼がグラインドボーンで演出した同じヘンデルの「ジュリオ・チェーザレ」は伝説になっているほど。
今回の舞台もマクヴィカーならでは。歌手は単に歌うだけでなく、時に踊りに参加したり、ポップス音楽にでも出てきそうな振付で楽しませてくれます。特に第2幕の最後、オリジナルでは複数のバレエで終わることになっていますが、マクヴィカーはここに国立歌劇場のエキストラたちを参加させ、バレエというよりパントマイムを披露。ジネヴラを模した女性が辱めを受ける場面など、ジネヴラの夢として描かれているようで秀逸でした。

バレエは第1幕の終わりと第3幕の最後でも踊られますが、特に最後のバレエは酔客の踊りという設定で、ユーモラスな動きで客席を沸かせています。
鹿が象徴的に登場し、冒頭は狩りで鹿を仕留めるシーン。第2幕の最終場面(バレエのシーン)では天井から吊るされた鹿が、遂には第3幕では切り落とされた首と、残された胴体が吊り下げられていて、これは何を意味するのでしょうか。
仕切り幕を巧みに使い、場面転換も鮮やかでした。

なお出版されているクリュサンダー版とは若干異なる楽譜が使われていて(特に第2幕)、この辺りはヘンデルに詳しい方に解説していただきたいと思います。

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