クァルテット・エクセルシオ第37回東京定期演奏会

今週からは室内楽、と決めて2週間ほど弦楽四重奏を中心に聴いてきましたが、その大トリに当たるのが、昨日17日に上野の東京文化会館小ホールで行われたクァルテット・エクセルシオ(通称・エク)の定期演奏会です。
ご存じのようにエクの定期は年2回、春(というより夏に近いころ)と秋に行われてきました。以前は自由席だった東京定期ですが、今年の春からは指定席に変わり、それまで見られた開演前の長い列はほとんど無くなっています。

ということで、そろそろ木々が色好き始めた上野公園をチラッと散策し、開場前のコーヒー一杯からクァルテットは始まります。
これに先立っての試演会、14日には京都でも第15回定期として行われたプログラムは、

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第5番イ長調作品18-5
シューマン/弦楽四重奏曲第3番イ長調作品41-3
     ~休憩~
シューベルト/弦楽四重奏曲第15番ト長調D887

11月の週末と言えば聴きたい演奏会が目白押しの首都圏、他のコンサートと重なってしまったという口実で京都まで観光を兼ねて出かけたファンも多かったと聞きますが、中には京都も東京も、という熱心な方もおられました。
そういうコアな室内楽ファンが去年、各地で行われたエク主宰の音楽会で、結成25周年記念にリクエスト企画として人気曲投票した結果が反映されているのが、今シーズンの定期プログラムでもあります。
上記3曲のうち、リクエスト上位を占めたのがシューベルト(1位)とシューマン(4位)。シューベルトでは「死と乙女」はやっと第10位というのですから、エクの支持者たちが如何に玄人好みであるか、ということが知れようというもの。

今回はそのシューベルト最後の大傑作とシューマンに加え、エクが第1回定期で演奏した思い出のベートーヴェンを加え、何ともヘヴィーな選曲になってしまいました。休憩を入れれば2時間超え、試演会の時点からペース配分を考えねば、という意気込みで臨んだ4人です。
正直に申せば、試演会は少し飛ばし過ぎ。どこまでも続くようなシューベルトのフィナーレでは疲労の色が濃かった彼らですが、そこはプロ。昨日は全曲を終えてもケロッとした顔々。疲れてはいても表には出さない職業意識なのか、マラソンに慣れてしまう人間の性なのか、そこは部外者には計り知れないところではあります。

冒頭のベートーヴェンは、これまで何度も取り上げてきたエク。作品18の中では最も長い作品でしょうが、第3楽章からスパートし、堂々と締めるのはさすが。今期から初参加したセカンド北見春菜、新鮮さを加味する意味でも大健闘でしょう。
続くシューマン。実はこの曲、エクが京都で本番を迎えていた同じ日、私は鶴見でヘンシェルQによる名演に接したばかり。ヘンシェルとエクと言えば、同じ大阪のコンクールで競い合い(ヘンシェル1着、エク2着)、ヘンシェルが彼らの音楽祭にエクを招待した盟友の間柄でもあります。先日の鶴見でも演奏後、モニカ姉御から「エクセルシオ」の名前が飛び出したほど。何かの縁を感じてしまうじゃありませんか。

ヘンシェルのシューマンは、シューマン夫妻が投げかけた問いに対する極めてレヴェルの高い回答、と聴きましたが、エクも負けてはいません。ドイツでも「繊細優美な金銀細工のよう」と評された緻密で、作品の構成を大きく捉えたアンサンブルでエクなりの回答を出して見せました。同じ食材を使っても、ドイツ料理と日本食とでは味わいも風味も異なる。共に食して良し、のシューマン競演というべきでしょう。
2週間ほどの間に3度も聴けば、シューマンの3番が大好きにならない人はいません。ベートーヴェンから学んだシューマンが、自身の独創性を最大限に発揮した第3番。様々な団体が夫々の持ち味でチャレンジし、どれも聴き手に感銘を与える。それこそが名作の証でしょう。

前半の2曲だけでも満足なのに、休憩を挟んでのシューベルト。それも「大ト長調」とでも呼ぶべき長大な四重奏曲です。これまたベートーヴェンを聴いた衝撃から生まれた作品ですが、ここには天才と狂気が同居するシューベルト独自の世界が展開していきます。
長いぞ、と意識する暇もなかった演奏。と言っておきましょうか。明らかにシューベルトこそこの日の白眉でした。シューベルトが降臨した瞬間がいくつもあり、そのままずっと聴き続けていたい不思議な陶酔感。第3楽章のトリオは泣きましたね。こういうこともあるのです。

こうなればエクには9年後、シューベルト没後200年の年にシューベルティアーデをやって貰うしかないでしょう。例えば長柄、あるいは蓼科でもよし、晴海も鶴見もある。シューベルトの様々な楽器編成による室内楽を集大成して、サロンの雰囲気で天才の音楽にどっぷりと浸り続ける数日間。
できればサプライズ、誰も試みたことのなかった「あの曲」を新しいアレンジで世界初演する、などと勝手な夢が膨らんでいく大ト長調でした。

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