ウィーン国立歌劇場公演「トスカ」(1)

ウィーン国立歌劇場からのライブ・ストリーミング、12月最初は名作「トスカ」です。11月30日、12月3・6日の3回公演の最終日6日の公演で、ストリーミングは日本時間7日の早朝から始まっていましたが、私は現地時間で全3幕が終わった時刻に東京を立ち札幌へ。帰ってから公演を見たのが放映最終日の9日になってからで、感想も遅れてしまいました。

オペラには俗に名作ABCというものがあって、それはアイーダ、ボエーム、カルメンのことですが、個人的には名作3大Tなるものがある、とも思っています。それがトラヴィアータ、トスカ、トゥーランドット。
その一つトスカもウィーンでは大人気で、実は今シーズンも今回のほか、来年3月にもライブ・ストリーミングが予定されています。従って「トスカ」(1)。早くからオッタヴァ・テレビの会員になられている方はご存じでしょうが、昨シーズンも「トスカ」は放映されていて、その時はカヴァラドッシを歌ったピョートル・ベチャラが国立歌劇場の宮廷歌手に選ばれた授賞式が行われた当日の舞台。当欄でもその様子をレポートしましたが、事程左様に「トスカ」はウィーンの定番でもあります。今回のキャストは以下の通り。

トスカ/エフゲニア・ムラーヴェワ Evgenia Muraveva
カヴァラドッシ/ジョセフ・カレヤ Joseph Calleja
スカルピア/ブリン・ターフェル Bryn Terfel
アンジェロッティ/ライアン・スピード・グリーン Ryan Speedo Green
堂守/アレクサンドルー・モイシウク Alexandru Moisiuc
スポレッタ/ヴォルフラム・イーゴル・デルントル Wolfram Igor Derntl
シャルローネ/イーゴリ・オニシュチェンコ Igor Onishchenko
看守/アイク・マルティロッシアン Ayk Martirossian
羊飼い/マリアム・タホン Maryam Tahon
指揮/マルコ・アルミリアート Marco Armiliato
演出/マルガレーテ・ヴァルマン Margarete Wallmann
舞台/ニコラ・ブノワ Nicola Benois

指揮者以下の布陣は全て前回と同じで、ウィーンではずっと上演され続けているヴァルマン演出の舞台。女性演出家のマルガレーテ・ヴァルマンは既に故人で、伝統に則った現実的な演出が、息長く続けられている理由なのでしょう。初心者でもヴェテランのオペラ通でも安心して見ていられます。客席は上演の都度替わる3人の主役の歌・演技にたっぷり酔える「トスカ」と言えましょうか。

今回の3人も夫々に見事。あくまでも個人的な感想ですが、特に圧倒的な存在感だったのがブリン・ターフェルのスカルピア。この悪役を最も悪者らしく、憎たらしく歌い演じたのには舌を巻いてしまいました。
何処をとっても感心頻りでしたが、一つだけ挙げれば第1幕最後のテ・デウムでしょう。ウィーン国立歌劇場のパイプ・オルガンが重々しく鳴り響き、スカルピアは十字を切りますが途中で止め、奸計を巡らして不敵な笑いを浮かべ、自らの策略に酔う仕草。それが音楽の進行と見事にマッチしていて、決して音だけでは味わえないオペラの醍醐味を堪能できました。
あ、もう一つ。同じ第1幕でスカルピアがスポレッタに小声で、トスカの跡をつけるよう命ずる場面。この歌唱など背筋が寒くなるほどの凄味。

敢えて言えば、今年6月の「トスカ」はまるで歌劇「カヴァラドッシ」だったの対し、今回は歌劇「スカルピア」。もちろんムラーヴェワのトスカ、カレヤのカヴァラドッシも素晴らしく、バランスも見事でしたが、ターフェルの演技力に魅入られないファンはいないのじゃないでしょうか。
今回の「トスカ」も、来年3月の「トスカ」も所謂レパートリー公演ですが、それでもこれだけのレヴェルで聴かせる、見せるのは流石にウィーンだと納得した舞台でもありました。

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