ウィーン国立歌劇場公演「ペルシネット」
ウィーン国立歌劇場からのライブ・ストリーミング、29日から事実上今年最後となる放映が始まっています。演目はアルビン・フリースの新作「ペルシネット」。
詳しいことは後述するとして、先ずは主なキャストを紹介しておきましょう。当初の発表からは大幅に変更され、歌手で予定通りだったのは魔女とカラスの二役だけとなりました。
ペルシネット/ブリオニー・ドワイヤー Bryony Dwyer
王子/ルカーニョ・モヤケ Lukhanyo Moyake
アルゼ(魔女)/モニカ・ボヒネック Monica Bohinec
父親/オルハン・イルディズ Orhan Yildiz
母親/レジーヌ・ハングラー Regine Hangler
アブラサクス(カラス)/ソリン・コリバン Sorin Coliban
指揮/ギレルモ・ガルシア・カルヴォ Guillermo Garcia Calvo
演出/マティアス・フォン・シュテーグマン Matthias von Stegmann
舞台装置/マルク・ユングライトマイヤー Marc Jungreithmeier
衣装/コンスタンツァ・メザ=ロペハンディア Constanza Meza-Lopehandia
ウィーン国立歌劇場では12月初旬にノイヴィルトの「オルランド」が世界初演されたばかりですが、直ぐに続けて新作オペラが公開されています。ただし、ノイヴィルトとは全く異なる作風のフリースが作曲したメルヘン。ウィーン国立劇場では定期的に子供向けのプログラムを提供しており、今回の「ペルシネット」もその一環。若い世代に実際に劇場に足を運んで貰い、ナマのオペラを体験することで将来のファンを育てていくという目的なのでしょう。今回のストリーミングを見ても子供連れ、家族揃ってという聴き手が多く見られました。(ライブ・ストリーミングでは開幕30分前から劇場内の様子が映し出されています)
さて「ペルシネット」、題材は有名なグリム兄弟の童話「ラプンツェル」。ある貧しい夫婦の間に産まれた女の子を魔女がもらい受け、塔の中に幽閉して育てている。そこに王子(ルイ・フィリップという名前)が登場して恋に落ちるが、魔女に見つかって離れ離れに。しかし放浪の末に二人は再開し、ハッピーエンドとなるストーリー。
グリムの原作は本当は恐ろしく、とても子供向きとは言えない内容が含まれているのですが、オペラ化に当たっては毒を排除し、新たに仲介役のカラスを登場させて上演時間1時間とコンパクトに纏められています。台本はブリジット・メイソン Brigit Mathon という女性が担当しました。(フリースとメイソンはカーテンコールにも登場します)
作曲のアルビンフリース Albin Fries は、1955年生まれのオーストリアの作曲家。ニューヨークでバーンスタインに作曲を学び、ザルツブルク音楽祭ではマゼールの助手を務めた方で、ウィーン国立歌劇場でスタッフとして働いた経験もあるそうです。ですからスターツオバーの仲間同士ということでもありましょう。20年の空白を経て2005年から作曲を再開し、徹底して後期ロマン派のスタイルを貫いています。
オペラは「ノラ」作品30(3幕もの)、「ティツィアン」作品35(1幕もの)に続く3作目。ペルシネットというタイトルは、パセリのフランス語(Persil ペルシと発音)から来ており、ラプンツェルをフランス語に読み替えたもの。敢えて日本語風に読み替えれば、「パセリちゃん」とでも呼びましょうか。余談ですが、原題のラプンツェルとなった学名ラプンクルス Rapunculus は、レタスではないそうです。
原作のグリム童話に関心がある方は、ウィキペディアの記事を参考にして下さい。童話そのものは短く、青空文庫で読むこともできます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%97%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A7%E3%83%AB
今回のオペラ化については、オーストリア放送協会(ORF)が写真入りで記事にしていますので、チラッとどうぞ。ドイツ語なので細部は理解できませんが、公演の写真が豊富で楽しめました。
https://orf.at/stories/3147803/
実際の舞台はビデオ映像を巧みに組み合わせていて、子供ならずとも楽しめます。特にペルシネットの長い髪を使って魔女が出入りするシーンがコミカルで、会場からも笑いが起きていました。魔女を演ずるボヒネックの魔法の杖の扱いが見事で、これも見所です。
音楽も、現代音楽的要素は皆無。私は見ていて、いや聴いていてゲーム音楽を連想しました。舞台も音楽もネット・ゲームを楽しんでいる感覚でしょうか。
ペルシネットと王子が魔女に見つかって罰を受けるまでが前半、二人のめぐり逢いから結末までが後半ですが、全体は通して上演されて1時間ほど。これなら子供も退屈せずに見ていられるでしょう。「ペルシネット」でオペラに入門し、次は「ヘンゼルとグレーテル」から「魔笛」へと進む。これがウィーンのオペラ体験コースになるのでしょう。ウィーン国立歌劇場、1月にはシッカリと「ヘンゼルとグレーテル」が用意されています。
最後の結末、これを書くとネタバレになってしまいますから見てのお楽しみ。オチには笑えましたが、魔女もカラスも悪人ではなかった、というところがミソかな。
「ペルシネット」は12月22日が初演で、25日と29日に再演。29日最終日の公演が放映されています。
最後にアルビン・フリースは楽譜を公開しており、ペトルッチ楽譜ライブラリー(IMSLP)というサイトでほとんどの作品を閲覧することが出来ることを紹介しておきましょう。現代の作曲家には珍しく作曲順に作品番号が付せられていますが、「ペルシネット」も出版の際に番号が決まるのでしょう。新作だけに楽譜は未だ公開されていませんが、いずれスコアを見ながら見る・聴ける日が来るものと思われます。
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