ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(12)

ウィーン国立歌劇場のアーカイヴ、現地7日に放送されたヤナーチェク「利口な女狐の物語」は、日本ではオッタヴァ・テレビを介して8日から10日一杯の三日間見ることが出来ます。
2016年4月11日の公演の記録で、残念ながら字幕がありませんが(チェコ語歌唱、全ての言語に字幕無し)、一人でも多くの方にこの素晴らしいオペラを体験していただきたいと思います。
登場人物というか森の生き物たちが数多く登場し、蛙を含めとしてウィーン・オペラ学校の生徒たちも多数参加。とても全員の名前をクレジットする余裕はないので、主なキャストだけを列記しておきました。

女狐ビストロウシュカ/チェン・レイス Chen Reiss
雄狐ズラトフシュビテーク/ヒョナ・コ Hyuna Ko
森番/ローマン・トレーケル Roman Trekel
森番の妻・フクロウ/ドンナ・エレン Donna Ellen
校長/ジョセフ・デニス Joseph Dennis
司祭・アナグマ/マーカス・ペルツ Marcus Pelz
蚊/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
行商人ハラシュタ/パオロ・ルメッツ Paolo Rumetz
パーセク(居酒屋の主人)/ヴォルフラム・イゴール・デルントル Wolfram Igor Derntl
パーセクの妻/ジョセフィーナ・モナーチャ Jozefina Monarcha
犬・キツツキ/イルセヤー・カイルロヴァ Ilseyar Khayrullova
おんどり/ハインツ・ツェドニク Heinz Zednik
めんどり/シミナ・イヴァン Simina Ivan
カケス/セシル・イルカー Secil Ilker
指揮/トマーシュ・ネトピル Tomas Netopil
演出/オットー・シェンク Otto Schenk
舞台装置/アムラ・ブッフビンダー Amra Buchbinder
照明/エメリッヒ・シュタイグベルガー Emmerich Steigberger

「利口な女狐の物語」と言えば、2006年だったかに日生劇場で見て痛く感動した記憶があります。高島勲の演出、広上淳一の指揮が素晴らしかったこともありますが、何よりヤナーチェクの音楽の力に圧倒されたものでした。あの時は日本語訳ながら人形と真っ暗闇を巧みに使い、自然讃歌をシンメトリックに謳い上げていましたっけ。その時の感動をそのまま書いた昔の記事を読み返し、当時を懐かしく思い出したりもしています。
当時はユニヴァーサル社のヴォーカル・スコアしか入手できず、細部まで予習することはできませんでした。しかしあれから10年が経ち、現在はヤナーチェクのスペシャリストでもあるチャールズ・マッケラスが多くのアドヴァイスを提供したフル・スコアが同じユニヴァーサルから出版されており、スコアを参照しながら配信を見るという贅沢も味わうことが出来るのです。

ウィーン国立歌劇場のシェンク演出は、日生の高島演出に比べれば遥かにオーソドックスでリアリスティックと言えるでしょう。全3幕は切れ目なく上演され、休憩は入りません。それでも全体で1時間半強ですから、一気に見てしまいました。
森の入り口と思われる場所が舞台となっており、アナグマの住処も森番の庭先も、居酒屋の店先も同じセットで展開していきます。

そもそもヤナーチェクのオペラは、故国チェコやモラヴィアを別にすれば、ウィーンは本場に次いで相性が良い歌劇場と言えるでしょう。上記マッケラスがウィーン国立歌劇場と録音したデッカ盤は、このオペラの定盤でもあります。
ウィーンに次いでヤナーチェクを受け容れ易いのが、日本じゃないでしょうか。ヤナーチェクの不思議な世界は、日本人にはすんなりと受け入れられる要素がある。人間と自然が一体になっている世界観は、日本人も共感できるもの。それが転生輪廻に通じ、「自然は繰り返す」ラストシーンに感動してしまうのでしょう。シェンク演出の幕切れも感動的でした。

ビストロウシュカを歌うレイスは、これまでもレオノーレのマルチェリーナ、アリオダンテのジネヴラでライブストリーミング・ファンにはお馴染みのソプラノ。相手方を務めるズラトフシュビテークのヒョナ・コは、韓国のソプラノで、日本でも東響や京響のベートーヴェン第9のソリストにも選ばれていますから、聴かれた方も多いでしょう。森番のトレーケルは、オペラでもリートの世界でも大活躍で、存在感十分。
あっと驚くのが、おんどり役に大御所ツェドニクが起用されていること。本来この役はヤナーチェクが15才位の少女が歌うソプラノと指定しているのですが、この公演では大ヴェテランのテノールが歌います。ツェドニクはカーテンコールにも出てきませんので見落としてしまいそうになりますが、これ、必見かも。私も最初の視聴で見落としてしまいましたから、この後もう一度見て確認したいと思います。

そして素晴らしいのが、ネトピルの指揮。活き活きとした棒で、同郷の大先輩の音楽に血を通わせています。この公演を三日間楽しめるのは望外の喜びと言えるでしょう。

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