ウィーン国立歌劇場公演「パルジファル」
ウィーン国立歌劇場の「パルジファル」、アーカイヴ配信として纏めるつもりでしたが、この公演は独立させることにしました。パルジファルは本来4月12日の公演がライブ・ストリーミングされ、オッタヴァ・テレビでも三日間は視聴可能になる演目でした。止むを得ず劇場を閉鎖しているため、日本時間で今日(4月13日)から放映されている「パルジファル」が16日の早朝日まで見ることが出来るからでもあります。
この演目は聖金曜日の前日にも配信され、それはアーカイヴ(14)として紹介しました。今回のものはそれとは全く異なる演出で、2017年4月13日の公演の由。同じく3年前の復活祭期間中に上演されたものでしょう。
なお、アーカイヴ放送では15日にも去年4月の公演が配信される予定で、それも今回と同じヘルマニス演出となっています。もちろん今年も同じ演出で、日本でも馴染み深いハルトムート・ヘンヒェンが指揮することになっていました。
先ずキャスト等を書き出しておきましょう。
アムフォルタス/ジェラルド・フィンリー Gerald Finley
ティトゥーレル/パク・ヨンミン Jongmin Park
グルネマンツ/ヨン・クワンチュル Kwangchul Youn
パルジファル/クリストファー・ヴェントリス Christopher Ventris
クリングゾール/ヨッヘン・シュメッケンベッヒャー Jochen Schmeckenbecher
クンドリー/ニナ・シュテンメ Nina Stemme
小姓1/ウルリケ・ヘルツェル Ulrike Helzel
小姓2/ミリアム・アルバーノ Miriam Albano
小姓3/トーマス・エベンシュタイン Thomas Ebenstein
小姓4/ブロール・マグヌス・テーデネス Bror Magnus Todenes
聖杯守護騎士1/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
聖杯守護騎士2/クレメンス・エンターライナー Clemens Unterreiner
花の乙女1/イレアナ・トンカ Ileana Tonca
花の乙女2/オルガ・べズメルトナ Olga Bezmertna
花の乙女3/マーガレット・プランマー Margaret Plummer
花の乙女4/ヒラ・ファヒマ Hila Fahima
花の乙女5/カロリーネ・ウェンボーン Caroline Wenborne
花の乙女6/イルセヤー・カイルロヴァ Ilseyar Khayrullova
天上からの声/モニカ・ボヒネク Monika Bohinec
指揮/セミョーン・ビチュコフ Semyon Bychkov
演出/アルヴィス・ヘルマニス Alvis Hermanis
衣装/クリスティーネ・ユルヤーネ Kristine Jurkane
照明/グレーブ・フィルシュティンスキー Gleb Filshtinsky
映像/イネタ・シプノーヴァ Ineta Sipunova
舞台装置協力/シルヴィア・プラツェク Silvia Platzek
最初に注意を喚起しておくと、今までの公演と違って今回は音声がモノラルになっています。音質は決して悪くありませんが、これまでのようなホールの広がりが感じられないのは残念。
字幕は、これも今までの様に歯車マークから選択する方式ではありません。画面下の一番右、小さな丸が縦に三つ並んでいるアイコンをクリックすると原語が選択できます。出てくる字幕はかなり大きな文字で、歌詞の内容が判っている人には却って邪魔になるかもしれませんので、ご注意を。
前回ご覧になられた方はさぞ驚かれるでしょうが、演出によってこうも印象が異なるものでしょうか。ミーリッツ演出では、第1幕はモンサルヴァッへ城の一室という程ではないものの、それらしい舞台。そして第2幕がキャバレーという設定が異彩を放っていましたが、現在ウィーン毎年上演されているヘルマニスの新演出は、全3幕とも病院に置き換えられているのが特徴でしょう。いわゆる深読み・読み替えワーグナーです。
この病院もズバリ「ワーグナー病院」(Wagner Spital)となっています。(ドイツ語でも病院は Hospital ですが、ウィーンでは Spital と呼ばれているのでしょうか) グルネマンツはワーグナー病院の院長、グルネマンツも同じ病院の怪しげな医者という設定になっているようです。ま、アムフォルタスは深手を負った患者ですから、こういう発想もあるのかと・・・。
ということで冒頭から違和感満載の舞台なのですが、我慢して見続けていると、不思議なことに馴染んできます。バイロイトでも奇妙奇天烈な演出が大流行のようですが、それでも皆挙ってバイロイト詣でをするのは、ワーグナーの魔力故なのだと改めて思いましたね。
しかしながらヘルマニス演出もツボだけは外していないので、特に第3幕は大変感動しました。
病院が舞台という他に、各幕に共通して使われるアイテムが3つあります。一つはベッド、これは病院だから当然でしょうか。あとは脳味噌の模型と、何故か蓄音機が置かれていました。
夫々に象徴的な意味があると思われますが、私のような浅学無知の輩にはこの謎を読み解く力はありません。脳は記憶の集積地であり、叡智の源ということか。蓄音機は過去の音、未来の声を象徴するとでもいうのでしょうか?
更にこの演出には意外なシーンも。例えば第1幕では、眠りに就こうとするクンドリーを檻状のベットに閉じ込めて収監する背広の人物が登場しますが、これどう見てもクリングゾールですよね。普通クリングゾールは第2幕にしか登場しませんが、最初の幕にチラッとでも姿を見せるということは(もちろん歌いませんよ)、この病院に勤務しているということ。こんな演出は初めて見ました。
また第2幕冒頭、そのクリングゾール医師が女性患者を看取る場面がありますが、この女性、あとの演出から見てパルジファルの母ヘルツェライデでしょうね。パルジファルの父はガムレット、母がヘルツェライデということになっていますが、それを見せるという演出もこれまで見たことはありません(バイロイトでは行われているのでしょうか)。
第3幕でも意外な幕切れが待っています。それは、最後に聖杯の覆いを取るのがアムフォルタスでもパルジファルでもなく、クンドリーであること。全曲の終わりに死ぬのは、どうやらアムフォルタス。望んでいた死が訪れるということ?
カーテンが下りる前に、仄かに照明が当てられるのはグルネマンツ、蓄音機、脳味噌。これも私の貧弱な脳味噌では理解できませんでした。
拍手に付いてですが、前回の上演同様、第1幕の後では拍手しないのが伝統のようです。一人パチパチと叩き始めましたが、直ぐに周囲から制されていました。
そもそもこの演出では拍手に迎えられる指揮者の登場が無く、前奏曲が始まる前から幕が上がり、病院の朝が始まるという設定。第2幕以降は普通のオペラと同じように拍手もあり、盛大なカーテンコールもあります。実際に劇場に出掛けて「パルジファル」を鑑賞する際のエチケットとして覚えておきましょうか。
ということで、次は同じ演出がゲルギエフ指揮、別キャストで聴ける予定になっています。
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