東京籠城日記(6)

1759年の今日、ヘンデルが74才で亡くなりました。ドイツ出身でありながら主にイタリアで学び、イギリスに帰化してオラトリオのジャンルを確立した大作曲家です。
実は昨日、4月13日はヘンデルのオラトリオ「メサイア」が初演された日で、死の17年前の1742年のこと。ロンドンではなくダブリンで、でした。その後ヘンデルは生前に何度も「メサイア」を上演し、曲によっては3種類ものヴァージョンが存在するほどです。

今日は命日に因んで「メサイア」を聴こうと思いますが、手元のCDから迷うことなく選んだのが、サー・コーリン・デーヴィスが指揮したフィリップス盤。実は今日は、偶然ながらデーヴィスの命日でもあるのですね。
このCDはフィリップスが創立されて50年になるのを記念して発売した「フィリップス50」というシリーズの1枚(2枚組)で、1966年のアナログ録音を 96kHz 24-BIT でリマスタリングした盤。

私が初めてナマで「メサイア」を聴いたのは、マタチッチ指揮のN響で、定期演奏会ではなく12月の特別演奏会だったと思います。良く覚えているのは、例のハレルヤ・コーラスが始まると、多くの人たちが何の違和感も無く立ち上がって聴いていたこと。もちろん私も連られるようにして立ち、こういう風習なのかと思って起立したものでした。「メサイア」の演奏会に行かなくなって久しいのですが、この習慣は今でも続いているのでしょうか。

指揮者のコーリン・デーヴィスについても思い出があります。私が英国屈指のマエストロにナマで接したのは、英国ロイヤル・オペラの公演で「魔笛」を鑑賞した時。古いことで正式な日付は記憶にありませんが、確か1979年の秋、上野の東京文化会館でした。
この魔笛は、最後にパパゲーノとパパゲーノの子供たちが続々と登場してくる楽しい演出で、会場も爆笑の渦。カーテンコールでの大喝采をパパゲーノ役のトーマス・アレンが制してデーヴィスを紹介し、“マエストロ・デーヴィス夫人も今、懐妊中なんです” とスピーチして客席の拍手が一層高まったことを昨日のことのように覚えています。そのマエストロも2013年の4月14日に帰らぬ人となってしまいました。

ということで「メサイア」。サー・コーリン・デーヴィスがロンドン交響楽団を指揮して1966年6月にロンドンで録音した1枚で、手元のCDには録音技術者などのクレジットはありません。
ソプラノはヘザー・ハーパー Heather Harper 、アルトにヘレン・ワッツ Helen Watts 、テノールはジョン・ウェイクフィールド John Wakefield 、バスがジョン・シャーリー=カーク John Shirley-Quirk というソリストと、ロンドン・シンフォニー・コーラス(合唱指揮はジョン・オールディス John Alldis)。他にオルガンがラルフ・ダウンズ Ralph Downes 、ハープシコードにレスリー・ピアーソン leslie Pearson 、トランペットのウイリアム・ラング William Lang の名前が挙がっています。

メサイアは録音も多く、些か大時代的で古風なものから、ピリオド系の尖ったものまで多士済々。それでも私は、オーセンティックな姿勢の中にもエンターテイメントとしての要素を忘れていないデーヴィス盤がベストだと思っています。これをパソコンに取り込んで最新の再生ソフトで再現する。LPでは聴き取れなかった微妙なニュアンスやホールの空気感まで収録されていて、アナログ最後期の温かみある録音が楽しめます。

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