ウィーン国立歌劇場公演「アルジェリアのイタリア人」

これは楽しい!!
ロッシーニのオペラ・ブッファでは圧倒的に「セヴィリアの理髪師」が有名ですが、それだけで満足しちゃもったいない。そんなオペラが、ウィーン国立歌劇場から配信されるアーカイヴ・シリーズで楽しめます。この機会に、是非多くの方々に見て貰いたいと思いますね。もちろんクラシック音楽に縁のない方たちも。

ロッシーニでは既に「シンデレラ」を2種類の公演で堪能しましたが、今回の「アルジェリアのイタリア女」も二度楽しめます。その二つを纏めてアーカイヴ・シリーズのレポートにする積りでしたが、予定を変更して現地17日に放映されているエディションを紹介しちゃいましょう。
アルジェリアのイタリア女と言っても、ほとんどの方は序曲しかご存じないでしょう。そこで荒筋だけでも紹介しようと思います。幸い、未だ閉鎖される前にウィーン国立歌劇場のホームページで掲載されていた記事を、故あって小生が日本語に直したものがありますので、それをご覧ください。

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ムスタファが浮気相手を探し求めています。美しいイタリアの娘イザベラが、船が乗っ取られて都合よくやって来ました。しかし、事はとんとん拍子には運びません。ムスタファの宮殿で、イザベラは彼女の本当の恋人であるリンドーロを見付けます。二人は逃げ出そうと決意します。ムスタファは、何も見ず、何も聞かず、ただ食べて飲むだけという偽の秘密結社パパタチに入会してしまいます。今やイザベラとリンドーロは自由に駆け落ちすることが出来ました。こうしてムスタファは、忠実な妻エルヴィーラの元に戻るのでした。

第1幕

アルジェリアの都督ムスタファの妻エルヴィーラが、都督が彼女に冷たくなったと運命を嘆いています。宦官たち、ズルマ、お気に入りの奴隷、宮殿警備隊長のハーリーが彼女を慰めています。女性は不幸になるために生まれてくるものだ、と。ムスタファは自分のハーレムに飽き飽きしていました。彼はハーリーにイタリア人の娘を見つけてくるよう命じ、もし失敗すれば串刺しの刑に処す、と申し付けます。リンドーロは奴隷の身であることを嘆き、恋人イザベラと再会することを夢見ています。ムスタファは、彼のお気に入りの奴隷であるリンドーロに、飽きてしまったエルヴィーラと結婚して彼女を連れて行ってくれるなら、次の船で故国に送り返してやろう、と相談を持ち掛けます。ムスタファは、リンドーロがこの微妙な立場から逃れられないようにするために、エルヴィーラを魅力的に見せるように試みていました。ハーリーとその手下たちが船を拿捕することに成功します。略奪品の中に、イタリア娘のイザベラがいました。イザベラは、捕虜になった運命の残酷さを呪いながらも、この状況から最善の解決策を見出そうとしています。イザベラは、最愛のリンドーロを見付けようとしていたのでした。仲間のタッデオが、その叔父であるふりをします。イザベラを愛しているタッデオも、嫉妬心も手伝って目立つよう派手に振舞います。ハーリーはムスタファに美しいイタリア娘を捕まえた、と報告します。欲望に駆られたムスタファは、自分で美女を見たいと我を忘れてしまいました。エルヴィーラとリンドーロは、共にイタリアへ旅立つ運命を受け入れます。イザベラは直ぐにムスタファの気に入ってしまい、「叔父」のタッデオを拷問から救い出すことに成功します。
リンドーロ、エルヴィーラ、ズルマの3人が都督に別れの挨拶に来た時、イザベラとリンドーロはたちどころにお互いを認めます。間違いなく大混乱が待っていました。

第2幕

誰もが、愛すべき阿呆者になったムスタファを笑っています。ムスタファはイザベラとコーヒーを飲みたがり、エルヴィーラが彼女を招待するように送り付けられます。リンドーロは、イザベラにその忠誠心を伝えることに成功しました。二人は共に逃げ出そうと決意し、リンドーロがその喜びを口にします。イザベラの機嫌を取るため、ムスタファはタッデオをイスラム教徒の保護者である『カイマカン』に任命します。タッデオはその馬鹿馬鹿しさを承知していましたが、拷問の恐怖から逃れるためにも、この「栄誉」を受諾します。イザベラは、最愛の人のために丁寧に振舞います。彼女はムスタファ、リンドーロ、タッデオの3人から注目されていたのです。3人夫々が、イザベラの丁寧な振る舞いが自分のためだ、と思い込んでいました。ムスタファは何とかイザベラと二人きりになろうとしますが、上手くいきません。リンドーロとタッデオも負けてはいません。イザベラがエルヴィーラに一緒にコーヒーを飲むように誘い、彼女と都督を仲直りさせるよう試してみましたが、都督は完全に平常心を失ってしまいました。ハーリーはイタリア人女性のやり方について哲学的な見解を述べます。リンドーロはタッデオに、都督を騙すイザベラの計画について話します。タッデオはリンドーロに自分がイザベラの求婚者であると打ち明けますが、リンドーロは真面目に受け取ろうとしません。リンドーロはむかっ腹を立てている都督を宥め、イザベラが彼女の愛の証としてムスタファにパパタチ結社(沈黙の修行者)に推薦する積りであると語ります。この結社のメンバーは食べること、飲むこと、眠ることだけに徹することで生涯を送る定めなのです。ムスタファは、この結社に入ることに喜んで同意します。リンドーロはタッデオに、この筋書きがイタリア人捕虜全員を解放することに繋がる、と説明します。イタリア人奴隷たちはイザベラの計画に従うことになっていました。リンドーロと奴隷たちは、イタリアへの即時帰国という考えに動かされています。タッデオは未だ、それが全てであるのかと躊躇していました。ムスタファがパパタチ結社に入会しました。彼は結社の規則に誓うことを宣言し、見ることもせず、聞くこともせず、食べて飲むことだけに徹すると誓います。イザベラとリンドーロは、苦も無く脱出することが出来ました。タッデオも遂に状況を飲み込み、二人を追います。ムスタファは騙されたと気付きましたが時すでに遅く、エルヴィーラの許しを請うしかありませんでした。終わり良ければ総て良し。

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ウィーン国立歌劇場のストリーミングは、原則として日本語字幕が見られるのか最大の利点。これがメトロポリタンやベルリンとは違うところで、良く知らないオペラを見るときには字幕が断然効果を上げることは自明の理でしょう。上に掲げた荒筋と字幕とで、たっぷりロッシーニ・オペラの楽しさを味わってください。
最初に配信されているのは2015年4月30日の公演で、キャストは以下の通り。

「アルジェリアのイタリア女」(2015年4月30日)
ムスターファ/イルダー・アブドラザコフ Ildar Abdrazakov
エルヴィーラ/アイーダ・ガリフッリーナ Aida Garifullina
ズルマ/レーチェル・フレンケル Rachel Frenkel
ハーリー/アレッシオ・アルドゥイニ Alessio Arduini
リンドーロ/エドガルド・ロチャ Edgardo Rocha
イザベラ/アンナ・ボニタティブス Anna Bonitatibus
タッデオ/パオロ・ルメッツ Paolo Rumetz
指揮/ヘスス・ロペス・コボス Jesus Lopez Cobos
演出及び舞台装置/ジャン=ピエール・ポネル Jean-Pierre Ponnelle

定評あるポネルの舞台ですから、演出はバッチリ。指揮するロペス=コボスは、残念ながら2018年に亡くなりましたが、バルセロナで上演した同じロッシーニの「ランスへの旅」を収録したDVDですっかりお馴染み。
コボスは以前に日本フィルのマエストロ・サロンに登場し、ファリャとプッチーニの人間性比較など楽しい逸話を聞かせてくれた思い出もあります。

今回の配信はモノラル録音ですが、ロッシーニのオーケストラは室内オケほどの小さいアンサンブルですから、パルジファルの様に気にはなりません。寧ろ、コンマス・キュッヒル以下のアンサンブルがアットホームで楽しめます。
タッデオがカイマカンに任命されるところで歌われるナンバーには、序曲に出てくるロッシーニ・クレッシェンドの一節が使われていることにも注意しましょう。

なお、「アルジェリアのイタリア人」は2017年の別キャスト・別指揮者による公演が21日にも配信されますから、聴き比べもお楽しみください。

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