東京籠城日記(9)

そろそろ弦楽四重奏が恋しくなってました。どの演奏会も中止、または延期になっていますから、例によって籠城しながらの楽しみです。時間の余裕だけはありますから、手元に無い音盤、何時かは聴きたいと思っていた演奏を探しましょう。

こんな時に有難いのが、ナクソスの音楽図書館・ナクソス・ミュージック・ライブラー(略してNML)ですね。私が会員になって随分年数が経ちましたが、最初の頃は配信される音源は多いものの、取り敢えず試し聴きして貰って気に入ったら現物のCDを買ってください、という方針だったように思います。購入サイトに飛ぶことが出来ますし、現に現在でもNMLを通して購入も可能。
ところがある時期から方針に変化が生じました。愛好者の性向が所有から利用に変化し、技術面の発達も手伝って、NML自体が音楽鑑賞の場になって来たようです。これに合わせて配信の音質が向上し、現在は高音質と通常音質をリスナーが自分で選べるようになりました。

NMLでは原則、日曜日を除く毎日新しい音源が加わり、現時点では参加レーベル数967、配信CD枚数も13万6千枚以上、曲数は何と210万曲以上と、何を聴くか迷う程です。
そこで極く最近新しく配信されたものから面白そうなものを探してみると、ありましたね。先週の火曜日に新着となったビダルフ・レコーディングス Biddulph Recordings から出ているカペー四重奏団の2枚組アルバムです。

このレーベルは歴史的録音のリリースで有名で、イギリスの弦楽器販売&修復業者であるピーター・ビダルフが1989年に創設し、弦やピアノの復刻に定評があります。同じ日に「20世紀の偉大なヴァイオリニストたち」というCD10枚組の興味深いものも新着となりましたが、それは何れ聴いてみましょう。
カペー四重奏団の録音がNMLで配信されるのは殆ど初めてですし、私もこの歴史的団体の名前は知っていましたが、実際に音源を聴くのは初めてです。

このCDはブックレットもダウンロード出来るので併せて読んでみると、解説がレコード・コレクターで有名なタリー・ポッター Tully Potter (ハリー・ポッターじゃありませんよ)、復刻もウォード・マーストン Ward Marston というその道のスペシャリストですから楽しみです。
収録されているのはシューベルトの「死と乙女」、シューマンの第1、フランクのピアノ五重奏曲(ピアノはマルセル・シャンピ Marcel Ciampi)、それにドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲。

これに幸松肇氏が著された「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」があれば鬼に金棒、今日はこの音源を聴いて一日を楽しみました。
カペー四重奏団には、漠然と昔のスタイル、ポルタメントを多用して現代では時代遅れの演奏というイメージを抱いていましたが、そういう思い込みはほぼ間違いであることが判りましたね。先ず演奏技術が予想以上に素晴らしいし、格調高く磨き抜かれ、考え抜かれた解釈であるということが判ります。特に作品の終結に向かって集中力が高まり、圧倒的な迫力を聴かせるのが凄い。

確かに若干のポルタメントがありますが、それはシューベルトとシューマンだけ。古典派に近いシューベルトは極めて少なく、ロマン派のシューマンにやや多いというのも納得です。
これらは全て1928年の録音だそうですが、マーストン復刻の素晴らしさもあって音質が予想以上に良いのも驚きでした。幸松評では、フランクは録音が古く音が悪すぎると書かれていますが、NML配信で聴く限り、充分鑑賞に堪えるレヴェルじゃないでしょうか。

ということで、これは大発見でした。これに続いてカペー四重奏団が残した他の録音、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンが続くことに期待しちゃいましょう。

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