東京籠城日記(10)

今日は4月23日。ということで思い当たることがある方は余り多くないと思われますが、1616年のこの日、二人の文豪が亡くなっているんですね。シェークスピアとセルバンテス。文学好きの皆様はご存じでしょうが、実はこれにはカラクリがあって、同じ4月23日と言ってもシェークスピアとセルバンテスが亡くなったのは同じ日ではない。
これも良く知られていることですが、当時は暦そのものが2種類あって、現在のグレゴリオ暦を取り入れるのが早かったのがヨーロッパ大陸。対して英国教会のイギリスはユリウス暦を使っていた。両者の間には10日ほどのズレがあったので、スペインのセルバンテスは現在と同じ4月23日が命日なのに対し、シェークスピアは現在の暦に換算すれば5月3日だかに当たるそうな。

でも、そんなことはどうでも良いでしょう。要するに、もし当時現在と同じような新聞があれば、セルバンテスの訃報が掲載されて間もないうちに、イギリスからシェークスピアの死が伝えられたということ。同じ1616年の出来事として、文学界ならずとも大きな話題になったことは間違いないでしょう。

シェークスピアとセルバンテスと言えば、ロシアの文豪ツルゲーネフにも触れなければいけませんね。それはツルーゲネフが1860年に行った講演が元になっているのですが、彼は人間の性格を二つに分けて説明しようとした。それがハムレット型とドン・キホーテ型。つまりシェークスピアとセルバンテスの代表作に登場する二つの主人公を人間全般の性格を代弁する典型として取り上げたのでした。
ツルゲーネフによれば、ドン・キホーテは信仰そのものの表象であり、ハムレットは懐疑の象徴。決断力と優柔不断と読み替えても良い。これ、現代の様々な分野で当てはまるような気がしますがどうでしょうか。

ということで4月23日は3人の文豪に思いを馳せる一日なのかもしれません。
さて小欄は音楽好きということで、シェークスピアとセルバンテスに因んだ音楽を色々聴いてみようと考えました。先ずシェークスピアですが、これはクラシック音楽にとっては発想の根源ようなもので、一つ二つに絞ることはできません。オペラという分野だけに限っても、シェークスピア作品でオペラ化されたものは30作品近くに上るようです。シェークスピアが登場人物になるものも、例えばタン・ドゥンのオペラにありましたね。

一方セルバンテスは、代表作「ドン・キホーテ」一作に集中していると言って過言ではないでしょう。手元にある音楽辞典によれば、何と「ドン・キホーテ」を題材にしたオペラだけでも100曲近くあるとのこと。もちろんセルバンテスが登場してくるオペラもあるそうで、ヨハン・シュトラウスの作品だとか。
ドン・キホーテを題材にしたオペラは殆どが無名の作曲家ですが、普通に音楽史に名が残っている作曲家を年代順に挙げると、ピッチーニ、テレマン、サリエリ、メルカダンテ、メンデルスゾーン(カマチョの結婚)、ドニゼッティ、ホイベルガー、マスネ、ファリャ(ペードロ親方の人形芝居)、ハルフター、ペトラッシ等々でしょうか。

「ドン・キホーテ」の場合、リヒャルト・シュトラウスに有名な交響詩がありますし、ラヴェルにも歌と室内オーケストラのための「ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン・キホーテ」という名曲があります。昨日たまたまNMLを検索していて、アウシュヴィッツで犠牲になったウルマンという作曲に「ドン・キホーテのファンダンゴ」という8分ほどのオーケストラ作品があるのを見つけてしまいました。
今日はそんなわけで、4月23日が本当の命日となるセルバンテスを偲び、ドン・キホーテを題材にした音楽を集めた空想の音楽会で一日を過ごしましょう。

ウルマン/ドン・キホーテのファンダンゴ
ラヴェル/ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン・キホーテ
リヒャルト・シュトラウス/交響詩「ドン・キホーテ」
ファリャ/歌劇「ペードロ親方の人形芝居」

なんてのはどうでしょうか。時間が余ったら、アンコールにメンデルスゾーンの歌劇「カマチョの結婚」序曲、かな。

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