東京籠城日記(11)

今日は速報ということでニュースを一つお知らせします。

度々紹介しているように、NMLではほぼ毎日、新着タイトルとして多くの音源が配信されます。昨日、4月23日には何と去年サントリーホールのブルーローズで行われたクス四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会のライヴ録音が配信されましたッ!!
ルビコン・クラシックス Rubicon Classics というイギリスのレーベル。設立が2016年という比較的新しい会社で、日本では余り知られていない演奏家や団体の録音が多いようです。尤も、私が知らないだけかも。

アルバムは初期・中期・後期の作品ごとに纏められていますが、必ずしも番号順に並んではいません。第13番の作品130は終楽章に大フーガが使われる版で、もちろん作品130の5つの楽章の後に大フーガが入っています。
終わりに拍手が収録されているものとないものとがありますが、ゲネプロなどの音源も使われているのでしょうか。繰り返しも様々で、特にルールはないようですね。

毎年サントリーホールでは6月にチェンバー・ミュージック・ガーデンという室内楽の音楽祭があって、その目玉が一つの団体によるベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏であることは皆様ご存じの通り。回を重ねるに連れて人気が高まり、今やチケット入手がかなり難しい演奏会の一つじゃないでしょうか。
私は去年のクスも聴きたかったのですが、チケット争奪戦に参加する意欲も無く断念。せめて最終日にベートーヴェンへのオマージュとなる新作の初演のある日だけでも単券でと考えたのですが、生憎その日は他のコンサートと重なっていて断念。結局、一日も聴けずに終わったツィクルスでした。

見事通し券で聴かれた知人にコンサートの様子を伺ったところ、首を傾げる方が何人かおられました。私はクス四重奏団はかなり以前から何度も聴いていて大好きな団体なのですが、あれ、どうしちゃったのかなと思っていた矢先です。
早速、昨日の午後から聴き始め、一気に聴き通してしまいました。全曲の最後には、私が密かに楽しみにしていたマントヴァーニの弦楽四重奏曲第6番「べートヴェニアーナ」も収録されています。これがまた面白くて、ベートーヴェンの全17曲からフレーズが少しづつ引用されているもの。数えながら聴く楽しみもあります。

いやぁ~、素晴らしかったですね。冒頭に収録されているのが第3番で、その出だしが確かに癖のあるアーティキュレーションで、テンポやフレージングも自由というか身勝手というか、なるほどこれで首を傾げた方がおられたのでしょう。それはラズモフスキー第1の第1楽章、主部の第1主題の歌い回しも同じ。でも繰り返しでは普通に演奏していましたから、ファーストのヤナ・クスがチョッと茶目っ気でも出したのではなかろうか。何しろライブですから一発勝負のスリルがあっても良いでしょう。私はこれ、否定しません。

それを除けば、全曲演奏に掛ける集中力の凄まじさ、圧倒的なテクニック、確信に満ちた作品解釈と、クス四重奏団が独自のベートーヴェン像を打ち立てたことに感動するアルバムと断言しましょう。
何より録音が抜群に良い。私はブルーローズで何度も室内楽を聴いていますが、実際には決してこんな音には聴こえません。私は体験がありませんが、恐らく最前列で聴けば、このような眼前での迫力ある音響が楽しめるのかもしれませんね。道理で皆、最前列席の奪い合いになるわけだ。

演奏には普通、楽音以外のノイズが生じます。演奏者の気合、鼻息、思わず足を踏み鳴らしてリズムを取る音、譜面を捲る音等々、それが全部聴こえてくる生々しさ。
これが録音であることを忘れ、私は思わず手に汗を握ってしまいました。パソコン画面にはスコアを表示し、細部を確認しながら聴くという、実際のコンサートでは出来ない楽しみもあります。今や音楽はパソコンで楽しむ時代。

ブックレットが読めるのも嬉しいサービスで、ヤナ・クスとヴィオラのウイリアム・コールマン、それに新曲を書いたブルーノ・マントヴァーニが解説を書いています。言語は英語とドイツ語。
それによると、彼らが2018年6月にヒットザッカー・サマー・ミュージック・フェスティヴァルでベートーヴェン全曲演奏会を敢行した時に、なぜ全曲録音が無いのかと問われた由。そこから急速に話が進み、来年6月に東京で、と急速に展開していった経緯が紹介されています。ラッキーなことに日本音楽財団がストラディヴァリウスの「パガニーニ」セットを貸与してくれることになり、ここに前代未聞の全曲録音が完成。

ところで、今年のチェンバー・ミュージック・ガーデンは開催できるのでしょうか。出来ても出来なくても、この全曲録音で楽しむという手もあります。CD本体が既に発売されているのかどうか、このところCDショップには縁の無い私には判りませんが、今日はタップリとベートーヴェン・ワールドに浸ることが出来ました。

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