東京籠城日記(12)

5月1日は、クラシック音楽好きにはいろいろなネタが見つかる一日です。
先ずモーツァルト愛好家にとっては、歌劇「フィガロの結婚」が初演された日として忘れるわけにはいきませんね。1786年のこの日にブルク劇場で初演されました。ウィーンには現在でもブルク劇場という名前の劇場が存在しますが、それは演劇を専門にしている劇場で、フィガロが初演されたのと同じ場所じゃありません。ところが今は存在しない旧ブルク劇場の内部を描いたクリムトの絵が残っていて、当時を知る貴重な資料でもあるということを最近教わりました。

話変わって5月1日と言えば、ドヴォルザークの命日でもあります(1904年)。フィガロは最近ウィーン国立歌劇場のアーカイヴ配信でいくつかの公演を見ましたから、今日はドヴォルザークをゆっくり聴こうじゃありませんか。
そこで5月1日に縁のある演奏家で、と思って探していると、アントニオ・ヤニグロの名前に行き当たりました。チェロの名手ヤニグロ、実は彼も5月1日に亡くなっている(1989年)んですね。

ヤニグロは、遥か昔に一度だけ聴いたことがありました。但しチェリストとしてではなく、指揮者として。昔の記録を引っ張り出してみると、昭和41年(1966年)5月7日、東京文化会館で行われた日本フィル第120回定期演奏会を指揮したのでした。プログラムは、
ベートーヴェン/交響曲第2番
ヒンデミット/弦楽と金管楽器のための音楽
チャイコフスキー/交響曲第4番
というもの。ベートーヴェンとチャイコフスキーがどんな演奏だったかまるで覚えていないのですが、真ん中で取り上げられたヒンデミットだけは、2階だったか3階だったかの正面席から見たヤニグロの指揮姿を辛うじて思い出すことが出来ます。確か、当時この曲をバーンスタイン指揮のLPで聴いていて関心が強かったのでしょう。

思えばヤニグロは、その頃はチェリストとしてよりもザグレブ・ソロイスツという弦楽オーケストラを率いる指揮活動で知られていたのでした。籠城生活で色々昔のことを考えていて、思い出した次第。
ならばヤニグロが弾いたドヴォルザークのチェロ協奏曲は無いのか、と思いついてNMLで検索してみると、やはり出てきました、ピッタリの音源が。

それはヘンスラーというレーベルを創始したギュンター・ヘンスラー社長が新しく立ち上げたプロフィール Profil なるレーベルから出たもので、このレーベルは過去のライブ音源をCD化するのが目的だそうです。
その名もズバリ、「アントニオ・ヤニグロ・希少音源集」。ディスク4枚分のライブ演奏が収録されていて、件のドヴォルザーク/チェロ協奏曲は、エーリッヒ・クライバー指揮ケルン西ドイツ放送交響楽団の演奏で、1955年のライブ。エーリッヒ・クライバー指揮というのが嬉しいじゃありませんか。

このアルバムにはハイドン、ボッケリーニ、ヴィヴァルディ、コレルリの協奏曲、ベートーヴェンとブラームスのチェロ・ソナタ、ジャン・フルニエやスコダと共演した大公トリオ、ライナー指揮シカゴ交響楽団との「ドン・キホーテ」などこれまで聴いたことの無かった録音がギッシリ詰まっています。
このCDセットはブックレットも読めて、ヤニグロが来日した頃はラジオ・ザグレブ交響楽団というフル編成のオーケストラの指揮者も務めていて、ベートーヴェンやチャイコフスキーも得意とするレパートリーだったと想像できます。

今日はそんなことに思いを馳せながら、ヤニグロを偲んで先ずドヴォルザークを、次いで彼のチェロ演奏へと聴き進んでいくことにしましょうか。

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