ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(33)

アーカイヴ配信によるワーグナー「ニーベルングの指環」サイクル第2弾、「ワルキューレ」です。指環は正しくは序夜と三部作と言うべきでしょうが、現実的には4日間を要するので「ワルキューレ」は第二夜となりますね。3月のアーカイヴ配信同様、現在進行中のサイクルは通してべヒトルフ演出、これまで開催されてきた6年間の公演から適宜選ばれたアーカイヴ映像が紹介されています。
前日の「ラインの黄金」ではやや耳障りな録音が興を削いだ感がありましたが、今回の「ワルキューレ」は音質上の問題はないものの、何故かモノラル。それでも、フィッシャーの情熱的且つ肌理細やかな音楽創りは十分に伝わってきました。

前回のワルキューレは2015年、ラトルが指揮した演奏でしたが、今回のものは2018年4月8日、アダム・フィッシャーが指揮したサイクルから選ばれています。ラトルのものとはジークムント、ヴォータン、あとワルキューレたちの内二人が共通するだけで、ジークリンデ、フリッカ、ブリュンヒルデが替わっていて新鮮に感じられました。
ブリュンヒルデのセオリンは、前回の「ジークフリート」と「神々の黄昏」でもブリュンヒルデを歌っていて、これで3作の同役を完走したことになります。またフリッカのシュースターも、前回のラインの黄金とワルキューレでもフリッカを歌っていましたから、すっかりフリッカとして定着した感があります。改めてキャストを。

ジークムント/クリストファー・ヴェントリス Christopher Ventris
フンディング/パク・ヨンミン Jongmin Park
ヴォータン/トマーシュ・コニェチュニー Tomasz Konieczny
ジークリンデ/シモーネ・シュナイダー Simone Schneider
ブリュンヒルデ/イレーネ・セオリン Irene Theorin
フリッカ/ミカエラ・シュースター Michaela Shuster
ヘルムヴィーゲ/ドンナ・エレン Donna Ellen
ゲルヒルデ/キャロライン・ウェンボーン Caroline Wenborne
オルトリンデ/アンナ・ガブラー Anna Gabler
ワルトラウテ/ステファニー・ハウツィール Stephanie Houtzeel
ジークルーネ/ウルリケ・ヘルツェル Ulrike Helzel
グリムゲルデ/ズザンナ・ツァーボ Zsuzsanna Szabo
シュヴェルトライテ/ボンジヴェ・ナカニ Bongiwe Nakani
ロスヴァイゼ/ミリアム・アルバーノ Miriam Albano
指揮/アダム・フィッシャー Adam Fischer
演出/スヴェン=エリック・べヒトルフ Sven-Eric Bechtolf
舞台/ロルフ・グリッテンベルク Rolf Glittenberg
衣装/マリアンヌ・グリッテンベルク Marianne Glittenberg
ビデオ/フェットフィルム fettFilm

「ワルキューレ」は指環4部作の中では最も親しまれていて、単独で上演されることもありますし、第1幕と第3幕は演奏会形式でオーケストラの定期演奏会などでも度々取り上げられてきました。
従って三つの幕の中では第2幕が最も取っ付き難いと言うか、時に退屈することもあります。その理由の一つに、指環ではしばしば登場してくる以前の出来事の復習箇所が長々と続くことが挙げられ、ライトモチーフを使いながらブツブツと独白するシーンが出てくる。具体的には第2幕第2場のヴォータンとブリュンヒルデによる二人だけの場面。ここでヴォータンが、ラインの黄金で描かれたストーリーを復唱しながらブリュンヒルデに語っていきます。

ところが何度もこの楽劇を見、内容も咀嚼できてくると、実はこの第2幕第2場が作品全体で極めて重要であり、「ワルキューレ」の結末への伏線ともなっていることが良く分かりました。べヒトルフの演出はエッセンスだけに凝縮された舞台装置と映像を使って進行するのですが、登場人物の運命を左右する重要なポイントでの演技ではリアリスティックに、決してツボを外さない。
この場面を集中して見ていると、ヴォータンとブリュンヒルデのやり取りが、最後第3幕第3場の感動的な告別のシーンに繋がっていることが理解できるでしょう。

感動的なヴォータンを演ずるコニェチュニーは、私の中では現在最も説得力あるヴォータンとなってしまいました。
ラトル指揮のサイクルでもジークムントを歌ったヴェントリスも素晴らしいドラマティック・テナーで、数日前からオペラヴィジョン・チャンネルで配信が始まったショスタコーヴィチの「ムツェンスクのマクベス夫人」でも主役セルゲイでの大熱演を見たばかり。ヴェントリスに魅入られたファンは、是非ショスタコーヴィチもご覧になられることをお勧めしておきます。

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