ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(35)

「ドン・パスクワーレ」を挟んで、アーカイヴ配信二度目となる「ニーベルングの指環」も後半に入りました。「ジークフリート」です。
今回のジークフリートは、2014年6月4日に行われた公演の記録で、3月と今回の指環サイクルでは最も古い映像となります。しかし音声に付いては今シリーズでは最も優れていて、ラインの黄金のような音の割れは無く、モノラルだったワルキューレとは違ってステレオ音声が復活。初めてこの大作に接する方にも躊躇うことなくお勧めできる配信と言えるでしょう。キャストなどは、

ジークフリート/ステファン・グールド Stephen Gould
ブリュンヒルデ/イヴリン・ヘルリッチウス Evelyn Herlitzius
さすらい人(ヴォータン)/トマーシュ・コニェチュニー Tomasz Konieczny
アルベリヒ/リチャード・パウル・フィンク Richard Paul Fink
エルダ/ジャニーナ・ベークル Janina Baechle
ミーメ/ヘルヴィッヒ・ペコラーロ Herwig Pecoraro
ファフナー/ミハイル・ペトレンコ Mikhail Petrenko
鳥の声/アンニカ・ゲルハルズ Annika Gerhards
指揮/サイモン・ラトル Simon Rattle
演出/スヴェン=エリック・べヒトルフ Sven-Eric Bechtolf
舞台/ロルフ・グリッテンベルク Rolf Glittenberg
衣装/マリアンヌ・グリッテンベルク Marianne Glittenberg
ビデオ/フェットフィルム fettFilm

3月にアーカイヴ配信された「ジークフリート」(コーバー指揮)と比べると、ジークフリート、ミーメ、さすらい人(ヴォータン)が共通しています。ということは第1幕は全く同じ3人による舞台で、ふた月前を懐かしく回想しながら楽しみました。
回想と言えば、この第1幕は過去の出来事の復習で成り立っているような幕。これは前回取り上げた「ワルキューレ」でも触れましたが、復習・復唱こそが指環シリーズ全体を通して重要なキーとなる要素でもありましょう。第1場でジークフリートがミーメに自分の出自を問いただす箇所は、前作「ワルキューレ」の復習。続いて第2場でさすらい人が登場し、ミーメに発する三つの問いは「ラインの黄金」の復唱でもあります。

逆にヴォータンがミーメに付き付ける3問のうち、答えられなかった問題は、この場面の後に起きる未来のこと。これは、どんな知恵者でも過去と現在のことには適切に答えられても、将来のことは判らないという哲学的な意味も宿していると読むべきでしょう。
今回再度「ジークフリート」第1幕を鑑賞し、改めて納得した次第です。

同じように多くの暗示、仄めかしを含んだワーグナーの音楽と台本ですが、第3幕の最後、第3場になって初めて登場するブリュンヒルデは、3月に配信された「ワルキューレ」(ラトル指揮)でもブリュンヒルデを歌っていたヘルリッチウス。つまりラトル・サイクルでのブリュンヒルデを務めたドラマティック・ソプラノですね。
「ジークフリート」は指環サイクルの中では、例えば単独で演奏される管弦楽曲が「森の囁き」だけと比較的地味な印象がありますが、第2幕第1場のヴォータンとアルベリヒの口論、第3幕第1場のヴォータンとエルダ、同第2場のジークフリートとヴォータンとの駆け引きなど、字幕を良く読みながら聴き直してみると、誠に味わい深いドラマであることが確認できるでしょう。

残すは明日の「神々の黄昏」を残すのみ。あと一歩、指環サイクルから多くを学びながら籠城生活を克服していきましょう。

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