ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(39)

ウィーン国立歌劇場アーカイヴによるモーツァルト週間、ドン・ジョヴァンニ、イドメネオに続いて「魔笛」が配信されています。イドメネオと魔笛の間にリヒャルト・シュトラウスのアラベラがありましたが、この演目は5月31日(日本時間では6月1日)にも別キャストによる公演が予定されていますので、それは次の機会に纏めるとして、今日は「魔笛」を取り上げます。これはイドメネオと同様に48時間限定、27日の未明まで視聴可能ですから、ゆっくりと楽しめるでしょう。
2017年12月29日、クリスマスも終わり、年も押し詰まった時期の公演で、客席も巻き込み、笑いに包まれた年末のウィーンが感じられる映像となっています。キャストはこちら。

タミーノ/イエルク・シュナイダー Jorg Schneider
パミーナ/オルガ・べズメルトナ Olga Bezsmertna
夜の女王/ヒラ・ファヒマ Hila Fahima
ザラストロ/ルネ・パーペ Rene Pape
パパゲーノ/トーマス・タッツル Thomas Tatzl
パパゲーナ/イレアナ・トンカ Ileana Tonca
弁者・第2司祭/ヨッヘン・シュメッケンベッヒャー Jochen Schmeckenbecher
第1司祭/ペーター・イェロジッツ Peter Jelosits
第1の侍女/カロリーネ・ウェンボーン Caroline Wenborne
第2の侍女/ウルリケ・ヘルツェル Ulrike Helzel
第3の侍女/ボンジヴェ・ナカニ Bongiwe Nakani
モノスタトス/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
第1の兵士/ヘルベルト・リッパート Herbert Lippert
第2の兵士/ライアン・スピード・グリーン Ryan Speedo Green
指揮/アダム・フィッシャー Adam Fischer
演出/モーシェ・ライザー&パトリス・コリアー Moshe Leiser, Patrice Caurier
舞台/クリスチャン・フェノイヤ Christian Fenouillat
衣装/アゴスティーノ・カヴァルカ Agostino Cavalca
照明/クリストフ・フォレー Christophe Forey
振付/ベアーテ・フォラック Beate Vollack

個人的な思い出で恐縮ですが、魔笛ほど実際の舞台を数多く体験したオペラはありません。日生劇場でベルリン・ドイツ・オペラの来日公演を見て以来、上野の東京文化会館、渋谷のNHKホール、初台の新国立劇場と。他にも見たかも知れませんが、歌手たちだけでなく様々な演出を楽しんできました。これにレーザー・ディスクやDVD、テレビ放映を含めれば数限りないと言って良いかもしれません。
作品そのものがファンタジーの世界であり、ジングシュピールですから台詞も比較的自由。ということで演出も様々なテクニックを用いて凝ったものが多く、最初は違和感を覚えるものも。とは言いながらどんな演出で見ても直ぐに舞台に馴染んでしまうのは、歌の力、音楽の素晴らしさ故でしょう。

今回のライザーとコリアーによる共同制作も同じ。登場人物たちがワイヤーで吊るされて空から降りてくるのは古典的なテクニックですが、さすがに最新の技術を使った舞台は “あれ、どうやって動かすのかな” と感心する場面が少なからずありましたね。
空中に浮かぶ「魔笛」がその例で、最初に夜の女王から贈られる場面では、恐らく上から吊っているのではと思われますが、映像では(恐らく客席でも)仕掛けが見えませんでした。パパゲーノのアリアに合わせて自動的に作動する魔法の鈴も同じ。現在は遠隔操縦で、あるいは自動で動くロボットも開発されている時代ですから、魔法の鈴など簡単なものかも知れませんが。

鳥刺しパパゲーノ登場の場面、生きた鳥(鳩でしょう)がタイミングよくパパゲーノの手元に舞い降り、それを鳥籠に納めるというアイデア。これを実現するのは相当な訓練とリハーサルを重ねているのでしょうが、見ていて思わず、えッと驚いてしまいました。
魔笛ですから、客席の笑いを誘う機知も満載。パミーナとパパゲーナを捉えようと迫るモノスタトスの手下たちが鈴の音に踊らされる場面、タミーノの笛に集まってくる動物たち、客席を走り回るパパゲーノ、火の試練と水の試練を潜り抜けるタミーノとパミーナ等々、一度は見ておきたい仕掛けを挙げれば限がありません。

歌手たちの中では、何と言ってもパーペの存在感が圧倒的。如何にもザラストロという風貌・体格・声質が舞台を引き締めます。ファヒマのエキゾチックな夜の女王、体格が良すぎる嫌いはあるものの、美声を聴かせてくれるシュナイダーのタミーノ、清楚な印象のべズメルトナのパミーナ、そして芝居上手、もちろん歌唱も抜群のパパゲーナ役タッツルと、最後はこのメンバーじゃなきゃ、と思わせてしまうのも「魔笛」の魅力でしょうか。
舞台下手から上手に向かって宙を飛ぶ「魔笛」を、登場者全員が指さして見送る幕切れ。印象に残ること間違いなし。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください