今日の1枚(41)

東京は昨日から雨が降り続いています。漸く霧雨状態になってきましたが、風が強い。

ベイヌム/コンセルトへボウによるデッカ録音の2枚目。取り上げているのは商品番号順です。
ポリグラムのデッカ50周年シリーズから、POCL-4578(460 917-2) で、ブルックナーの交響曲第7番ホ長調。
録音年月日は1953年5月、アムステルダムのコンセルトへボウ。
プロデューサーは John Culshaw 、エンジニアが Kenneth Wilkinson というコンビです。

あまり知られていないことだと思いますが、ベイヌム/コンセルトへボウによるブルックナー/第7のデッカ録音には2種類あって、本ディスクは新しい方の録音です。
旧盤がCD化されているか否かは知りませんが、恐らく1940年代の後半の録音だと思われます。即ち昨日取り上げたバルトークやストラヴィンスキーと同じ時期でしょう。想像ですが、オロフがプロデュースしているはず。

旧録音は、デッカ初出が K 1916/23 というSP8枚組み15面。最終16面にはチャイコフスキーの弦楽セレナードからワルツが収められていました。チャイコフスキーもベイヌム/コンセルトへボウの演奏です。
一方、新録音は最初からLPで発売されたもので、イギリスの初出は LXT 2829/30 という2枚組み。3面を使ったもので、最後の4面にはフランクの交響組曲「プシケ」の4曲がカップリングされています。
恐らく第1楽章が第1面、第2楽章が第2面、第3と第4楽章が第3面という構成だったのでしょう。日本でも発売されたのでしょうか。

新盤は1953年のデッカ録音ですから、モノラルとは言え、現在でも立派に通用する録音水準です。演奏も含めて未だ現役と申し上げたい。
3点ほど特筆すべきことがあります。
その第一は使用している版。ベイヌムが用いているのはハース版でもノヴァーク版でもありません。私はハース版を所有していないので断言は出来ませんが、一般にハース版による演奏とされているもの(例えばカラヤンなど)と比較しても違いがありますので、ハース版ではないでしょう。
現在では日常的に取り上げられるノヴァーク版に到っては、版そのものの出版が1954年ですから、問題外です。
(ハース版は1944年刊)

違いは極めて僅かで、第1楽章の24小節目の第4拍。ここにホルンが入るのが明瞭に聴き取れます。第1主題がヴァイオリンで繰り返される直前ですね。
実はここにホルンがあるのは、オイレンブルクの旧版スコアの特徴。これは作曲者の生前1885年に出版されたスコアをハンス・フェルディナンド・レートリッヒ Hans Ferdinand Redlich が校訂したもので、ハース版とノヴァーク版の中間的存在なのです(と言っても3者にほとんど違いはありませんが・・・)。
(私が知っている限りでホルンが入るのは他にシューリヒトだけ)

ベイヌム新盤の第二の注目点は、やはり第1楽章の展示部の終わりにあります。第160小節のチェロとコントラバスによるピチカートの位置が違っています。ここはハース、オイレンブルク、ノヴァークのいずれとも異なるので、あるいは1885年のスコアに根拠があるのかも知れません。ベイヌムの解釈という可能性もありますが、詳しくは不明。

第三点は、演奏時間が全体で1時間を切っていることでしょう。ほぼ59分で全曲を演奏しています。
近年のブルックナー演奏はテンポが遅くなる傾向がありますが、このベイヌム盤を繰り返し聴いていると、これが正しいテンポではないかと思えてきます。
それでいて速過ぎるという印象はどこにもありませんし、旋律の歌わせ方にも何の不足も感じません。音楽の推進力と作品の構成感は全く見事なものです。

あくまでも私の好みですが、ブルックナーの第7交響曲では最右翼に挙げたい名盤。
日本語ブックレット(N氏)には使用版などに関する情報は一切触れられていません。

参照楽譜
オイレンブルク No.465(レートリッヒ校訂版)
音楽の友 OGT207(ノヴァーク版)

 

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