人知れぬ涙@ウィーン国立歌劇場

アーカイヴ配信にリアルタイムのライブストリーミングにと、このところ忙しい日々が続きますが、現地12日も午後7時半からアンサンブル歌手たちによる楽しいコンサートが飛び込んできました。
コンサートのタイトルはドニゼッティの有名なアリアから取られているようで、このあと予定されているフランス編、ドイツ編、スラヴ編でも共通しているようです。

この日のイタリア編は、ベルカント唱法の典型を集めたもので、普通にアリア名歌集ではなく、アンサンブル・メンバーならではの聴きどころが選ばれているのが如何にもウィーン。歌われた順に、

ロッシーニ/「アルジェリアのイタリア人」むごい運命よ、はかない恋よ(スヴェトリーナ・ストヤノヴァ)
ロッシーニ/「セヴィリアの理髪師」陰口はそよ風のように(パク・ヨンミン)
ロッシーニ/「セヴィリアの理髪師」真実にして不屈の情熱を持つ(レーチェル・フレンケル、ジョッシュ・ラヴェル)
ドニゼッティ/「愛の妙薬」素晴らしい妙薬! 俺のものだ! (ヴァレンチナ・ナフォルニツァ、シャホウ・ジンシュ)
ドニゼッティ/「ドン・パスクワーレ」私は心を誘惑する方法をたくさん知っている(アンドレア・キャロル)
ロッシーニ/「セヴィリアの理髪師」黙って黙って、静かに静かに(ジョッシュ・ラヴェル、レーチェル・フレンケル、ラファエル・フィンガーロス)
ベルリーニ/「夢遊病の女」おお花よ、お前に会えるとは思わなかった(ダニエラ・ファリー)
ロッシーニ/「シンデレラ」王子の役は終わりそうだ、そう誓って彼女を見つけ出す(ジョッシュ・ラヴェル)
ロッシーニ/「シンデレラ」苦しみと涙のもとに生まれ(マルガリータ・グリツコヴァ)
ドニゼッティ/「ドン・パスクワーレ」マダム、そんなに急いで何処に行くんだ(アンドレア・キャロル、ソリン・コリバン)
ドニゼッティ/「愛の妙薬」人知れぬ涙(シャホウ・ジンシュ)
ロッシーニ/「セヴィリアの理髪師」第1幕フィナーレ(レーチェル・フレンケル、リディア・ラスコルブ、ジョッシュ・ラヴェル、サミュエル・ハッセルホーン、ソリン・コリバン、マーカス・ペルツ)
 ピアノ/ステファン・ホプキンス Stephan Hopkins

もちろん休憩無し、客席100名の限定コンサート。客席の反応も熱気に溢れ、画質・音質の良さで恰も現地ウィーンで100人に選ばれたかのようなリアリティーを楽しみました。
次々と登場する歌手たちはお馴染みの顔ばかり。歌が上手いのはもちろんですが、演技も抜群。特に重唱曲では小芝居が演じられるのですが、時に伴奏ピアニストも参加して笑わせてくれます。

5番目に登場したレーチェル・フレンケル、小道具を使いますが、思わず吹き出してしまいました。ウィーン国立歌劇場の配信を良く見ている方には、種明かしせずとも判るでしょ? 今日も3階のボックス席でご覧になっていました。
昨日のコニェチュニー・リサイタルでは客席をチョッと皮肉りましたが、今日はファリーのベルリーニと言い、ラヴェルのロッシーニと言い、あそこでフライング拍手が出ないのは流石にウィーン。みな耳が肥えてらっしゃる。

この日の発見は、伴奏を務めたステファン・ホプキンス。名前からしてアメリカ人かと思われますが、国立歌劇場でレペティトゥアをされている方でしょうか。単なる伴奏者じゃありません。
普通なら譜捲り氏を必要とするようなパートですが、自ら譜を捲る早業の見事なこと。ピアノを弾くだけじゃなく指揮する素振りを見せたり、時には何と合唱パートを堂々と歌ったりもする。ホプキンス、只者じゃありませんね。

3か月にも及ぶ劇場閉鎖で将来が心配なウィーンですが、今日のメンバーたちの達者な歌と芝居を見ていると、何時、どんなレパートリーでも直ぐに再開可能と確信しました。準備は万端。
実際の公演ではいわゆる脇役を託されることが多い面々ですが、どんなアクシデントがあっても直ぐに主役の代役が務まるだけの技術を持ち、鍛錬されていると改めて安心します。

文句なく楽しめた1時間半でしたが、最後のカーテンコールでグリツコヴァが伴奏のホプキンスに花束贈呈。もしかして6月12日はホプキンスの誕生日だったんでしょうか。恐るべしウィーン。

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