ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(52)
今日は珍しいオペラを取り上げましょう。作品があることは知っていましたが、実際に音楽を聴くのも、ましてや舞台を見るのも初体験というプロコフィエフの歌劇「賭博者」。このオペラから編み直された管弦楽組曲のCDを持っていたと記憶しますが、棚の奥深くに仕舞い込まれていて見つけられません。
今回の配信では「Der Spieler」とドイツ語で表記されていて、最初は誰の作品かも判らなかったほど。原題のロシア語は残念ながら読めませんが、一般には英語の「The Gambler」が使われていると思います。フランス語の「Le Jouer」という表記を見たことも。シュピーラーでもギャンブラーでもジュエーでも同じ、それならプレイヤーという訳もありかとも思いますが、日本語の「賭博者」が一番的を得た外題かも知れませんね。一言で言えばギャンブル依存症を描いたオペラか。
いすせれによ、原作はドストエフスキーが書いた同名の小説。ドストエフスキー自身の体験談を小説にしたもの、と解説されていました。
ドストエフスキーの小説は未読なので何とも言えませんが、オペラは大筋では原作に忠実とのこと。主役はテノールが歌うアレクセイで、ブランシュ(将軍との結婚を望むフランス人女性)との関係は原作とは異なるようですが、後半のアレクセイの末路に付いては描かれていません。つまり、賭博にのめり込んでいくまでのアレクセイの行動と心情を描いたオペラとして鑑賞しました。
その結果、奇怪な作品という感想。プロコフィエフは自身が作家でもあり、その短編集も読みましたが、エッフェル塔が歩き出すというような作品もあり、プロコフィエフにとっては何の違和感もないストーリーなのでしょう。その辺りを理解しないと、中々このオペラに付いて行くのは大変だな、という印象でもあります。
今回の舞台は2017年10月7日の公演とのことで、主な配役は以下の通り。
将軍/ドミトリー・ウリヤノフ Dmitri Ulyanov
ポリーナ/エレーナ・グーセヴァ Elena Guseva
アレクセイ/ミーシャ・ディディク Misha Didyk
バブレンカ(おばあさま)/リンダ・ワトソン Linda Watson
公爵/トーマス・エベンシュタイン Thomas Ebenstein
アストリー/モルテン・フランク・ラーセン Morten Frank Larsen
ブランシュ/エレーナ・マクシモヴァ Elena Maximova
ニルスキー王子/パーヴェル・コルガティン Pavel Kolgatin
ポタープィチ/クレメンス・ウンターライナー Clemens Unterreiner
ヴルマーヘルム男爵/マーカス・ペルツ Marcus Pelz
指揮/シモーネ・ヤング Simone Young
演出/カロリーネ・グルーバー Caroline Gruber
舞台装置/ロイ・スパーン Roy Spahn
衣装/メヒシルド・ザイペル Mechthild Seipel
照明/ウルリッヒ・シュナイダー Ulrich Schneider
振付/ステラ・ザヌー Stella Zannou
実はここに挙げた以外にもその他大勢の出演者名がクレジットされていましたが、話をいくらかでもスッキリさせるために上記10人に絞りました。最後のカーテンコールではヴルマーヘルム男爵以外の9人が客席からの拍手を浴びていましたが、男爵を歌ったペルツは最終第4幕では賭博プレイヤーの一人としても参加していましたから、カーテンコールでは後ろのその他大勢側に回っていたわけ。
この公演ではカジノの場、つまり第4幕第2場に登場する多くの賭博者たちの仮装や衣装が奇抜で、チョッと目には誰が誰だか判別できないほど。合唱団の一員である佐野航氏もプレイヤーの一人を演じていましたが、分かったでしょうか?
この配信では日本語字幕もありますが、何故か第4幕は字幕が出たとしても直ぐに消えてしまい、私には読めませんでした。これでは字幕が無いのと同じで、折角の機会なのに残念なことでしたね。
また音質も収音レヴェルが低く、やや物足りない。少なくともドストエフスキーの原作を読むか、オペラの荒筋を予めネットで調べておかないと、訳の分からないまま終わってしまいます。
印象が今一つなのは、演出にも問題があると思いました。カロリーネ・グルーバーと言えば、びわ湖の「サロメ」を初めとして私には相性の悪い女性演出家で、妙に原作を捻くり回すところがある。登場人物を余計なところで舞台に登場させたり、意味不明な演技を要求したりもする。まぁ、こちらの理解力不足と言ってしまえばそれまでですが、「賭博者」のようにレアな作品では、もっと原作の台本に忠実な演出で見て見たかったと思うところです。
その一例でしょうが、最後はアレクセイがポリーナを絞め殺すところで幕となります。この結末は少なくともドストエフスキーの小説ではあり得ないし、プロコフィエフのオペラではどうなのでしょうか。少なくとも私が調べた限りではポリーナ絞殺という結末は無いように思います。
これがグルーバーの解釈なのか否か、このオペラに詳しいファン(そんな方、いるのでしょうか)にコメント頂けたら、と思っています。
幸いなことに楽譜は比較的容易に閲覧することが出来ます。先ずペトルッチの無料サイトからはサンクト・ペテルブルク出版のヴォーカル・スコアがダウンロード出来ますし、ブージー&ホークス社のオンライン・スコアというサービスでもフル・スコアが第1幕から第3幕までなら自由に閲覧可能。
全曲に付いては有料ですが、nkoda では4つの幕に分けてフル・スコアを楽しめますので、CDなどをお持ちの方はこれを機会に聴き比べられては如何でしょうか。因みに音源も、ナクソスのNMLならゲルギエフ指揮のフィリップス盤と、エクストンが収録したロジェストヴェンスキー指揮のものが配信中。時間が許せば、3種類の音源、3種類の楽譜検索でプロコフィエフの秘曲オペラが楽しめます。
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