ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(57)

昨日の「シモン・ボッカネグラ」を挟むように、「マクロプーロス事件」に続いて同じヤナーチェクの歌劇「カーチャ・カバノヴァ」が配信されました。2017年4月27日の公演とのことで、先ずキャストを列記しておきましょう。マクロプーロス同様に滅多に見られるオペラじゃありませんので、登場人物たちの役所も添えておきました。

カーチャ・カヴァノヴァ(ティホンの妻)/アンゲラ・デノケ Angela Denoke
ボリス・グリゴリエヴィッチ(ディコイの甥)/ミーシャ・ディディク Misha Didyk
カバニハ(カバノフ家の女主人、裕福な未亡人)/ジェーン・ヘンシェル Jane Henschel
ディコイ(実業家)/ダン・パウル・ドゥミトレスクー Dan Paul Dumitrescu
ティホン(カバニハの息子)/レオナルド・ナヴァロ Leonardo Navarro
クドリャーシ(教師でナチュラリスト)/トーマス・エベンシュタイン Thomas Ebenstein
ヴァルヴァラ(カバノフ家の養女)/マーガレット・プランマー Margaret Plummer
クリ―ギン(クドリャーシの友人)/マーカス・ペルツ Marcus Pelz
グラーシャ(女中)/イルセヤー・カイルロヴァ Ilseyar Khayrullova
フェクルーシャ(女中)/カロリーネ・ウェンボーン Caroline Wenborne
指揮/トマーシュ・ネトピル Tomas Netopil
演出/アンドレ・エンゲル Andre Engel
舞台/ニッキー・リエティー Nicky Rieti
衣装/シャンタル・ドラ・コステ Chantal de La Coste
照明/アンドレ・ディオ、スザンネ・アウファーマン Andre Diot, Susanne Auffermann

「カーチャ・カバノヴァ」は、オペラというより複数のエピソードを連ねたような作品。一応三つの幕に区切られてはいますが、様々な「場面」がオーケストラによる間奏曲で繋がれているような印象を持ちました。
実はこのオペラ、題名だけは知っていて、割に早くからフル・スコアも出ていたので思わず衝動買いしていました。ただ、実際にナマの公演を聴く機会が無く、最初から最後まで通して鑑賞したのは今回の配信が初めて。1981年の二期会公演(佐藤信演出、ヤン・ポッパー指揮、日本語上演)が日本初演だったそうですが、私は見ていません。故に演出がどう、歌がこう、と指摘するような資格はありません。ですから単なる感想です。

上演時間は比較的短く、全体でも100分ほどでしょうか。今回の公演でも休憩は入らず、幕の終わりも場の転換も仕切り幕が下りて舞台転換が行われるだけ。あっという間に見終わってしまいました。
1860年代のロシア、ヴォルガ河畔のカリノフという田舎町が舞台になっているとのことですが、演出はもう少し現代に近付けているようにも見えました。

一言で言えば凄い内容、というか極めて閉鎖的な愛の世界を描いたもの。主人公の人妻カーチャには自殺願望でもあるのでしょうか、第1幕第2場にはカーチャの心情を歌うアリアのようなソロが置かれています。
更には第3幕第2場のヴォルガ河畔。夫のティホンに自分の浮気を全て告白していまい、逢引きの相手ボリスもシベリアに旅立たれ、行き場を失ったカーチャがヴォルガ河に身を投げる直前に歌う(?)苦悩の自問が、第1幕と対照的に、明と暗との対比として置かれているようにも感じられました。第3幕第1場で描かれる雷も、科学的に電気であると主張するクドリャーシと、神の仕業とするディコイとの対比もポイントでしょうか。

イタリア・オペラのようなアリアこそありませんが、如何にもヤナーチェクの作品らしく、極めて個性的な響きで独特の世界を作り上げていくのが魅力でしょう。
陰の主役、というか憎まれ役が、カーチャにとって鬼姑のカバニハ。何とも憎らしい存在で、嫁へのパワハラがカーチャを不倫に走らせ、死に追い込むという極めて暗い内容なのです。

幕切れ、カーチャの水死体から指環を抜き取り、遺体を足で蹴飛ばして転がすというシーンは、台本にあるのでしょうか、それとも演出か。正直なところ、繰り返し見たいとは思いませんでした。

本公演では、やはりヒロインのカーチャを演じたデノケが素晴らしく、カーテンコールでも絶賛を浴びていました。
それにしてもウィーンには熱心な観客がいて、何度もカーテンコールを繰り返す出演者たちに激しい声援を贈っているのに驚かされます。

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