ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(58)

ウィーン国立歌劇場のアーカイヴ・シリーズ、ヤナーチェクの2作品が終わり、再びヴェルディに戻ります。20日の配信は革新的にして大傑作の「オテロ」。
「オテロ」は去年6月、今年の2月と二度に亘ってライヴ・ストリーミングされたウィーンでも人気のオペラですが、今回配信されたものは2018年3月18日の公演で、前2回のストリーミングとは演出が異なります。もちろん指揮もキャストも全く変わっていて、別物という印象。配役他は以下の通り。

オテロ/ロベルト・アラーニャ Roberto Alagna
イヤーゴ/ダリボール・イェニス Dalibor Jenis
デスデーモナ/アレクサンドラ・クルジャク Aleksandra Kurzak
カッシオ/アントニオ・ポーリ Antonio Poli
ロデリーゴ/レオナルド・ナヴァーロ Leonardo Navarro
ロドヴィーコ/アレクサンドルー・モイシウク Alexandru Moisiuc
モンターノ/オルハン・イルディズ Orhan Yildiz
エミーリア/イルセヤー・カイルロヴァ Ilseyar Khayrullova
使者/イオン・チブレア Ion Tibrea
ビアンカ/カタリーナ・ビラハート Katharina Billerhart
指揮/グレアム・ジェンキンス Graeme Jenkins
演出/クリスティーネ・ミーリッツ Christine Mielitz
舞台及び衣裳/クリスチャン・フローレン Christian Floren

演出が女性のクリスティーネ・ミーリッツということで思い出された方も多いでしょうが、これは東京オペラの森との共同制作の舞台で、いわゆるプレミエは東京が先だったようですね。恐らくウィーンでも2006年春には上演され、それが2018年春までロングランだった、ということでしょうか。
私は東京公演は見ていないので初体験。この時の批評がどうだったかも知りませんが、現在ウィーンで上演されているエイドリアン・ノーブルとは相当に趣が異なる演出です。

ミーリッツと言えば、今回の一連のアーカイヴ配信では「パルジファル」が取り上げられていました。第2幕がキャバレーになっていたもので、こちら2015年4月のアーカイヴ。
冒頭から嵐は描かれず、後方のスクリーンにそれらしい照明で表現されるだけ。私は第2幕になってから漸く気付いたのですが、中央にまるでボクシングかプロレスのリンクに似た舞台が据えられていて、その左右に階段状の客席も置かれています。つまり「オテロ」そのものが芝居という設定のようで、第1幕の幕が上がると、普通なら未だ登場していないオテロが舞台(リンク)中央に立って客席を睨んでいます。やがて登場してくる死神の姿の登場人物たちは、オペラの結末を暗示しているのでしょう。

冒頭のオテロに代表されるように、この演出では登場人物たちは本来の出番以外にも舞台に出たり入ったり。この舞台は時に紗幕で覆われたり、網戸上の仕切りで区切られ、舞台の上で歌い演じられるシーンもあれば、舞台から降りて歌う箇所もあるという具合。そこにはイアーゴがでっち上げた不倫話、という意味も含まれているのでしょうが、賛否が分かれるポイントだろうと思慮します。
これを台本を無視した演出家の我儘と否定する向きもあれば、作品の本質を突いた斬新な舞台と肯定する向きもあるでしょう。私は、う~ん、どっちかな??

白と黒という対称も配慮されているようで、デスデーモナは第1幕の二重唱の時から白いハンカチ(オテロのプレゼント)を持っていますし、第3幕では黒いハンカチを握っている。もちろんハンカチが重要なキーワードでもあるので、それを白と黒で表現しているのでしょう。あるいはデスデーモナとイアーゴの衣裳の色もこれに合わせたのかも。

そんな演出でも、このオテロは素晴らしいと思いました。残念ながら音声がモノラルでオペラハウスの立体感は今一ですが、オテロ、デスデーモナ、イアーゴの3人はみな見事。
アラーニャのオテロは意外な感じもいますが、見終えてしまえば何の違和感も感じません。デスデーモナを歌ったポーランド出身のクルジャクは、私は初めて見・聴きましたが、実はアラーニャ夫人だそうな。それでカーテンコールにも納得しましたし、第1幕と第3幕にある二重唱も息が合うわけだ。

イアーゴのイェニスは、新国立劇場の「セヴィリアの理髪師」でフィガロを歌ったそうで、スロヴァキアのバリトン。長髪がトレードマークのようで、堂々たるイアーゴを演じています。

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