ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(62)

ウィーン国立歌劇場からのアーカイヴ配信も残り僅かとなってきました。今朝から24時間限定で見ることが出来るゴットフリート・フォン・アイネムの歌劇「ダントンの死」は、いつでも見られるオペラじゃありませんから、この機会を逃がさないように。
今回配信されているのは2019年5月29日の公演。ということは、オッタヴァ・テレビが日本向けにライブストリーミングを開始した最初の作品群の一つで、最初からオッタヴァの会員になられた方は二度目の配信ということになるでしょう。実は私も見るには見たのですが、勉強不足もあって殆ど記憶に残っていない有様。今回の再放送によって理解は深まったかというと、恥ずかしながら怪しいものですね。

それでも何か記録しておけば記憶に残るもの。分かったことだけでも書いておきましょうか。登場人物が多く、題材となるフランス革命同様にストーリーも混乱していますが、先ずはキャストを。

ジョルジュ・ダントン/トマーシュ・コニェチュニー Tomasz Konieczny
カミーユ・デムーラン/ベンジャミン・ブリュンス Benhamin Bruns
エロー・ド・セシェル/ミヒャエル・ローレンツ Michael Laurenz
ロベスピエール/トーマス・エベンシュタイン Thomas Ebenstein
リュシール(カミーユ夫人)/オルガ・べズメルトナ Olga Bezsmertna
サン・ジュスト/ペーター・ケルナー Peter Kellner
ヘルマン/クレメンス・ウンターライナー Clemens Unterreiner
シモン(扇動者)/ヴォルフガング・バンクル Wolfgang Bankl
若い男・死刑執行人1/ヴォルフラム・イゴール・デルントル Wolfram Igor Derntl
死刑執行人2/マーカス・ペルツ Marcus Pelz
ユリア(ダントン夫人)/シルヴィア・ヴェレシュ Szilvia Voros
女/イルディコ・ライモンディ Ildiko Raimondi
シモンの妻/リディア・ラスコルブ Lydia Rathkolb
指揮/ミヒャエル・ボーダー Michael Boder
演出及び照明/ヨーゼフ・エルンスト・ケップリンガー Josef Ernst Kopplinger
舞台/ライナー・シネル Rainer Sinell
衣装/アルフレッド・マイヤーホーファー Alfred Mayerhofer

どうやら今回の舞台は2018年のプレミエ(?)の再演だったようで、2018年と言えばアイネムの生誕100年に当たっていました。恐らくそれを記念しての公演だったのだろうと想像できます。
因みにアイネムは1996年に亡くなっていますから、来年2021年が没後25年。恐らくウィーンか、他のオペラ・ハウスでも記念公演があるかも知れませんね。その時のためにも今回の公演を記憶に刻んでおきたいものだと思っています。

アイネムは主に戦後になって作品が知られるようになった作曲家。1954年からウィーン国立歌劇場の芸術顧問を務めていましたから、ウィーンこそ最もアイネムと縁の深い町と言えるでしょう。
作風はどちらかと言えば、というより明確に保守的。その傾向は晩年になるほど強まって行ったようで、このオペラが1947年(戦後直ぐ)にザルツブルク音楽祭で初演された頃は、未だ斬新な音楽として聴かれたのじゃないでしょうか。因みに、ザルツブルク音楽祭で生存中の作曲家のオペラが世界初演されたのは、このアイネムの「ダントンの死」が最初だったそうです。

作品はゲオルク・ビュヒナー(彼自身も革命家でした)の原作を基に、アイネムとその師に当たるボリス・ブラッハーが台本を作成。ビュヒナーと言えば「ヴォツェック」もオペラ化されていますが、「ダントンの死」はフランス革命が舞台。恐怖政治下のフランス共和国で平和的に革命を目指すダントンが寛容派故にロベスピエールと対立し、裁判に掛けられて断頭台に送られるまでを描いています。
具体的には1794年の3月から4月までの出来事で、オペラ自体は2部構成。各部は夫々3つづつの場面に分割されており、第2場と第3場、第5場と第6場の間にやや長い管弦楽のみによる間奏曲が置かれています。アイネムは後に間奏曲を繋いだ一種の組曲を編んでおり、故カール・ベームが得意にしてウィーン・フィルやニューヨーク・フィルで演奏した録音を聴いたことがあります。最近では東京交響楽団が取り上げたようですね。

オペラはブラッハーに捧げられており、今回の上演では二つの部分(第1幕、第2幕としても良いかも)を通しての上演で、全曲でも100分ほど。休憩は無く、一気に見てしまいました。
ケップリンガーの演出では、革命の混乱を象徴するように殺伐とした舞台設定。同じ舞台がカードに興ずるダントンたちの酒場になったり、リンチを求める群衆の広場だったり、カミーユが一時の眠りに落ちるベッドだったりと早変わりします。

音楽そのものは刺激的な響きこそあるものの、例えば最後にダントンたち3人の処刑犯が「ラ・マルセイエーズ」を高らかに歌う場面もありますし、処刑後に二人の死刑執行人が「月が昇る」とメロディックに歌う部分もある。幕切れで夫カミーユの首(多分)を抱きながらリュシールが歌う哀歌は、チョッとサロメを連想させたりもします。最後の「国王陛下万歳!」って、どういう意味なんでしょう?
現代オペラではありますが、今回のアーカイヴ配信で見ることが出来た「三人姉妹」「テンペスト」「オルランド」に比べれば、ずっと親しみ易いと聴きましたがどうでしょうか。楽譜が見たいという方は、ユニヴァーサル出版のホームページからペルーサル・スコアに辿り着くことが出来ます。但し無料で閲覧できるのは第1部のみですが。

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