東京シティ・フィル第335回定期演奏会(オンライン)

6月も後半に入り、漸く日本のオーケストラも活動を再開するところが出てきました。但し活動再開と言ってもソーシャル・ディスタンスを守ること、3密状態を回避すること、休憩を入れずに1時間以内の演奏会とすることが求められており、各オーケストラとも手探り状態であることは間違いありません。
そんな中、6月に定期演奏会を開催した、あるいはこれから予定している団体は東京と大阪を中心に6団体。昨日6月26日には東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団が定期開催会場である東京オペラシティ・コンサートホールで無観客演奏会を開き、その様子がユーチューブで配信されました。

ベートーヴェン/交響曲第7番
 指揮/藤岡幸夫
 コンサートマスター/戸澤哲夫

コンサートは午後7時開演、定刻10分前には客席無人のオペラシティー・コンサートホールが映し出されます。本来であれば第335回定期を指揮するはずだった同団首席客演指揮者の藤岡幸夫が登場し、今回の配信を実現したスタッフへの感謝の言葉からスタートします。
途中から常任指揮者である高関健もトークに加わり、今回のメンバーの配置、間隔などに関しては単にオーケストラ独自の考えではなく、先般実証実験が行われて東京都響が策定した「演奏会再開への工程表と指針」に準拠した配置や間隔であることも紹介されました。

海外のオーケストラでもコロナ後を見据えたコンサートが模索され、インターネットでも配信されていますが、日本ではエアロゾル測定の専門家や感染症の専門医が立会いの下で総合的な検証が行われたのは適切な処置だったと思慮します。
これにより日本のオーケストラ全体としての指針が提示できたこと、安全・安心に関わる風評に対して論駁できる根拠が確立できたことが何よりじゃないでしょうか。

二人のトークはこの日の演奏曲目、楽譜の選択などややマニアックな話題にも及びましたが、第335回定期で本来なら演奏される筈だったプログラム(ディーリアス、吉松隆、ヴォーン=ウイリアムス)も近い将来、実現することを公約して演奏に移りました。
なお、この日は戸澤コンマスの他、特別客演コンサートマスターを務める荒井英治が何とセカンド・ヴァイオリンのトップを担当し、チェロも首席の長明康郎に加え、客演首席の大友肇もプルト後方を担当するという正にオールスター・キャスト。オーケストラ・ファンだけでなく室内楽の愛好家にとっても見逃せない光景だったことも報告しておきましょう。戸澤・荒井はモルゴーア・クァルテットでは反対のパートですし、大友も札幌でクァルテット・エクセルシオの活動を再開する直前。ファンとしては早く目の前で彼らの演奏を聴きたい、という気持ちが募ったのじゃないでしょうか。

曲目はベートーヴェン1曲だけですが、明るく、且つ人々に勇気を与える名曲として再開コンサートには相応しいもの。久し振りの本番演奏に最初は手探り感はあったものの、次第に緊迫度を増し、最後の第4楽章ではこれまで貯めに貯め込んだ演奏行為に対する渇望が爆発したかのような大熱演になりました。
3月以来様々な演奏が無観客演奏・ライブストリーミングされてきましたが、今回のシティ・フィル定期は画質も音質も極めて良好で、4段階評価すれば最高ランクの一歩手前まで進化したという印象を持ちました。最初の実験だったびわ湖の「神々の黄昏」に比べれば格段の進歩と言えるでしょう。

力演に顔を火照らせた藤岡マエストロ(この称号を与えても良いでしょう)が楽員たちを褒め称え、思わず予定に無かった戸澤コンマスにマイクを向けるハプニングも。それでもメンバー一人ひとりの楽しそうな演奏シーンに、こちらも見て・聴いていて胸が熱くなるのを覚えます。
アンコールがあり、藤岡得意のエルガーから「夕べの歌」。

6月に定期演奏会を行うのは6団体と紹介しましたが、他の5団体(東フィル、東響、大フィル、関西フィル、日本センチュリー)は何れも観客を入れてのコンサートですが、ライブ配信はないようです。
再開コンサートも最初のステップを踏み出しましたが、次は観客を迎え、なおかつライブ配信も行う、というスタイルじゃないでしょうか。当面は無料配信でも、次第に質を高めて次の段階では有料配信とする。これが定着すれば、通常の定期会員に加えてネット会員も募集可能じゃないでしょう。それが、クラシック音楽の裾野を広げることに資することは間違いありますまい。

今回のコロナ禍では楽壇としても様々な問題が明らかになりましたが、これを次のチャンス、新たな市場開拓に繋げなくてどうする。転んでもタダじゃ起きないチャレンジ精神が必要、と強く感じたオンライン定期演奏会でした。

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