女神たちのフレンチ~夏の香りを添えて(オンライン)
8月5日のサマーミューザは、毎年行われている音楽大学のコンサートで、私は初めての体験でした。夕方6時半開演、プレ・イヴェントはなく、20分の休憩を入れても8時過ぎには終演するやや短めなプログラム。
ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
イベール/室内小協奏曲
~休憩~
モーツァルト/交響曲第41番「ジュピター」
管弦楽/昭和音楽大学
指揮/田中祐子
サクソフォーン/小荒井千里
キャッチコピーの女神たちというのは指揮者・田中とソリスト・小荒井のことかと思っていましたが、昭和音楽大学のオーケストラはコンサートマスターを筆頭に女性が多く、特に木管楽器は全員が女性。彼女たちも含めてミューズの競演ということで納得です。
それにしても若者たちの音楽は素晴らしい。演奏も見事で、音だけ聴いていれば学生オーケストラとは思えないレヴェルだと感心しました。
本来はフランス音楽特集というプログラムだったと記憶しますが、ソーシャル・ディスタンスに配慮してこの形になったのでしょう。それでも前半は夏を感じさせるフランス作品二つ。
冒頭のドビュッシーは馴染みの名作ですが、未だ在学中という小荒井が吹くイベールはいつでも聴けるレパートリーじゃありません。第二次大戦中、新ナチのヴィシー政権はイベールの作品を演奏禁止にしていましたから、その事実だけで彼の音楽がどんなものか想像できましょう。戦争中は蟄居していたイベールを、戦後呼び戻したのはドゴールでしたっけ。
開演前のインタヴューにも応じていた小荒井、このレアな一品を暗譜で披露。第2楽章(楽章は二つしかありませんが)に登場する高音が要求されるカデンツァを見事に吹き切りました。
指揮の田中裕子は、名前は良く知っていましたが指揮する姿を見るのは初めて。バックステージの映像を見ると随分お茶目な方のようで、カメラに向かって舞ったりしています。
イベールの急速な箇所以外は指揮棒を使わず、しなやかに振る。特にメインのジュピターでは如何にも音楽を楽しんでいるようで、時には指揮台で何度もジャンプしたり、大きなアクションで彼女の感ずるモーツァルトを若者たちと共有していくのでした。フィナーレは前半も後半も繰り返すサービスも。
ダウンロードして読めるプログラムを読んでいたら、「ジュピター」交響曲と命名したのは当時の有力興行師ザロモンと伝えられている、と書かれていました。この説を最初に唱えたのはモーツァルトの息子、フランツ・クサヴァー・モーツァルトであると別の資料で見たこともあります。
ジュピター命名の経緯に付いては最近某講座で教えて頂きましたが、1821年3月、ロンドンで公演を企画・実施していたフィルハーモニー協会のプログラムに登場したのが最初だそうです。
ここからは私の独断と妄想ですが、この演奏会は3月26日だったそうで、指揮したのは日本でも「埴生の宿」で知られるメロディーを作曲したヘンリー・ビショップ (1786-1855) だった由。
このビショップ氏、実は音楽の道に入る前はニューマーケットで競馬の騎手になるべく修行していたそうな。残念ながら太る体質だったのかジョッキーになることは諦め、周囲の勧めに従って音楽を学んだのだそうです。競馬とクラシック音楽は無縁の世界と思われるでしょうが、エルガーを例に出すまでもなく、案外密接な関係もあるのです。ビショップを音楽の道に誘ったのが競馬関係者だったとすれば、小生には大いに興味がありますね。
ジュピターを振る田中裕子、その身のこなしは若馬を操る名騎手のよう。小柄な体躯で華麗に舞う姿を見て、ジョッキーを夢見ながら「ジュピター」交響曲を指揮したサー・ビショップを連想してしまいました。
もちろんこの話は忘れてください。牧神の午後に微睡みながら見た夏の夢だったのかもしれません。
この夏、フェスタサマーミューザの配信チケット、セット券にして大正解でした。
ところで今日(8月6日)の午後は出掛ける予定があり、神奈川フィルのベートーヴェン・ピアノ協奏曲特集はアーカイヴ配信を見てからの感想となります。
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