サッコーニ・クァルテット(オンライン)
また素晴らしいクァルテットに出会ってしまいました。9月23日にヴィグモア・ホールで行われた演奏会がライブ配信されたサッコーニ・クァルテットです。プログラムは、
ジョナサン・ドーヴ/Out of Time
ハイドン/弦楽四重奏曲ニ長調作品76-5「ラルゴ」
ロクサーナ・パヌフニク/Heartfelt
ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第8番ハ短調作品110
サッコーニ・クァルテット Sacconi Quartet
ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックの卒業生により2001年に結成された英国の団体で、来年創設20周年を迎える今旬のクァルテットでしょう。現在まで創設メンバーのまま活動を続けているそうで、
ファーストがベン・ハンコックス Ben Hancox 、セカンドはハンナ・ドーソン Hannah Dawson 、ヴィオラはロビン・アシュウェル Robin Ashwell 、チェロがカーラ・べリッジ Cara Berridge という面々。2008年からケント州フォークストンでサッコーニ室内楽音楽祭を開催していて、その名声も徐々に高まってきている由。現代作品の演奏にも熱心で、この日も同時代の作品が2曲披露されました。
団体名は、20世紀の傑出したイタリアの弦楽器制作者にして修復家でもあるシモーネ・サッコーニ Simone Sacconi に由来。サッコーニには「The Secrets of Stradivari」という著書もあり、ヴァイオリン制作者にとってはバイブルになっているそうな。弦楽器奏者ならその名を知らぬ人は無い、と思われます。
もちろん彼らもサッコーニを弾いていますが、チェロだけはガリアーノを使っていると、これはホールのプレゼンターからも紹介がありました。
ところでサッコーニ・クァルテット、私は初めて聴きましたが、来日したことはあるのでしょうか? 結成20年にもなるのですから一度ぐらいは来ているのかも知れませんが、寡聞にしてその評判を聞いたことがありません。
積極的に取り組んでいる現代モノ。今回は冒頭に演奏されたジョナサン・ドーヴと、ハイドンの後に紹介されたロクサーナ・パヌフニクの作品が取り上げられました。
最初のドーヴは短い6楽章の作品で、20分ほど。弦楽四重奏のための6つの小品といった趣で、民謡風な素材も登場する聴き易い現代音楽です。
一方のパヌフニクは、サッコーニQによって委嘱され、オンラインで初演された作品。この日が公開での初演でした。2つの部分から成っていて、夫々タイトルにウズベキスタンとブルガリアが表記されています。冒頭、4人の足踏みで始まりますが、これは心臓の鼓動を表しているのだとか。草原を吹き抜ける風の様な響きもあり、民謡を素材に描写的な佳曲と聴きましたがどうでしょうか。
会場にはドーヴもパヌフニクも顔を見せていて、特にパヌフニクはサッコーニQに促されて舞台下に駆け寄り、聴衆の拍手に応えていました。両者とも出版社がペータースで、パヌフニクは流石に未出版のようですが、ドーヴはネット販売で簡単に入手できます。
ハイドンの演奏前にファーストのハンコックが挨拶。「ラルゴ」は彼らが結成して最初に取り組んだ作品なのだそうです。古楽器ではありませんが、ピリオド奏法を意識した演奏で、決して大きな音で勝負するのではなく、ピュアな響きを追求するスタイルと聴きました。何より全体から知性が感じられ、叡智が凝縮された素晴らしいハイドンでした。
そしてメインが、圧巻のショスタコーヴィチ。圧倒的な集中力での名演に思わず手に汗を握ります。何れはナマで聴いてみたい団体ですね。
ハイドンの後でホール・プレゼンターがヴィグモア・ホールの歴史を簡単に紹介していましたが、当初はベヒシュタイン・ホールと呼ばれていて、最初の演奏会はブゾーニやイザイ、パッハマンのリサイタルだったとか。このホールに出演した作曲家、演奏家の名前が紹介されましたが、正に音楽史そのものと言えるでしょう。
サッコーニ・クァルテットの名演に加え、是非聞いて欲しい解説も併せ、いわゆる「神回」と呼べるコンサートでした。皆様も是非。
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