読売日響・第602回定期演奏会

サントリーホールで月一回開催されている読売日本交響楽団の定期演奏会、本当に久し振りに聴いてきました。この前読響を聴いたのは今年1月の定期、下野竜也指揮でペスト流行時の酒宴ほかという誠に皮肉なプログラムでしたから、実に9か月ぶりのことです。
定期演奏会自体は2月から中止に追い込まれ、日本のオーケストラとしては最も早く定期が出来なかったことになりますね。漸く9月に再開の運びとなりましたが、読響は定期会員だけで客席の50%を上回っており、9月時点で客席制限が50%未満だったことから、私共は辞退していました。(尾高忠明指揮)

そもそも読響は設立時の趣旨として海外の一流指揮者・ソリストを招聘するという団是が掲げられていたほどですから、特に定期演奏会については殆どが来日演奏家。これが裏目に出たこともあって、止むを得ず中止、実施しても出演者は全て代演、これに伴って曲目も全面変更という事態に陥ってしまいました。再開した秋シーズンも例外ではなく、10月定期は本来ならグザヴィエ=ロトが客演してマーラーの第7交響曲を中心にしたプログラムでホールを沸かせている筈でした。しかし期待は叶わず、当夜のプログラムは以下のもの。

レスピーギ/組曲「鳥」
プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調作品19
     ~休憩~
レーガー/モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ作品132
 指揮/秋山和慶
 ヴァイオリン/神尾真由子
 コンサートマスター/長原幸太

マーラーを聴きたくてチケットを買っていたファンには何とも拍子抜けですが、そんなことは言ってられません。久々の読響サウンドを楽しむことにしましょう。
もちろん読響も感染予防対策は万全ですが、この対策はオーケストラによって微妙に異なります。私は会員である日フィルと読響しか知りませんが、読響の場合、手指消毒はホール・エントランスの手前、つまり外でペダルを踏んで消毒薬を使用するスタイルでした。
サーモカメラでの検温、チケット半券を自分で切る、プログラムも自主的に取る、マスク着用、会話を極力控える、ブラヴォー禁止、楽屋に押し掛けること厳禁などは各オーケストラとも共通でしょう。読響の場合は、チケットを購入した人と来場者が異なる場合は来場者登録用紙への記入が念入りに求められていましたが、これって係員が認識できるんでしょうか。

かなり面倒な手続きが必要ということもあってか、定期会員が占めていると思われる席にも空席が目立ちます。もちろん感染を恐れてパスした人、マスク着用が煩わしく欠席する会員も多いでしょう。読響定期でいつも見掛ける馴染みの顔が多数見られなかったことも事実でした。
この日は座席制限が緩和されたこともあって、市松ではなく通常の席での鑑賞。1階、P席共に最前列も解放されています。それでも、自主的に市松で座れる程度の入り。特に後半は途中帰宅した人も目立ち、見通し良くオーケストラの風景を楽しむことが出来ました。

入場時に自分で取るプログラム。読響の月刊誌は背表紙があるほど厚手のものですが、今回は中央をステープラーで留めた薄手の一冊。ここにもコロナの影響が感じられます。
ホールには何台ものカメラが並んでいて、テレビ収録が行われる様子。読響の場合は日本テレビが母体の一つであるため、どうしても収録映像は電波を通して放映されるのが主体。今回の定期も日テレの読響シンフォニックライブなどで放送されるのでしょうが、音楽配信は今やネットの時代でしょう。N響や読響にとって、これからは厳しい時代になるのではと懸念せざるを得ません。読響の場合は hulu でも配信されていると聞きますが、これは有料チャンネルですよね。

10月定期の目玉は、何と言っても神尾真由子が弾くプロコフィエフ。冒頭の弱音からして、ピアニシモがホール隅々に響き渡ります。「夢見るように」も「語るように」も作曲者の意図通り、グイグイと聴き手を惹き付けて飽きさせません。
多彩な技巧を駆使するスケルツォ、変化に富んだ第3楽章と、あっという間にプロコフィエフの難曲を満喫することが出来ました。テクニックは完璧ですが、難しさを感じさせない演奏。技量を超えた先を見据える音楽性が、神尾には備わっているのです。楽器は多分宗次コレクションのストラッド「ルビノフ」でしょう。その美しい音色を完璧に惹き出していました。

アンコールはありませんでしたが、これで満足したファンが多かったようで、休憩を潮に帰られた方多数。意外にナマで接する機会のないレーガーをパスするのはもったいないと思います。
有名なトルコ行進曲付きピアノ・ソナタの第1楽章テーマを基に書かれた大管弦楽のための変奏曲とフーガですが、レーガー特有の分厚いオーケストレーション、複雑に入り組んだ対位法が魅力でもあり、取っ付き難さでもありましょう。分厚いと言ってもトロンボーンが使われていないのも特徴で、この日は3曲ともトロンボーンの出番が無いコンサートでもありました。

モーツァルトの主題による変奏曲とフーガは、弦楽合奏(今回は10型でしたか?)が分奏になっていて、特に初めの変奏曲では各パートの表と裏が別々に弾くのが見所。ここはCDなどで聴いていては判別できない場面で、今回のように生演奏でレーガーの魅力、音色の秘密を味わうことに楽しみがあります。
秋山/読響もとかく重く成り勝ちなレーガー・サウンドを、むしろ耳に心地よく、敢えて言えばスッキリと聴かせてくれました。間もなく80才を迎えるマエストロの本領発揮というところでしよう。

演奏会の冒頭には、レスピーギの比較的小編成の組曲が取り上げられました。舞台上のソーシャル・ディスタンスに配慮できる編成とあって、6月以降はいくつかのオーケストラでも演奏されるようになってきました。
読響の次回、11月定期も予定とはがらりと替わり、同団クリエイティヴ・パートナーの鈴木優人がシューベルトと現代作品の組み合わせで登場します。

終演後は時差退場となりましたが、読響の場合は1階席から。日フィルとは逆の順番でした。
読響会員には特製CDプレゼントの特典があり、今年は演奏会終了時に配布とのこと。私共は2席会員のため、2種類のCDを有難く頂きました。1枚は常任指揮者ヴァイグレのエロイカ、もう1枚は常任・首席客演・クリエイティヴパートナーの3指揮者による名曲集で、帰ってからゆっくり聴くことにしましょう。

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