ヴィグモア日誌(9)

前回のヴィグモア日誌に書いたように、イングランドが再びロックダウンとなったのを受け、ロンドンのヴィグモア・ホールの秋シーズンは無観客での演奏会をライブストリーミングするという形に変更せざるを得なくなりました。先週からコンサートそのものが激減し、第9週に開催されるのは11月9日のマチネと夜のコンサートのみ。日誌とは言えない状態ですが、月曜日に行われた二つのコンサートを紹介しておきましょう。
どちらも舞台上の演奏者と、通常より後方の通路に置かれた机で解説するコメンテイター、客席にはホール関係者が一人か二人という拍手の無いコンサートでした。

11月9日(月)のマチネは、ローレンス・パワー Lawrence Power のヴィオラとライアン・ウイッグルスワース Ryan Wigglesworth のピアノによるデュオ・リサイタル。パワーは英国のヴィオリストで、1999年のプリムローズ国際ヴィオラ・コンクールに優勝し、2001年から2003年までBBC新世代アーティストに選ばれていました。ベルリン・フィルの首席奏者の座を断ったという名手。一方のウイッグルスワースはピアノだけでなく、作曲家・指揮者としても活動しているマルチ・タレント。作品はショット社から出版され、多くがペルーサル・スコアとして閲覧可能です。この日のリサイタルで新作が世界初演されましたが、これはヴィグモア・ホールの委嘱によるものだそうです。
リサイタルの冒頭は、無伴奏ヴィオラでダウランドの「If my complaints could passions move」という作品。現代のヴィオラで演奏できるようにベンジャミン・ブリテンがリアリゼーションしたものです。続いては、正にこのダウランド作品を基にブリテンが作曲した「ラクリメ~ダウランドの歌曲の投影作品48」というもの。出版はブージーの由。
3曲目がウイッグルスワースの新曲で、5つのワルツ(世界初演)。コンサートの最後はブラームスのクラリネット・ソナタ第1番へ短調作品120-1をヴィオラ版で。アンコールはショスタコーヴィチのヴィオラとピアノのための即興曲作品33でした。

11月9日の夜は、4人の若手歌手が音楽や楽器に関する作品を交代で歌っていくコンサート。ピアノは10月25日、11月2日に続きこの秋3度目の登場となるジョセフ・ミドルトン Joseph Middleton です。4人の歌手とは、ソプラノのセーラ・フォックス Sarah Fox、メゾ・ソプラノがキティー・ウェイトリー Kitty Whately、テノールにアレッサンドロ・フィッシャー Alessandro Fisher、バス・バリトンのステファン・ローゲス Stephan Loges という面々。コンサートは大きく4部で構成され、第1部はシューベルトとパーセルを交互に組み合わせるもの。第2部はブラームス、第3部がフランス歌曲、第4部が英国作品という内訳でした。歌われた順に作品をリストアップしておきましょう。
シューベルト/音楽に寄すD547(MS)
パーセル/トランペットよ響け、太鼓よ轟け(S、MS)
シューベルト/クラヴィアを弾くラウラD388(Br)
パーセル/音楽が恋の糧であるなら(T)
シューベルト/竪琴に寄せてD737(Br)
パーセル/付随音楽「エディプス王」~Music for a while(S)
シューベルト/竪琴弾きの歌D478(3曲)(Br)
パーセル/マイラが歌う時(T、Br)
シューベルト/リュートに寄せてD905(T)
パーセル/歌劇「妖精の女王」~Hark! the echoing air(S)
ブラームス/調べのように私を通り抜ける作品105-1(MS)
ブラームス/セレナード作品106-1(MS)
ブラームス/ひばりの歌作品70-2(S)
ブラームス/郷愁作品63-8(Br)
レイナルド・アーン/Si mes vers avaient des ailes(S)
ビゼー/アルバムの綴り~ギター(MS)
ボルドウスキ/マンドリン(T)
フォーレ/5つのヴェニスの歌~マンドリン作品58-1(T)
フォーレ/2つの歌~歌う妖精作品27-2(S)
ヴォーン=ウイリアムス/Orpheus with his lute(T)
ロジャー・キルター/Music, when soft voices die 作品25-5(S)
ロジャー・キルター/5つのシェークスピア歌曲集~It was a lover and his lass 作品23-3(S、T)
サリヴァン/5つのシェークスピア歌曲集~Orpheus with his lute(S、MS、T、Br)
 ソプラノ/セーラ・フォックス Sarah Fox
 メゾ・ソプラノ/キティー・ウェイトリー Kitty Whately
 テノール/アレッサンドロ・フィッシャー Alessandro Fisher
 バス・バリトン/ステファン・ローゲス Stephan Loges
 ピアノ/ジョセフ・ミドルトン Joseph Middleton
このうちパーセルの5曲は、マチネのダウランドと同様に何れもベンジャミン・ブリテンが編纂したもので、ブリテンにはオリジナル作品の他に古い音楽を現代に蘇らせるという功績もあるのですね。
アンコールは、四重唱でエルガーの There is sweet music 作品53-1でした。

ヴィグモア・ホールの秋シーズン、来週も月曜日のマチネと夜の2公演のみの予定、無観客での配信となります。

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