ヴィグモア日誌(10)

第2次ロックダウンが続くロンドンのヴィグモア・ホール、無観客での配信による秋シーズンは、11月第3週も月曜日のマチネと夜のコンサートのみ。その二つを纏めて紹介しておきます。

先ず11月16日(月)のマチネは、スコットランド生まれ、オペラ、オラトリオ、リサイタルで活躍中の若手テノール、ニッキー・スペンス Nicky Spence がヤナーチェクを歌うリサイタル。ピアノ伴奏はやはり英国のピアニスト、ジュリアス・ドレイク Julius Drake 。ドレイクは歌曲の伴奏者として活躍していて、ボストリッジと数多くの歌曲を録音しています。
前半はヤナーチェクの連作歌曲集「消え去った男の日記」。この作品はピアノ伴奏による一種のオペラとも言え、途中でメゾ・ソプラノのジェス・ダンディー Jess Dandy も加わります。また二人のソプラノ(エリー・ネーテ Ellie Neate 、レイラ・アレクサンダー Leila Alexander)とメゾ・ソプラノ(キャサリン・バックハウス Catherine Backhouse)の3人も2階席から参加。この作品の英国初演はヴィグモア・ホールだった由。狭いながらヴィグモア・ホールのステージをフルに使っての大熱演。
後半も同じヤナーチェクのモラヴィア民謡集から第16・19・1・17・22曲の5曲が歌われました。様々なタイプの民謡が披露され、スペンスとダンディーは打楽器も叩きながらの楽しい演奏。アンコールもモラヴィア民謡からの1曲が、全員参加で賑やかに歌われました。なお、スペンスはこの日歌われた歌曲集をドレイクと共にハイペリオンに録音しています。

11月16日の夜は、ロンドン生まれのヴァイオリニスト、タムシン・ワリー=コーエン Tamsin Waley-Cohen と、作曲家でもあるヒュー・ワトキンス Huw Watkins のピアノによるデュオ・リサイタル。演奏されたのは全部で5曲、最初と最後はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタが取り上げられ、冒頭は第8番ト長調作品30-3、締め括りには第10番ト長調作品96が演奏されました。第8番のドラえもん・ソナタは、10月26日のクロエ・ハンスリップとダニー・ドライヴァーに続いてこの秋シリーズ二度目の登場でもあります。2曲目はナッセンのヴァイオリンとピアノのためのリフレクション。この作品はナッセンの最後から2番目の作品で、ナッセンはワリー=コーエンのためにヴァイオリン協奏曲も書いていますね。
3曲目がヤナーチェクのヴァイオリン・ソナタ。この日のマチネと併せてヤナーチェクの一日でもありました。そしてワトキンス自身の新作、ヴァイオリン・ソナタの世界初演が続きます。この作品はヴィグモア・ホールの委嘱によって書かれたもので、3月のロックダウン前に完成していたもの。本来なら今春に初演される筈でしたが、2度のロックダウンでここまで初演が遅れていたのたそうです。ワトキンスの出版社はショット、何れ出版の運びとなるでしょう。
お腹が大きいワリー=コーエンは座っての演奏。彼女は室内楽にも熱心で、アルビオン弦楽四重奏団を結成していることでも知られています。

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