読売日響・第603回定期演奏会

11月19日、赤坂のサントリーホールで読響の第603回定期を聴いてきました。今期の読響を聴くのは2回目、当初予定されていた演奏者・曲目は何だったか忘れましたが、海外渡航の規制やソーシャル・ディスタンスのルールなどで大幅に内容が変更された定期。以下の曲目でした。

シャリーノ/夜の肖像
シューベルト/交響曲第4番ハ短調D417「悲劇的」
     ~休憩~
ベリオ/レンダリング~シューベルトの未完の断片を用いて~
 指揮/鈴木優人
 コンサートマスター/長原幸太

指揮は、この4月から読響のクリエイティヴ・パートナーという余り耳にしたことの無いポストに就任したばかりの鈴木優人。読響の定期に登場するのは初めてだと思います。選ばれた作品は、イタリアの現代作品とシューベルト。メインはベリオがシューベルトの未完成作品を補筆して完成したもので、言わばシューベルト繋がりでしょうか。
シューベルトと言えば11月19日が命日。しかも第4交響曲の公開初演は死後、1849年11月19日にライプツィヒで、ということになっていますから(実際には生前、ハトヴィヒが主催していたオーケストラで初演された筈ですが正式な記録は残っていません)、正にこの日はシューベルトにとって二重の意味で記念日だったことになりますね。

ところが不思議なことにプログラム等でもそのことには全く触れられていません。私も帰宅途中に自分で纏めている音楽ダイアリーを見てハタと膝を打ったほどですから、知らずに聴いていた人も多かったんじゃないでしょうか。もしかして演奏家たち本人も知らなかったのでは、まさかネ。
ということで中々滋味溢れるプログラミングでした。

そのシューベルト、初期の交響曲が聴けるのは珍しい機会ですが、これもコロナのお陰として喜ぶべきなんでしょうか。第4番はハ短調ということもあって比較的人気があり、鈴木の引き締まった指揮が冴えていました。弦楽器が対向配置に並んでいたのも鈴木ならではでしょう。
プログラムの曲目解説(澤谷夏樹氏)も作品の音程関係を紹介したもので、かなりマニアックなものとして読みました。オーケストレーションは通常の2管編成ですが、ホルンが4本も使われているのに注目。尤も全ての楽器が登場するのは最初と最後の楽章だけ。第2楽章はトランペットとティンパニはお休みでホルンも2本、第3楽章もホルンは2本だけでした。

後半のシューベルトは、未完に終わった交響曲の一つをベリオ風に完成させた作品とも言えそう。素材はD936Aとして伝わっているもので、以前は交響曲第10番として整理されていたこともあったと記憶します。
現にこの断片はブライアン・ニューボールドという人が演奏できるように完成させていて、フェイバー社から出版されているスコアには「交響曲第10番」と明記されています。ニューボールド版はマリナーのシューベルト交響曲全集にも収録されていて、これをベリオ編曲と聴き比べるのも面白いでしょう。

一方、ベリオが完成させたレンダリングは、通常の2管編成にチェレスタが加わるのが異色。トロンボーンが3本加わるのはニューボールドと同じです。共に急緩急の3楽章なのも同じ。
シューベルト風に威勢よく始まるのですが、次第にグチャグチャと崩れていくところが如何にもベリオ。シューベルトとベリオが交互に登場するのですが、ベリオ部でもシューベルトの素材が生かされている。これを解説者が「角が取れた大根の煮崩れ」に譬えていたのには笑ってしまいました。なるほど、そういう聴き方もあるのか。

レンダリングを初めて聴いた方は面食らったかもしれませんが、最後に「ソードーファーミドレーシソドー」(解説の真似です)と壮大なテーマが如何にもシューベルトらしく響いたところで納得。客席も大きな拍手で熱演と洒落たプログラムを称えました。

プログラムの最初にイタリアのパレルモ出身の作曲家、サルヴァトーレ・シャリーノの8分ほどの作品が紹介されましたが、この日の管弦楽編成に沿った2管編成の比較的小さなオーケストレーション。但しオーボエが使われていないのが珍しく、打楽器は二人が3種類を担当します。中でも「ステンレス製の鋼の板」とスコアに指定されているスチールプレートが曲者で、これを大太鼓の撥で静かに鳴らす。その音が如何にも夜の闇を不気味に表現しているようで、私は太古の時代に夜がもたらす不安感として聴きました。

それを更に増幅させるのが、第4ヴィオラが奏する pppp のピチカート。これが恰も古の人間を不安に陥れたというシバンムシ(死番虫)が立てる音(実際には頭を壁に打ち付けて発する音)のようにも感じられ、全編最弱音で進行する「夜の肖像画」の魅力と言えそうです。(シバンムシは現在も生息していますが、その「死の時計」は聴くことが出来ません。それだけ夜が騒がしくなったということでしょう。)
弦楽器は6-6-4-4-2で演奏され、作品を通して Lento e animato 。小節数は丁度100に納められていて、ほとんどが4分の4拍子。たった1小節だけ4分の3拍子でチェロのソロが微かに囁くのですが、全体に拍子感や躍動感は全く存在しません。珍しい体験をさせて貰いました。

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