ヴィグモア日誌(12)

ヴィグモア・ホールからのライブ配信を一週間ごとに纏めて紹介するシリーズも残り1か月になりました。第12週は無観客に戻ってからは最も演奏会の回数が多く、月曜日の昼夜の他に火曜日と水曜日の夜にもコンサートがあり、週4回の配信を楽しむことが出来ました。

11月30日(月)のマチネは、英国のメゾ・ソプラノ歌手クリスティーネ・ライス Christine Rice とジュリアス・ドレーク Julius Drake のピアノによるデュオ・リサイタル。英語、ロシア語、ドイツ語による歌曲集で構成されていました。
ライスは2004年から2006年までBBCのヤング・ジェネレーション・アーティストに選出されていたメゾで、特にヘンデルを得意とすることで知られる方。片やドレークは9月26日のジェラルド・フィンリー・リサイタル、11月16日のニッキー・スペンス・リサイタルに続くこの秋三度目の登場となります。
プログラムはブリテンの歌曲集「ティット・フォー・タット」、ムソルグスキーの歌曲集「死の歌と踊り」、最後はクルト・ワイルの歌から5曲が選ばれています。ワイルの歌は順に、ナチ兵士の妻のバラード~兵士の妻が買ったもの、ナナの歌、雨が降る、光の中のベルリン、あとどのくらい? の5曲。アンコールとしてブリテンの歌曲集「子守歌のお守り」作品41から最後の第5曲「乳母の歌」、ララバイで締め括られました。

11月30日の夜は、久し振りに弦楽四重奏のコンサート。本来はイゴール・レヴィットとユリア・ハーゲンのデュオ・リサイタルが予定されていましたが、シーズン初めには無事に来英していたレヴィットも海外渡航規制に引っ掛かって出演できず、変更されたもの。
登場したヒース・クァルテット Heath Quartet は9月15日のランチタイム・コンサートでバッハとベートーヴェンを演奏して以来。このコンサートはライブ配信されず、第6週になって漸くアーカイブとして聴くことが出来たことを記憶されているでしょう。改めてメンバーを紹介すると、ヴァイオリンはオリヴァー・ヒース Oliver Heath とサラ・ウォルステンホルム Sara Wolstenholme 、ヴィオラがゲーリー・ポムロイ Gary Pomeroy 、チェロはクリストファー・マレー Christopher Murray の面々。2002年にマンチェスターのロイヤル・ノーザン・カレッジ・オブ・ミュージックで結成され、現代作品に熱心に取り組んでいる団体。東京クァルテットとの共演もあり、2016年のグラモフォン室内楽賞をティペットの弦楽四重奏曲全集で受賞していますね。チェロ以外は立奏で演奏するのもお馴染みでしょう。
今回は英国の新しい作品を3曲集中して取り上げ、マクミランのメメント(1994)、アデスのアルカディアーナ作品12、ブリテンの弦楽四重奏曲第2番ハ長調作品36が演奏されました。ブリテンはヴィグモア・ホールで初演された作品でもあります。

12月1日(火)の夜は、大英帝国勲章受章者で英国の至宝とも呼べるバリトン歌手ロデリック・ウイリアムズ Roderick Williams のリサイタル。ピアノはクリストファー・グリン Christopher Glynn 。ウイリアムズはBBCプロムスの常連、ライトナイトにも登場していますから、改めて紹介するまでもないでしょう。
この日は全て英国作品で構成されたプログラムで、冒頭のパーセル3曲(音楽が恋の糧であるなら、Tyrannic Love or The Royal Martyr ~Ah! how sweet it is to love、付随音楽「テーベの王エディプス」~つかの間の音楽)とティペット(アリエルの歌)は休みを置かずそのまま続けて演奏され、4世紀の時空移動が堪能できました。
これに続いてロジャー・クィルターの7つのエリザベス朝の歌作品12、ヒュー・ウッドの6つのギリシャの歌作品52、リチャード・ロドニー・ベネットの歌曲集「Songs before Sleep」が歌われ、我々には馴染みの薄い歌の数々が表情豊かに歌われます。全曲が暗譜で歌われるのは流石。アンコールで初めて良く知っているシューベルトの「音楽に寄す」D547が歌われましたが、ジェレミー・サムズ Jeremy Sams の英語訳だったのには驚きました。

12月2日(水)の夜は、歌と詩の朗読が交互に登場するという珍しい演奏会です。歌はメゾ・ソプラノのキッティー・ホエイトリー Kitty Whately 、ピアノ伴奏がサイモン・レッパー Simon Lepper 。朗読はケヴィン・ホエイトリー Kevin Whately とマドレーヌ・ニュートン Madelaine Newton という何れも英国の方。朗読の二人はキッティー・ホエイトリーの両親ということで、ファミリー・コンサートでもあります。詩の朗読も全て作者とタイトルがクレジットされていますが、長くなるので歌われた音楽だけを演奏順に紹介すると以下の通りです。詳しくはヴィグモア・ホールの公式ウェブサイトをご覧ください。
ジョナサン・ダヴ Jonathan Dove (1959-)/All the Future Days ~The Siren
レベッカ・クラーク Rebecca Clarke (1886-1979)/The Seal Man
ジュディス・ウェアー Judith Weir (1954-)/Songs from the Exotic ~ The song of a girl ravished away by the fairies in South Uist
スタンフォード/La Belle Dame sans merci
ハーバート・ハウウェルズ Herbert Howells (1892-1983)/ダビデ王
バーバー/隠者の歌~St Ita’s Vision
バーバー/隠者の歌~The Crucifixion
ジュリアナ・ホール Juliana Hall (1958-)/ゴディヴァ
ステファン・ソンドハイム Stephen Sondheim (1930-)/Passion ~I read
ステファン・ソンドハイム/Into the Woods ~Moments in the Woods
ステファン・ソンドハイム/Into the Woods ~On the Stops of the Palace
ステファン・ソンドハイム/Into the Woods ~Children Will Listen

以上が第12週の演奏記録ですが、朗報が二つあります。一つは、どうやら12月7日から聴衆が戻ってくるようですね。実際に当日の配信を見ないと確認できませんが、イギリスでは経済活動が徐々に再開されていくことに期待が高まります。
もう一つは、12月16日には我が内田光子がヴィグモア・ホールに登場し、観客を前にシューベルト・リサイタルを行うと発表されたこと。日本からも多くのファンがヴィグモア・ホール・チャンネルにアクセスされるよう促しておきましょう。

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