今日の1枚(50)

ユニヴァーサル・クラシックからデッカのロゴで販売されているシリーズの2枚目。これは間違いなく全てデッカ録音です。UCCD-3522(476 9518)
①モーツァルト/交響曲第35番二長調K385「ハフナー」
②ハイドン/交響曲第100番ト長調「軍隊」
③ハイドン/交響曲第94番ト長調「驚愕」
①と②がロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、③がアムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団。いずれも指揮はエドゥアルド・ヴァン・ベイヌム。
このCDに附されたデータはこうです。
①②が1950年5月、ロンドン
③は1951年9月、アムステルダム。
いずれもモノラル録音。録音場所とプロデューサー/エンジニア名は記載無し。
しかしこれは明らかに誤りでしょう。①と②を実際に聴いてみれば明らかなように、とても同じ50年5月の録音とは思えません。
①はデッカ・ヴィンテージとも言えるモノラル録音の最高峰ですが、②は如何にもSP録音、ノイズは酷いし音質もムラが多く、普通の意味で鑑賞に堪えるシロモノじゃありません。
①の初出は2枚組み4面のSP、AX 467/8 というものでしたが、直ぐにヘンデルのハーティ版「水上の音楽」とのカップリングでLP(LXT 2534)化されています。
一方②は、AK 1808/10 という3枚6面のSPで初出。レコード音楽百科辞典でも②が本編、①は1951年の追加編に記載されているのです。
①の1950年が正しいとすれば、②は1940年代後半の録音だと思われます。
ということで、データには疑問もあり、解説もベイヌムの生年を1901年とするなど、商品としてはかなり怪しげな一品と言わざるを得ません。
①は1950年録音としては驚異的に好音質。正にデッカ・ヴィンテージでしょう。
第2楽章の繰り返しは省略、第3楽章は実行しています。そもそも第1・4楽章に繰り返しはありませんから、問題ありません。
②は先に書いたように、劣悪と評してよい音質。
第1楽章主部が意外にゆったりとしているのが特徴。更に、第1主題の再登場を促すフルートのトリル(73から74小節)を省略しているのも面白い点。(オイレンブルクの旧版ではトリル記号を後から印刷していますから、トリルの無い楽譜が使われていたのかもしれません)
提示部第2主題の出る直前(92小節と93小節の間)で思わぬ休止が入ります。最初はSP面の繋ぎ箇所かと思いましたが、それは提示が終わって展開部に入る前。実際にここで一呼吸入れたのかも知れません。
繰り返しを実行しているのは第3楽章のトリオと、第4楽章頭のテーマの繰り返しだけ。
軍隊交響曲ではメヌエット前半に繰り返し記号はないのですが、後半も省略するのは珍しいと思います。あるいはSP片面4分に収録するための処置かも。
同じことは第4楽章の極めて快速なテンポにも当てはまるかも知れません。これほどスピード感のあるテンポはベイヌムらしくありませんから。
(第3楽章は3分58秒、第4楽章が3分59秒。ご存知のように、SP片面は4分チョッとが収録時間の限界でした)
③は録音が最も新しいだけあって、3曲の中では最高音質の一曲。
第1楽章の繰り返しは省略していますが、第2・3楽章は全て実行しています。
以上3曲は、現在ではクリティカル・エディション(批判校訂版)で演奏されるのが常識ですが、ベイヌム時代はどれも旧版による“由緒正しい”演奏です。
参照楽譜
①ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.51
②オイレンブルク No.434
③ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.26

 

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