強者弱者(2)

九月の末

 九月の末、秋晴の日を名残の単衣にうけて、煉瓦地の町々を散歩するも興あり。街樹の色未だうつろはざるに、白昼の日ざし静かに、照り映えたるもよし。塵埃漸く斂まりて、街衢の色鮮やかなるに、遠く行く西洋婦人のリンネンの衣鮮やかにうつりたるもよく、秋を迎ふる店頭の装飾は人の心を新ならしめ、夏を送る氷屋の旗の雨にうたれ、風にいためるは、人の心を悲ましむ。
 九月の末より十月にかけて雨多し、秋雨の夜、床低き家にすまひて、物思はんはわびしともわびし。

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「リンネン」は現在ではリンネルと言った方が判り易いでしょう。広辞苑によれば、亜麻の繊維で織った薄地織物。
これは誤植ではなく、明治末年当時はリンネンともリネンとも言い習わしていたようです。

夏の終わりを自分の境涯に重ね合わせた一文ですが、当時は現在以上に季節の移ろいが身を以って感じられたのでしょう。

 

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