英国競馬1960(1)

去年初めて試みた50年前のイギリスを中心にした競馬回顧、今年も新シーズンがスタートするまでの暇潰しに振り返ることにしましょう。

1960年のクラシック、先ずは2000ギニーから。

前年の2歳王者シング・シング Sing Sing は2歳時に6戦6勝、その年のフリーハンデで9ストーン7ポンドに評価されていましたが、勝鞍は全て5ハロンでのもの。血統的にも完全なスプリンターで、最初からクラシックには無関係の存在でした。

これに次いでフリーハンデ2位に評価されたのがフランス馬のヴェンチャー7世 Venture Ⅶ。2歳時にイギリスに遠征し、ケンプトンのインペリアル・プロデュース・ステークスとニューマーケットのミドル・パーク・ステークスという、当時のイギリスの2歳チャンピオン戦を制した馬です。
そのヴェンチャーが地元フランスでの3歳初戦を快勝し、再度遠征して2000ギニーの1番人気に支持されていました。

レースは、ニューマーケットではよくあることですが、馬群が内ラチと外ラチに大きく分かれ、両方のグループがコース一杯に広がったままほとんど同時にゴール。当然ながら写真判定にもつれ込みます。

スタンドから遠い内ラチの先頭がヴェンチャーでしたが、結局はスタンドに近い外ラチを先頭でゴールしたマーシャル Martial がヴェンチャーに頭差で優勝。18対1という中荒れの結果になりました。

マーシャルはアイルランド産の大柄な栗毛馬で、オーナーはアメリカ人のウェブスター氏、調教師はアイルランドのパディー・プレンダ―ギャスト師。これにより、マーシャルは2000ギニーを制した初のアイルランド調教馬という栄誉にも浴したのでした。勝利騎手は、ロン・ハッチンソン。

2歳時のマーシャルは3戦し、2戦目にカラー競馬場の小レースで初勝利したあと、ロイヤル・アスコットに遠征してコヴェントリ―・ステークスも制します。
ところが1959年のアスコット競馬場は極めて堅い馬場で、前駆をダイナミックに使って走る大柄なマーシャルは脚を痛めてしまい、2歳シーズンはこれで引退する結果になってしまいました。

翌3歳時は、アイルランドのフェニックス・パーク競馬場でアスボイ・ステークスから始動。ここはダイ・ハード Die Hard の5着。
続いてイギリスに渡ってサースク競馬場のクラシック・トライアルがニューバス Newbus の2着と徐々に調子を上げ、3戦目でクラシック挑戦というローテーションでした。

マーシャルは2000ギニーの後アメリカ遠征という意向もあったようですが、結局はヨーロッパに留まりました。
ダービーなどへの登録が無かったことから夏場は休み、グッドウッドのサセックス・ステークスに出走します。
ここには2000ギニーで接戦を演じたライヴァルのヴェンチャーも登場し、両馬の再戦が実現しました。

サセックス・ステークスは今でこそGⅠの馬齢重量戦ですが、当時は獲得賞金によるペナルティーが課せられる仕組み。当然ながらクラシック馬のマーシャルは6ポンドの負担増が課せられます。
結果はヴェンチャーがマーシャルに半馬身差を付けて雪辱。半馬身という着差と6ポンドの斤量差を考えれば、ここでもマーシャルの実力がやや上、と判断しても良いでしょうか。

マーシャルは結局これを最後に引退、7戦3勝2着2回という生涯成績を残しました。

種牡馬としてのマーシャルは完全な失敗と言ってよいでしょう。目立った活躍馬に恵まれないまま、1967年にはアルゼンチンに輸出されます。
彼の産駒で父系を継いだのは恐らくザ・マーシャル The Martial 1頭。そのザ・マーシャルも目立った活躍馬を出すことなく、このサイヤー・ラインは途絶えてしまいました。

日本でのマーシャル産駒では、持込で活躍したタニノソプリンが忘れられません。函館3歳ステークスを制し、北海道3歳ステークスとデイリー杯3歳ステークスで2着に食い込んだ黒鹿毛の牝馬です。思い出される方もいらっしゃるでしょう。

日本で親しみを覚えるのは、むしろ2000ギニーで惜敗したヴェンチャーの方。
ヨーロッパでも活躍馬を出した後に輸入され、わが国では桜花賞馬タカエノカオリ、ダービー馬クライムカイザー、名牝イットーなど、日本では最も成功した種牡馬となりましたね。

折角ですからマーシャルについて更に触れれば、彼は父がケンタッキー・ダービー馬のヒル・ゲイル Hill Gail 、母はディシプリナー Discipliner という血統。
この母はヨーロッパでも屈指の名牝で、マーシャルの他にスチュワーズ・カップに勝ったスカイマスター Skymaster 、名スプリンターのエル・ギャロ El Gallo の母でもあります。

スカイマスターとエル・ギャロは共に日本に種牡馬として輸出され、その血脈が牝系を通じて現在まで受け継がれていることは御存知のことでしょう。

 

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