フロリダ・ダービーと三州のオークス

3月最終日のアメリカ競馬レポートです。こちらでもワールド・カップが話題になっていましたが、結局はロイヤル・デルタ Royal Delta 9着、シャンタル・サザーランドと組んだゲーム・オン・デュード Game On Dude 12着と惨敗に終わりました。
それは扨て置き、アメリカ本土ではフロリダ州のガルフストリーム・パーク競馬場でG戦6レースの祭典状態、他にルイジアナ州のフェア・グラウンズ競馬場とカリフォルニア州のサンタ・アニタでも重要なクラシック・トライアルが行われています。
特に3州では夫々のオークスが、フロリダからはケンタッキー・ダービーに向けて目が離せないフロリダ・ダービーも行われました。順次取り上げていきましょう。

先ずは fast の馬場で行われたフェア・グラウンズ競馬場から行きましょうか。フェア・グラウンズ・オークス Fair Grounds Oaks (GⅡ、3歳牝、8.5ハロン)は6頭が登録していましたが、インニー・ミニー Inny Minnie が取り消して5頭立て。一月前に同競馬場で行われたレーチェル・アレクサンドラ・ステークス(GⅢ)を制したサマー・アプローズが4対5の抜けた1番人気に支持されていました。
しかしレースは1番枠スタートを利して先手を取った3番人気(7対2)ビリーヴ・ユー・キャン Believe You Can の逃げ切り勝ち。直線では他馬を大きく引き離しての楽勝かに見えましたが、ゴール前で本命サマー・アプローズが急襲、写真判定の結果ビリーヴ・ユー・キャンが頭差サマー・アプローズを抑えていました。3着は9馬身の大差が付いて2番人気(3対1)のディスポーザブルプレジャー Disposablepleasure 。
ブレルトン・ジョーンズ師が管理するビリーヴ・ユー・キャンは、レーチェル・アレクサンドラでは1番人気に支持されるも4着に敗退していた馬で、G戦は初勝利。騎乗するロージー・ナプラヴニクは、シャンタル・サザーランドと並ぶトップ・クラスの女性騎手で、フェア・グラウンズの今開催でリーディングを走る名手です。1・2着の両陣営とも、次走はケンタッキー・オークスとなることを明言しています。

続いて一日6レスものグレード戦が組まれているガルフストリーム・パーク競馬場から。レース順に取り上げていきましょう。こちらの馬場状態、メインコースは fast 、芝コースは firm の発表です。
第3レースのランパート・ステークス Rampart S (GⅢ、4歳上牝、9ハロン)から。6頭立ての小頭数、1対9の圧倒的1番人気に支持されたGⅠ馬オウサム・マリア Awesome Maria が期待に応えて楽勝です。
逃げるカナディアン・ミストレス Canadian Mistress を3~4コーナー中間で捉えると、後は危なげい独走。2着には2馬身4分の1差で2番人気(6対1)のベロヴィーダ Beloveda が追い込んで順当な結果。3着は3馬身離されてカナディアン・ミストレスが逃げ残りました。2・3着は共にマーチン・ウルフソン厩舎の管理馬。
勝ったオウサム・マリアはトッド・プレッチャー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗。Gレース6連勝で、去年に続いてランパート・ステークス2連覇達成(去年は2着に8馬身!)です。2連覇は前走セービン・ステークス(GⅢ)に続いて2戦連続。去年はニューヨークに戻って休みなく出走しましたが、今年は一休みしてから秋のチャンピオン・シリーズに備える意向とか。

第5レースはスキップ・アウェイ・ステークス Skip Away S (GⅢ、4歳上、9.5ハロン)。9頭立ての1番人気(3対2)は去年のフィリップ・H.イズリン(GⅢ)に勝ち、今年のドン・ハンデ(GⅠ)で接戦の4着したウェアーズ・スターリング Where’s Sterling でしたが、4着敗退。優勝は12対1(5番人気)の伏兵フォート・ラーンド Fort Larned でした。
アップタウンチャーリーブラウン Uptowncharlybrown の逃げを向正面で捉えると、そのまま追走する3番人気(7対2)アルマ・ドーロ Alma d’Oro の追撃を2馬身半差開いたままの快勝。3着は大きく置かれ、漸く12馬身半遅れて2番人気(5対2)のセルフ・コントロール Self Control が続きました。上位人気3頭を尻目に逆転劇を演じたフォート・ラーンドでしたが、勝ち時計はこれまでの記録を1秒近く縮める1分53秒92のトラック・レコード、単なるフロックではないでしょう。
イアン・ウイルケスが調教、ジュリアン・ルパルーが騎乗したフォート・ラーンドは、これがG戦初勝利。前走タンパ・ベイ・ダウンズの一般ステークスを勝ってきた4歳馬です。2代母に名馬バヤコア Bayakoa を持つ良血の開花と言えましょうか。

続いて第8レースはアップルトン・ステークス Appleton S (芝GⅢ、4歳上、8ハロン)。8頭立て。2対1の1番人気には、GⅠ馬で去年のBCターフ3着馬ブリリアント・スピード Brilliant Speed と前走同じコースで強い勝ち方をしたコーポレート・ジャングル Corporate Jungle が並んでいました。
レースはエル・コモドーレ El Commodore とデサイシヴ・モーメント Decisive Moment が激しく先頭を争う流れ。2番枠から出、前半3番手の内を追走した人気の一角コーポレート・ジャングルが向正面で5番手に下げながら外に持ち出し、第4コーナーでは4頭分の外から鋭く抜け出し、追い上げる2番人気トレンド Trend を1馬身抑えて人気に応えました。更に1馬身4分の1差でモニュメント・ヒル Monument Hill が3着。ブリリアント・スピードは5着に終わっています。
チャド・ブラウン厩舎、ハヴィエル・カステラノが騎乗したコーポレート・ジャングルは、これがステークス・デビュー。先に記したように、2月18日に同じコースで行われたアローワンス戦の鮮やかな勝ちっぷりから注目を集めていました。2歳時は未出走、昨夏サラトガで3戦目に未勝利を脱しましたが、その後のシーズンは全休。これが今年復帰して3戦目の4歳馬。ジャイアンツ・コーズウェイ Giant’s Causeway 産駒の期待される芝ランナーです。

フロリダ州のオークスに相当するガルフストリーム・オークス Gulfstream Oaks (GⅡ、3歳牝、9ハロン)は第10レース。8頭が出走してきましたが、6対5の断然1番人気に支持されたグレース・ホール Grace Hall が格の違いを見せ付けて見事期待に応えています。
レースは前走で本命馬を破ったヤラ Yara の逃げで始まり、前半は3番手に付けていたグレース・ホールが3~4コーナー中間地点でこれに並び掛けると、直線では一気に先頭に立ち、後は独り舞台。2着に入った2番人気(2対1)ゾー・インプレッシヴ Zo Impressive とは6馬身半の差が付いていました。更に2馬身4分の3差で3着には人気薄の一頭ハーツ・オブ・レッド Hearts of Red の順。
これでケンタッキー・オークスに王手をかけたグレース・ホールは、アンソニー・ダトロウ師の管理馬。鞍上ハヴィエル・カステラノは2レース前のアップルトン・ステークスに続くG戦ダブルです。本来グレース・ホールはラモン・ロドリゲスのお手馬ですが、同騎手が落馬負傷で今回は乗り替わったもの。勝馬は去年のBCジュヴェナイル・フィリーズの2着馬、勝利は去年10月のデラウェア・パーク以来ですが、今シーズンのデビュー(ダヴォナ・デール・ステークス)は2着でした。一叩きしての本格化と申せましょう。

そしてメイン・イヴェントでもあるフロリダ・ダービー Florida Derby (GⅠ、3歳、9ハロン)が第11レース。ここは大波乱となりました。何しろレース前の時点では今年のケンタッキー・ダービーで本命視されているユニオン・ラグス Union Rags が圧倒的支持(2対5)にも拘わらず3着に敗退。相手と考えられていた2番人気(5対2)リズン・スター・ステークス(GⅡ)の覇者エル・パドリーノ El Padrino も4着に終わったのですから。
9頭立て。レースは離れた3番人気(7対1)に支持されていたテイク・チャージ・インディー Take Charge Indy の逃げを脇役(30対1)の1頭レヴェロン Reveron が追走、エル・パドリーノが4番手に控え、大本命グラッド・ラグスは相手はこの馬とばかり、ピタリとマークして5番手に待機する展開。
ところが2強が牽制し合ったのか、第4コーナー手前でも先行2頭の脚色衰えず、ユニオン・ラグスは漸く6番手から仕方なく最内を衝いて追い上げに掛かります。しかし直線半ばで本命馬の敗色濃厚、結局テイク・チャージ・インディーが逃げ切り勝ち。1馬身差2着にも2番手追走したレヴェロンが粘り込み、グラッド・ラグスはゴール寸前で外から追い上げたものの首差届かず3着完敗。エル・パドリーノは更に1馬身4分の3差離されての4着でした。
大ヴェテランのパトリック・バーン師がタンパ・ベイ・ダービーをパスしてテイク・チャージ・インディーをフロリダ・ダービーに挑戦させたとき、誰もが師の判断を無謀と考えたものでした。しかしこうして結果を出されてみれば、師の同馬に対する評価が正しかったことが証明されたと言えるでしょう。7対1というオッズ以上に大きな衝撃を受けたファンにも、“オレは全然驚いてなんかいないヨ” と涼しい顔。同馬に前走で初めて騎乗したカルヴィン・ボレル騎手も大仕事をしでかしました。2歳時は4戦して1勝のみですが、アーリントン・ワシントン・フューチュリティー(GⅠ)で2着、BCジュヴェナイルでも5着していた元来実力のある馬。今シーズン初戦はエル・パドリーノの2着して、これが2戦目に当たっていました。
さてユニオン・ラグスの敗戦をどう見るか。レース前の落鉄が影響したという敗因もありますが、今年のクラシック戦線が俄かに混戦の様相を呈してきたことは間違いなさそう。勝った馬も負けた馬もこのままケンタッキーに向かうでしょうが、ユニオン・ラグスの巻き返しが成るのか、はてまたテイク・チャージ・インディーが予想以上の大物なのか・・・。

ダービーのショックが冷め遣りませんが、最終第12レースはオーキッド・ステークス Orchid S (芝GⅢ、4歳上牝、12ハロン)。芝の12ハロンはアメリカでは長距離。9頭が出走し、上位人気3頭が1~3着を独占しましたが、1番人気(6対5)に推されたキルターナ Keertana は3着、フロリダ・ダービーと同じ結果になってしまいました。
長距離を意識してかペースはスロー、3番人気(7対2)のアクサーム Aqsaam が単騎逃げ、一時は後続に10馬身以上の差を付けます。先日の日経賞を逃げ切ったエコパンチを連想させます。しかし直線半ばで終始2~3番手を進んだヒット・イット・リッチ Hit It Rich が漸くこれを捉え、半馬身抜けて優勝。大逃げを打ったアクサームが2着。本命キルターナは前半最後方、第4コーナーでも後ろから二つ目という位置から鋭く追い上げましたが、最後は頭差届かず3着に終わりました。
ヒット・イット・リッチに騎乗したハヴィエル・カステラノは、これでこの日のG戦3勝目、見事なハットトリックです。今年のデビューとなった前走スワニー・リヴァー・ステークス(芝GⅢ)は半馬身差の2着、一叩きされた効果が出たようです。勝利調教師はクロード・マゴーギー。

最後にサンタ・アニタ競馬場からサンタ・アニタ・オークス Santa Anita Oaks (GⅠ、3歳牝、8.5ハロン)。fast の馬場に僅か5頭立ての寂しいレース。人気はカリフォルニアの牝馬クラシック路線のライヴァル、前走ラス・ヴァージェネス・ステークス(GⅠ)で1・2着を争ったエデンズ・ムーン Eden’s Moon とルネーズゴットジップ Reneesgotzip が分け合っていました。前走の勝馬である前者が2対5の1番人気、2着の後者は5対2の2番人気で、他の3頭は10倍以上の人気薄。
レースは2番枠のルネーズゴットジップが先手を奪って先頭、エデンズ・ムーンが2番手でこれを追走する展開。そのまま2頭のマッチレースになるかと予想されました。ところが3番手を追走していた3番人気(12対1)のウィラ・ビー・オウサム Willa B Awesome が猛追、直線で粘るルネーズゴットジップをハナ差捉えたところがゴール。エデンズ・ムーンは1馬身半差を付けられて3着に終わりました。
勝馬を調教するウォルター・ソリス師は今年30歳、これが嬉しいGⅠ初勝利となります。何でもこの日はグァテマラにいる妹の結婚式だったそうな。家族にとっても最良の日となったようです。騎乗したマーチン・ペドローザは、前日に騎乗停止処分が明けたばかりでした。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください